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風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

月の美しい夜のこと

2021年11月11日 17時15分15秒 | 詩集

 探しているのは
 あるがままの風ですか?
 それとも
 とこしえに変わらない
 光ですか?
 わたしはそっと尋ねました
 夜風が杉のこずえを渡ります

 あなたはじっと地面を見つめ
 野にあるものの衣の
 裾をそっと引きます
 あるがままの風を探してもいれば
 とこしえに変わらない光も探している
 あなたはつぶやくように答えました
 ひややかな夜空に
 星がひとつ流れます

 ほうぼうを訪ね
 旅から旅へ渡り歩いて探したのに
 なぜ見つからないのでしょう?
 探し方がよくないのでしょうか?
 なにかを間違っているのでしょうか?
 わたしはあなたを信じて
 ついてゆくだけですが
 わたしはあなたに言いました
 夜の鳥がどこかで羽ばたきます

 かんたんに見つかるものなら
 そもそも探しには行かない
 あるがままの風も
 とこしえに変わらない光も
 一生かけて探すものさ
 それだけの意味はあるのだから
 あなたは口もとに笑みを浮かべます
 焚火が静かにはぜ
 火の粉が舞い上がります
 月の美しい夜のことでした

夕暮れが輝くように

2021年09月15日 16時40分15秒 | 詩集

 オレンジ色のやさしい光が
 改札口へ差し込む
 家路を急ぐ人たち
 わたしはあなたの帰りを
 待っている

 こんなふうに駅まで
 あなたを迎えにくるのは
 ほんとうに久しぶり
 あわただしい時の狭間で
 神様が手配してくださった
 つかのまのデートです

 あなたは
 小走りで改札を抜けてくる
 髪がくしゃくしゃになっているのは
 いつもの癖で
 考えごとをするときに
 かきまわしたからでしょう

 あなたとの暮らして初めて知った
 愛するよろこび
 愛されるよろこび
 人生は祝福に満ちたものだと
 あなたが教えてくれた
 ふたりで過ごすなにげない時間が
 とても愛おしくて

 手をつないで歩く帰り道
 大きな空に大きな夕焼け
 きれいだね
 あなたは目を細めてささやきます
 この空の下に生まれてきてよかった
 あなたと出会えてよかった

 夕暮れが輝くように
 あなたとふたり
 生きてゆきます

白髪のシンガー

2021年09月01日 06時45分00秒 | 詩集

 背筋を伸ばした
 白髪のシンガー
 老いた頰に
 穏やかな微笑みを浮かべて
 手を振り上げる

 白いワイシャツ
 洒落たベスト
 スポットライトに
 汗をにじませる
 変わらない力強い歌声

 初めてあなたの歌を聴いて
 胸が震えたあの日
 生きることは
 はるかな夢を追うことだと
 生きることは
 燃え続けることだと
 教えてくれた

 忘れかけていた
 あなたのメッセージ
 いつしか時が過ぎて
 僕は変わってしまったけど
 あなたの呼びかけは
 あの頃と変わらない
 ただそれが嬉しくて

 背筋を伸ばした
 白髪のシンガー
 老いた頰に刻んだ皺は
 あなたが過ごした人生
 心を削り
 作り上げた歌

朝のヒゲ剃りといってきます

2021年08月17日 05時45分45秒 | 詩集

 シャボンを泡だてて
 たっぷりと顔に塗り
 ヒゲを剃る
 君は後ろから
 鏡を覗き込む
「がんばって働くのよ。
 私のために、
 稼いできてね」
 目を細め
 嬉しそうに
 ほゝえみながら
 君がささやく

 たいした稼ぎでもないのに
 期待する君
 まあ
 ちょっくら
 がんばってみるか
 朝の眠気が
 シャンとしたりして

 狭い家だけど
 倖せはここにある
 倖せがここにある


 顔を洗って
 タオルで拭き取る
 さっぱりしたのか
 よくわからない
 年相応にくたびれた顔
「きれいにするのよ。
 きれいにすれば、
 ラッキーがくるのよ」
 君は目を細め
 嬉しそうに
 青い肌水を
 僕の頬に塗りたくる

 君と出会えて
 僕は十分にラッキーだから
 これ以上
 望むものはなにもない
 さはさりながら
 僕が
 この家の大黒柱だと
 気合を入れて
 自分に言い聞かせたりして

 狭い家だけど
 倖せはここにある
 倖せがここにある

 きれいになった頰に
 キスをおくれよ
 いってきま〜す

We realize it might be a big trap in summer

2021年07月12日 06時15分30秒 | 詩集

 仕組まれた罠
 透明なアクリルボードに
 隔てられた夏
 叩いても
 叫んでも
 声は届かない

 慣れるべきではないことに
 すこしずつ慣れてゆく
 焦げつく熱気
 肌を刺す陽射し
 頰を流れる汗
 マスクの息苦しさは
 漠然とした不安に等しく

 仕組まれた罠のなかで
 人は生きるしかないのなら
 心のなかで詫びながら
 踏み絵を踏まずには
 生きられないのなら
 今のわたしにできることは
 希望の灯を絶やさないこと
 未来はなくても
 希望だけがあればいい

 閉じ込められた夏に
 憂鬱にまどろむ夢の
 肩を叩いて
 起きていなさい
 目覚めていなさいと
 語りかける

 このまま
 永遠の悪夢の眠りに
 ついてしまわないように
 このまま
 心を
 売り渡してしまわないように

鉄橋を渡る

2021年06月14日 06時35分36秒 | 詩集


 開け放った窓
 吹き込む風
 ざらついた陽の光
 列車は鉄橋を渡る

 レールを踏む音
 鉄橋の軋み
 絶え間ない川の流れ
 列車は揺れる

 河原で遊ぶ子供たち
 川を泳ぐ少年
 釣竿を投げる人の影
 列車は鉄橋を渡る

  ひび割れた青空に
  映った悲しみ
  理不尽は己(おの)が心
  不条理は己が心
  捨てられた未来
  永遠はあるか

  焼けきった愛
  何も受けつけない
  渇いた魂
  生命(いのち)の水に見放され
  永遠は遥か

 終着駅までの
 束の間の休息
 列車を降りれば
 また行き先に途惑う

 道標は
 初めからなかったのか
 どこへも
 たどり着けないのか
 漠然とした不安
 叫びたい想い

 風が頰を撲(う)つ
 永遠は見えず
 時を軋ませて
 列車は鉄橋を渡る

ほうき星に乗った時間採り

2021年05月20日 06時15分15秒 | 詩集

 ほうき星に乗って
 晴れた宇宙を滑ります
 さわやかないい気分
 宝石を散りばめたような星々
 そのあいだをすり抜けながら
 大きな虫取り網を振り回して
 宇宙の風を捉えます

 宇宙の風には
 時間のかけらがまざっています
 金平糖のような小さな粒です
 虫取り網ですこしずつ
 時間のかけらを集めます
 花の香りに似た
 甘い匂いが漂います

 網の底にたまった
 時間のかけらが
 きらきらと輝きました
 誰のものでもない
 時間のかけら
 独り占めにできない
 時間のかけら
 科学者は有限だといい
 宗教家は無限だといいます
 真実はどちらでしょうか?

 僕はただ集めたいだけです
 時間のかけらを部屋の壁に飾り
 そのあたたかい光のなかで
 昔の小説を読んだり
 チェロを弾いたりしていると
 気分がそっと安らぎます
 ただそれだけです

 今日も僕はいつものように
 ほうき星に乗りながら
 宇宙の風を捉えます
 時間のかけらを集めます
 明日も宇宙が
 いいお天気でありますように
 すこしずつでいいから
 しあわせになれますように

七色の天使

2021年05月10日 06時15分15秒 | 詩集

 七色の天使が翔んでいる
 愛らしい翼を広げ
 黄金色の光を曳ひいて
 星の眠る夜空をゆっくりと
 たゆたうような
 たわむれているような

 七色の天使が語っている
 夜をくぐり抜ければ
 そこは明日
 明日以外にはたどり着かない
 人が生きるのには意味があって
 希望がいつも寄り添っている

 七色の天使が歌っている
 月の光を見てごらん
 闇に浮かぶ灯りを見てごらん
 宇宙のなかに
 完全な闇なんてないのよ
 人がもし暗闇へ落ちるとしたら
 それは自ら心を閉ざす時

 七色の天使がウインクする
 翼を傾かせ
 くるりと向きを変え
 明日で会いましょう
 明日で愛し合いましょう
 七色の天使はくすくす笑い
 夜の向こうへ翔んでいった

信じたい嘘

2021年04月02日 12時00分30秒 | 詩集

 信じたい嘘
 信じたくないほんとう
 信じたい噂
 信じたくないほんとう

 からくりを繋ぎ合わせて
 人は生きる
 嘘を信じないでは生きられない
 噂を信じないでは生きられない

 からくりの神に跪き
 嘘に嘘を塗り重ね
 噂のバージョンアップにいそしみ
 ふっと気がつけば
 がんじがらめの自縄自縛
 嘘や噂に操られる
 哀れなマリオネット

 欺瞞が自己増床すれば
 真実はボロボロになる
 嘘で膨らませた嘘を信じているうちは
 愛にたどり着かないのに
 人はいつまで偽りにしがみつくのか
 嘘はいらないと言うことから
 ほんとうの人生は始まる

 信じたい嘘
 信じたくないほんとう
 信じたい噂
 信じたくないほんとう

陽射しから生まれた

2021年03月08日 06時15分50秒 | 詩集

 お幸せにと風が吹く
 若葉に囲まれた
 古い教会
 花嫁衣装の君が出てきた

 新郎と腕を組んだ花嫁は
 美しいほゝえみ
 輝くひとみ
 ふたりをつつむように
 鐘が鳴る

 お幸せにと舞い上がる
 ライスシャワー
 きらきらと光を浴びて
 花嫁が投げたブーケの花束
 祝福のバトンは誰の手に

  あたたかい陽射しから
  人は生まれてきた
  人の胸には
  生まれながらに
  愛の種子が宿っている

  愛は愛を探し
  愛は愛に出会い
  愛が愛を育み
  人はしあわせになる
  ふたりだけの旅路

 お幸せにと風が吹く
 お幸せにと風が去る

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