エッセイでも小説でもルポでも嘘でもなんでも書きます
無名藝人




西の空が橙色になるころ、山道の、広い谷間に田園が見下ろせるあたりで車を降り、風景を眺めながら眠気覚ましをしていたら、後ろから一羽の鳥が、頭のはるか上を通り過ぎて谷へと降りて行き、中空で輪を描きはじめた。
かなり大きな鳥だ。鷲くらいはあるように見える。距離感がよくつかめないので、ひょっとしたら、もっと大きいかもしれない。いや、たしかに大きい。小型の飛行機くらいはありそうだ。そんな巨鳥が日本にいたのか。しかも鷲の類いじゃない。見かけがまるっきり違う。あれは、雀とか目白とか、そういう小型の鳥の体型だ。途方もなく大きな雀が、橙色に染まって、田園の上空を舞っている。
すっかり目が覚めた私は、巨大雀をもっと近くで見たくなって、その注意を惹こうと大声で呼びかけた。
「おうい、もっとこっちに来いよー」
そして大きく手招きしたら、鳥が手に当たって足許に落ちた。なんだ、ずいぶん近くにいたんだな。またやけに小さな鳥じゃないか。手の平に乗せてよく見た。ミツバチより少し大きいくらいだろうか。こんな小さな鳥が日本にいたのか。
落ちた拍子にどこか痛めたのか、手の上でしばらく羽をバタつかせていたので心配したが、じきに飛び立った。
ところが、羽ばたいてはいるものの、ちっとも離れて行かない。しきりにホバリングしている。なんだか大変そうだから支えてやろうと思って、手に乗せようとしたら手が届かない。すでに飛び去っているのだ。遠ざかりながら、だんだん大きくなっているので、大きさが変らないように見えるのだ。

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