報告が遅くなりましたが、9月6日に開催した「いのち・未来うべ 第3回総会」で、上関原発用地埋立禁止住民訴訟を会として取組むことを決定しました。
10月1日は、第4回口頭弁論です。山口地方裁判所 午前11時。
傍聴券の配布については未定です。決まり次第お知らせします。
訴訟の会全体会議が予定されています。
2014年9月20日(土)14:00 於・小郡ふれあいセンター
詳しくは、住民訴訟の会のホームページをご覧ください。
http://umetatekinshi.wix.com/juuminsoshou
さて、裁判の本格化にあたって、
「反戦情報」357号掲載の本田博利・元愛媛大学教授の論文のネット掲載の了承を編集部からいただきました。
とても、わかりやすく山口県の犯している法律違反状態を説いています。
当会の金曜日の市民学習会でもテキストとして利用しました。
広く配布・活用して裁判闘争のテコにしていただければ幸いです。
快諾をいただいた本田先生、反戦情報編集部のみなさんに感謝します。
写真は、県庁広場にて(7月25日 第4金曜日)
以下は、プレーンテキスト版です。
PDF版は、こちらにあります。
紙媒体で配布する場合は、PDF版をご利用ください。
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以下は、「反戦情報」357号より編集部の了解を得て転載しました。
●山口県知事の判断1年先送りは3重の違法
―中国電力の上関原発埋め立て免許延長申請問題―
本 田 博 利
本年2月に山口県の新知事に就任した村岡嗣政氏は、5月14日、中国電力(以下「中電」と略称)から出されていた上関原発建設予定地の公有水面埋立免許の3年間の期限延長申請に対し、来年5月15日を回答期限とする通算6度目の補足説明を求め、許可・不許可の判断を1年間先送りした。前任の山本繁太郎知事は、昨年3月議会で「延長を認めない。不許可処分することになる」との前言を翻して一転、許可・不許可の判断を1年間棚上げした挙句任期途中で死亡し、このたびの新知事の同様の判断である。この背景には、自民党が政権に復帰し、原発の新増設を否定しない地元出身の安倍晋三首相の知事選における両氏への積極的な支援があることは言うまでもない。本稿では、知事の埋立免許の延長の判断の1年先送りには3重の違法があることを、専攻する行政法の観点から明らかにする。
■埋立法は環境保全法、自然保護法■
公有水面埋立法(以下「埋立法」又は単に「法」と略称)は、90年以上前の1921(大正10)年に制定された古色蒼然としたカタカナの法律で、もともと憲法・地方自治・法治主義を知らない。戦前埋立法は、農地の干拓や都市の拡張に役立った(「軍都」広島は埋立てで発展。宇品、江波、観音のデルタ地先の海を軍港や軍事工場に変え、原爆が落とされた)。戦後埋立法は「平和的に国土を拡張する方法」として活用された。高度成長期にはコンビナートの林立で深刻な自然破壊や公害被害を引き起こし、「公害列島」の諸悪の根源をなした。1973(昭和48)年に、埋立法は制定50年を経て初の大改正をみた。「48年法改正」である。これにより、埋立法は従来の「埋立推進法」から「埋立抑制法」へと大転換を遂げ、日本最初の環境影響評価(アセスメント)の義務付けも導入されて先駆的な「環境保全法」「自然保護法」へと脱皮した。
■海は知事が信託を受けた県民のもの■
地方分権改革により機関委任事務が廃止され、知事は国の機関、つまり手足(しもべ)の地位から解放されて、国と自治体は法律上対等な関係となった。知事は、従来の国の立場から埋立免許を与えるのではなく、県民から海の良好な管理を「信託」された自治体の長として、自主的・自律的な埋立行政を行えるようになった。米軍岩国基地の滑走路沖合移設のための埋立変更承認の取消しを求める通称「海の裁判」で、被告山口県(担当は港湾課)は、「国(中国四国防衛局)が承認を受けて行う埋立ては違法のし放題でも原状回復義務なし」という法治国家を無視した無茶苦茶な主張を行って、昨年11月の広島高裁判決で全面的に否定された(拙稿「岩国 海の裁判 山の裁判」広島ジャーナリスト16号)。この県の主張のベースは、「行政性善説」(国・行政は悪=違法をなし得ない)、「国家所有万能説」(海は無主物。国の所有に属し独占的に支配)である。このたびの埋立免許の延長問題において、県民から共有財産である海の管理を信託されている知事が、一企業にすぎない中電の免許の存続に手を貸していることは、いまだこうした”ドグマ”を信じ込んでいることによる。
埋立「免許」の法的性質は、「埋立てをなす権利の設定」(行政法学上の「特許」)であり、特定の者に本来公共物である海を埋める排他的・独占的権利を与える。公共性が高く陸地部に土地を求めることができない事業のみに例外的に認められる。免許を受けた「埋立権者」は、指定された期限内に指定の海面を陸地化する造成工事を行い、完成すれば「竣功」認可を受けて土地の所有権を取得する。工事の期間は無期限ではない。知事が指定した期日までに工事を着工・完了しなければならず、何もせずに期限が過ぎれば免許は「失効」して消滅する。元の県民の海に戻るのである。上関の海ももちろん同様で、免許を受けたからといって、未来永劫中電の独占物ではない。原発だけが海の利用ではない。指定期間内に工事が終わらなければ退場してもらわなければならない。
〔違法1〕32日の標準処理期間は「内規」ではない、行政手続法違反
行政手続法9条は、国民の申請を「握りつぶし」にさせないため、行政に「標準処理期間」の設定・公表を義務付けている。マスコミはこの定めを「内規」と報道することが多いが、正確ではない。法は行政に”目安“とされる処理期間内にキチンと事務処理を終えるよう義務付けており、国民の命令なのである。内規は知事の職員に対する職務上の命令にすぎない。
標準処理期間は、窓口の形式審査での補正(記載事項や添付書類の不備)に要する日時は控除できる。手続法に則って県が公表している「標準処理期間一覧表」は、「公有水面埋立の出願事項の変更の許可」に要する日時として、出先経由機関での形式審査が5日、本庁港湾課での審査が27日、計32日と定めている。例外として国の認可が必要な場合は延長を認められるが、申請者との“やりとり”に要する期間については例外は認めていない。つまり、申請者への文書による照会など“やりとり”の一切(ヒアリング、電話、メール等)については32日間の期間内に行わなければならず、32日間プラスアルファではない。中電の延長申請は期限切れギリギリの2012年10月5日になされた。県はこの日から32日間程度を“目安”に、中電との“やりとり”を含めて審査を行い、許可又は不許可の処分を下す法的義務がある。
県の港湾課が標準処理期間を「律儀」に守った事例が、「海の裁判」で争われている誘導路の新設のための国の承認変更申請である。県は2008年1月8日の国の申請を受け、32日の標準処理期間内の2月12日に承認した。この承認は、住民への縦覧など法が定める住民参加手続抜きに、しかも航空機騒音予測(コンター)などの杜撰なスピード審査で変更を承認した「超法規」措置であったが、かたちのうえでは標準処理期間は遵守された。国との”やりとり”も、この期間内に行われ、申請書の修正、差し替えまでなされた(拙著『基地イワクニの行政法問題』179頁以下、成文堂、2012年8月発行)。同じ港湾課での事務処理がこうも違っているのである。
そもそも行政への申請は、通常事前の協議や指導(根回し)により、両者の調整が整ってからなされる。申請時にはすでに内容が双方疑問の余地なきにまで固まっており、正式に申請されればすみやかに決裁の手続に入るのが通常である。3・11福島原発事故以後、期限延長の申請まで1年半もの時間があり、県・中電ともエネルギー基本計画との整合性の検討は十分できた。中電が回答期限内に十分な説明できなければ照会を打ち切り、提出された資料のみに基づいて判断しなければならない。説明が尽くされていなければ不許可とせざるを得ない。その結果、免許は失効する。中電は、本年4月に改定された新エネルギー基本計画をベースに改めて申請すればよい。
知事は来年5月までの1年間、何に基づき何を審査して時間を稼ぐのか県民に説明する責任がある。もちろん、これまでの県と中電との“やりとり”も「先送り」を認めた証拠として明らかにしていただきたい。
以上のとおり、両知事が通算2年半以上の長きにわたり判断を先送りするのは、明白に「不当に長期にわたり」標準処理期間をオーバーするもので行政手続法違反であり、「不作為の違法確認」や「(仮の)不許可の義務付け」などの行政訴訟も可能である。
〔違法2〕期限延長は「正当な理由」なし、「他事考慮」で埋立法違反
中電の埋立期間延長申請は、反対住民の抗議行動を招いて工事が進ちょくしなかった対応の不手際がそもそもの原因であり、いわば「身から出たサビ」である。しかも中電は反対する住民4人を相手取って「スラップ(恫喝・嫌がらせ)訴訟」(4800万円の損害賠償請求)を提起するなど、法的な措置も尽くしている。福島原発事故が発生しようとしまいと、期間内での埋立完了は不可能であった。そこで中電は、福島原発事故前の免許=「古証文」を殺すことなく、延長の許可をとって原発建設のための埋立てをやり通そうとしている。中電の期限延長の駆け込み申請は、福島原発事故をこれ幸いの“奇貨”とし、見直されることとなった新エネルギー基本計画との整合性を理由に延命を図ったものに他ならない。したがって、中電の延長申請は、その動機・内容において合理的理由がなく、知事は即刻不許可とすべきである。そもそも工事自体全く進ちょくしておらず、不許可としても何ら補償の問題は生じない。
法律論を述べれば、埋立免許期間の延長について、法13条の2は知事は「正当ノ事由(理由)」があれば、期間の伸長(延長)を許可できる旨定めるが、「正当な理由」については何も具体的に規定していない。実務において常に参照される『港湾行政の概要』は、「社会的・経済的な条件の変化」や「気象・海象の変化」が「正当な理由」に当たるとしている。すなわち、急激なインフレによって工事費や労賃が上がって工事が続行できない(石油ショック当時がその例)、大地震で護岸工事が崩れたり、巨大台風が何度も襲来して工事が中断されっ放しになるなど、「埋立権者の責めに帰すのが酷」である場合のみ例外的に延長が認められる。この例示は妥当である。
したがって、中電がこのような「自らの責めに帰せば酷である事情」に該当することを立証=合理的な理由の提示ができなければ、知事は延長を許可してはならない。もし、知事がこのような工事実施上の不可抗力以外の要素を考慮して判断すれば、「他事考慮」(考慮すべきことを考慮せず、考慮すべきでないことを考慮する)であり、「裁量権の濫用」として違法・無効である(行政事件訴訟法30条)。ちなみに期間延長申請のために必要な法定の書類は、資金調達の計算書がメインである(規則7条2項4号)。これは工事を続行する意思と能力を審査するものであり、それ以外の書類は審査対象外である。県が回答を求めた補足説明がまさにそれに当たる。法定の書類以外に基づいて期限延長の可否の審査を行えば、他事考慮として明白に裁量権の乱用=違法・無効となり、現在争われている免許の取消訴訟においても、次の〔違法3〕とともに違法事由として主張することができる。
〔違法3〕新エネルギー計画は破綻、免許基準に適合せず埋立法違反
4月11日付けの中電の回答書が「国はエネルギー基本計画で原子力を重要なベースロード電源とした。エネルギーミックスの構築などで上関原発も当然に位置付けられると認識している」と主張したのに対し、知事は「中電から一定の説明はあったが、許可、不許可を判断できる十分な材料がなかった」と述べ、判断を1年先送りした(5月15日付け中国新聞)。この中電の回答は、同日閣議決定された「新エネルギー基本計画」を中電なりに読み込んだうえでなされたものである。基本計画では再稼働による原発利用を明記する一方、上関原発などの新増設には触れていない。全電源に占める再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱、水力、バイオ)の比率は欄外の脚注扱いである。
ここで焦点となっている新エネルギー基本計画との整合性は、〔違法2〕で論じた期限延長=行政法上の「附款」(免許という特許処分「本体」に付加される従たる意思表示)のひとつの「期限」の問題ではなく、免許「本体」の埋立法4条に定める免許基準への適合性の問題である。このことは、県の審査結果(2008年10月22日付け「上関電源計画に係る公有水面埋立免許願書に関する審査結果について」)において、法4条の免許基準への適合要件である「⑧埋立ての必要性等他の要素も総合的に勘案して審査されていること」について、「原子力発電の必要性については、国のエネルギー政策において重要な位置づけがなされている」と認定していることからも明らかである。
埋立ての免許申請書は願書本体と添付書類からなるが、審査において最もポイントとなるのが後者のうち「埋立必要理由書」の妥当性である。実務において真っ先に参照される『公有水面埋立実務便覧』によれば、理由書は少なくとも①埋立ての動機、②埋立ての時期、③埋立ての場所、④埋立ての施行主体、⑤埋立ての規模、⑥埋立ての効果の項目に合致しなければならない。これらの審査事項は、貴重な海をつぶしてまで陸地にするのであるから、申請者に対して不要・不急の埋立てを排除し、規模も必要最小限で、かつその効果をデメリットも含めて明らかにするよう求めるもので、48年法改正により「埋立抑制法」に転じた埋立法の理念を踏まえた妥当な基準である。
中電の「埋立必要理由書」は、①2007年3月に閣議決定されたエネルギー基本計画において、エネルギー源ごとに供給安定性、環境適合性、経済性等を評価し、最適な組み合わせを図ることが必要であるとされている、②国の方針において、長期的なエネルギーの安定供給確保、地球環境問題への対応、経済性の観点から、設備構成比で原子力、石炭、その他(石油、ガス、水力)をほぼ同程度ずつ保有すること(電源構成のベストミックス)を目指し、電力多様化を推進している、③原子力発電を推進することは、長期的なエネルギーの安定供給確保、二酸化炭素排出量抑制など、エネルギー政策基本法に示された公益的課題の解決にも寄与することを強調し、上記審査事項をクリアして免許を受けている。
中電は、埋立ての必要性を当時のエネルギー基本計画との適合性に求め、免許を得た。しかし、福島原発事故以後は従来どおりの説明はもちろん通らない。「新エネルギー基本計画」には原発の新増設の方針は盛り込まれなかった。新旧のエネルギー基本計画においてギャップ(断絶)が厳に存在することは、吉岡斉教授(九州大学副学長)が本誌前号の「新しいエネルギー基本計画」で詳細に説かれているとおりであり、以下に見る。
吉岡教授によれば、従来のエネルギー基本計画では“判で押したように”安定供給(energy security)、環境負荷(environment)、経済性(economy)という3つの基準「3E」に照らして、原子力は優れているという理由が挙げられていた。中電の埋立必要理由書の記載も、本計画の忠実な“コピー”であることは先に見たとおりである。しかし吉岡教授によれば、この3Eの最大の欠陥は、それらの上位に立つ基準としての「過酷核被害からの安全保障」を無視してきたことであり、しかも福島原発事故により原発が優れているとされてきた3Eのいずれも、実証的な証拠により明確に否定され、計画は破綻してしまったのである。
同じく吉岡教授によれば、このたびの新エネルギー基本計画は4番目の基準として安全性(safety)を加えて3EプラスSを基本的視点としたが、長期エネルギー需給見通しや政策課題(政策目標)の優先順位、つまり原発の”将来像”は示しておらず、原発事業の将来の存続が保証されたわけではない。原発事業の量的拡大=新増設は、福島原発事故によりほぼ不可能になったと関係者は判断していると思われるとされる。
新エネルギー基本計画に原発の「新増設」の明文化が断念されたこと自体、国、電力会社とも今後の建設推進に何ら積極的・合理的な位置づけが不可能であることを自認せざるを得なかったのである。ここに至って知事は、仮設に仮説を重ねた補足説明の要請を即打ち切り、免許の「本体」自体が「違法状態」となったので延長申請を不許可とすべきである。そもそも本件免許は、2011年6月に当時の二井関成知事が、免許延長を現状では認めない考えを表明した時点で、2012年10月の免許の期限切れ=「失効」を待つことなく、自らの職権により公益上の理由から積極的に取り消す(行政法でいう「撤回」)べきであった〔追記参照〕。これは、中電に法律上の瑕疵、すなわち落ち度があるためではなく、新たな事情、すなわち福島原発事故の発生とそれによる従来のエネルギー基本計画の継続困難によって、県益・県民益に鑑みて従来の免許を維持できない、すなわち免許が維持できないことが明白となったためである。このままずるずると県民の海を”蛇の生殺し“よろしく宙ぶらりんにしておくことは許されない。即刻元の県民の海に戻すべきであり、現知事にはこの選択肢しかない。
吉岡教授が述べるとおり、「国民世論の多数派は将来の原発ゼロを支持している」。本年4月3日に函館市は、国と電源開発を相手取って対岸の青森県大間町に建設中の大間原発の建設中止や原子炉設置許可の取消しを求めて東京地裁に提訴した。さらに5月21日に福井地裁(樋口英明裁判長)は大飯原発から250キロメートル圏内に居住する住民が再稼働差止請求を求めた裁判で、差止めを認める画期的な判決を下した。本判決において、前記3E+Sの基準や原発神話のすべて(安全神話、経済神話、環境神話)は全て明快に斥けられている。
最後に、3重の違法に新たに4つ目の違法が加わった。「中電回答全て黒塗り」の5月27日付けの写真入り中国新聞記事に驚いた読者も多いと思われる。同社が中電の5度目の回答文書を開示請求したところ、「開示すると法人に不利益を与える恐れがある上、県や国の意思形成に著しい支障が生じる恐れがある」というのがその理由である。しかし、この非開示理由は情報公開法制の解釈や最高裁判例に照らして通るはずがない。これはただの条文の引き写しで、単なる「恐れ」では足りず具体的な不利益の中味や支障の形態を述べていないためである。
〔追記〕筆者が別途開示請求して入手した二井知事時代の国土交通省との協議で、国は「現段階において何らかの方針を出すならば、埋立免許権者の立場のみで判断をすることは困難であり、地方公共団体の長としての立場において判断をしていただくほかないのではないか」と示唆している。さよう、後任2知事の先送りは、法律に基づく免許権者の裁量を超えた「超法規」措置に他ならない。
(ほんだ ひろかず/元愛媛大学法文学部教授)
反戦情報編集部 〒753-0831 山口市平井395-5 T/F 083-902-3030
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