異変(二)
陽光に浮き上がった鮮やかな血の色は、この惨劇の起こって間も無いことを報せていた。
附に落ちない事に、これ程の事が起こっているのに、集落が静まり返っていることである。
この事は、八之進に躊躇無く次の行動を起こさせた。
辺りに注意を払いながら、集落の様子を見て回った。
どの家も似たような状況を呈しており、集落全体が凄惨な血の海と化していた。
八之進は本能的にここに長くいることの危険を思い、また起こったことの理解の為に時間が欲しかった。
集落の入り口に在った漁具小屋に引き返し、身を潜めると改めて早鐘のように高鳴る胸の鼓動を感じた。
「一体、何があったのだろう・・」
少なくとも、十二、三人が惨殺されているのだ。そして殆ど一太刀か二太刀で殺害されている。
逃げる間もなく家の中で惨劇が起こっていることから考えれば、それぞれの家を一斉に襲ったもので、組織された者の仕業にみえる。
侍とは云え、太平の世に馴れた八之進には、此れほどの凄惨さは、吐き気と共に身震いを起させるものであった。
ここは、多久島藩の中でも周辺部の島嶼地域である。漁業で生計を立てているであろう、ありふれた集落のようである。
八之進には、東シナ海を根城とする海賊達の仕業ではないかとしか推量できなかった。
それにしては家の中が荒らされた様子も無く、何より村人全員の殺戮とはあまりの狼藉ではないか。
八之進には理解できるものではなかった。