崖っぷちロー

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漫画・同人誌電子化スペース「自炊の森」問題1

2010-12-30 16:23:13 | ニュース系
 2010年12月27日にプレオープンした「自炊の森」 という店がネット上で話題となっている。同店は、紙媒体のマンガ単行本や同人誌などを電子化するいわゆる「自炊」の場を利用者に提供するサービスを行うという。

 これに対しては、従来の「自炊」は一個人が自分の蔵書を自宅で電子化することを指していたのであり、公の場で店舗側から書籍を借りて電子化するのは「自炊」といえないのではないか、法的にあるいは道徳的に問題があるのではないか等の点で批判が集まっている。
 参照:店内の漫画を「自炊」するレンタルスペースが仮オープン、裁断済み書籍を提供、ネット上は懸念の声多数


0.要旨
 1)解釈と事実認定により著作権法上合法であるとも違法であるとも言える。
 2)「自炊の森」モデルは利用者から見て無駄が多く、著作権者等に対する打撃も小さい。
 3)むしろ重要なのはWEB上での違法なファイルの共有への対抗策を考えること。
 4)違法なファイル共有に対抗できれば、「自炊の森」モデルにも対抗できる。
 5)赤松健が主導する「Jコミ」が有力な対抗策の一つである。

1.基本構造
 この「自炊の森」のサービスについては、「私的使用のための複製(著作権法30条)には該当しない違法なサービスであることは明白である」といった意見が散見される。しかし、これはそこまで単純な問題ではない。

 前提として、同店で提供されるコミック・同人誌は著作物(美術著作物、10条1項4号)であり、それぞれの漫画家が著作者・著作権者である。著作権には複製権(21条)が含まれており、著作物たるコミック等を複製することは複製権の侵害になる可能性がある(無許諾という前提)。
 
 対して、著作権法は著作権を制限する規定を設けている。30条1項により、「私的使用」目的の場合には適法に著作物の複製をすることができる。しかしながら、30条1項は同時に例外も設けており、公衆の使用に供することを目的として設置された自動複製機器を使って複製した場合(30条1項1号)は、違法となる。また自動複製機器を使用させた側は119条2項2号。
 ただし、附則5条の2により、「自動複製機器」には専ら文書又は図画の複製に供するものは含まれないとされており、コピー機やスキャナなどはこれによって適法となる。

 とすると、今回問題となっている「自炊の森」も、スキャナによる複製であるから、附則5条の2によってその行為は適法であるということになるはずである。当然、「自炊の森」経営側は、この論理で自らの行為が合法であると主張している。

 コンプライアンス的には、店内の書籍を利用者が店内で自分の体を使って複製する事については、問題無いという認識です。
 参照:http://twitter.com/#!/jisuinomori/status/19078686099644417
    http://twitter.com/#!/jisuinomori/status/19079066845974528

 原則:21条で複製権侵害で違法
 例外:30条で私的使用目的の複製は合法
 その例外:30条1項1号で自動複製機器による複製は違法
 その例外:附則5条の2でスキャナによる複製は合法

2.カラオケ法理
 しかし、上記の論理は、あくまでも複製の主体は個々の利用者であると考えた場合の論理である。著作権法の解釈では、演奏権等が問題なった事例を中心に、著作権侵害の主体を規範的に捉えて侵害主体の範囲を拡張するという論理がある。
 これが俗にいう「カラオケ法理」である。「管理・支配」性と「利益の帰属」性を要件として、それが満たされた場合には、現実に歌唱(侵害行為)を行っている利用者とは別にカラオケ店等の経営者を歌唱(演奏)の主体として捉えるというものである。
 この法理を更に推し進めて今回の問題にも持ってくるのであれば、現実に複製行為を行う個々の利用者とは別に、「自炊の森」経営者を複製行為(複製権侵害)の主体として捉える余地があるということになる。

小倉秀夫弁護士や福井健策弁護士もこの点を問題としている。
参照:Togetter「自炊の森」問題に関する専門家の見解
    

@Hideo_Ogura 小倉秀夫 (HIDEO OGURA)
唯一の争点はそこだと思っているのですが。そこで館内コピー論争が出てきます。RT @mohno: 自炊の森にはカラオケ法理を適用できる可能性があるということですか?

参照:http://twitter.com/#!/Hideo_Ogura/status/19955050478571521

@fukuikensaku 福井健策 FUKUI, Kensaku
ただ、貸与でないというならお店側が裁断本を管理していることになり、そこが書店店頭のスキャン機材と違う。機材も本もお店の管理下でお客にスキャンだけさせて料金を取るとなると、お客に歌わせるカラオケ店の商売と似るか。 自炊スペース http://bit.ly/heJqgw

参照:http://twitter.com/#!/fukuikensaku/status/20008728493293568


 ここで、小倉弁護士のツイートに「館内コピー論争」という言葉が出てきている。これは図書館内で利用者がコピー機を使って複製をする行為をどう捉えるかという問題である。一方で利用者が図書館による管理を離れて主体的に複製する場合には30条の要件を満たせばそれによって適法になるという見解であり、他方で図書館においては31条が優先するという見解がある。結論としては前者の見解でいいのではないかと思う。

 更に、31条で図書館が複製の主体となるにはどの程度の実体が必要かという問題もある。図書館の主体性の認定と、カラオケ法理による「自炊の森」経営者の主体性の認定とをどのように整合させるかが問題になるだろう。
 
 複製による電子化を直接の目的とした店舗であること、複製を強く勧誘していること、店頭に在庫してある本は予めスキャンしやすい様に裁断済みであることなどの、図書館内でのコピーとは異なる事情をどこまで斟酌するかによって結論も変ってくるのではないかと思う。

 なお、小倉弁護士は比較対象としてコンビニ内のコピー機も上げておられるが、これは「管理・支配」性の点でかなり大きな違いがあるのではないかと思う。

次>>漫画・同人誌電子化スペース「自炊の森」問題2


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