エッセイでも小説でもルポでも嘘でもなんでも書きます
無名藝人




 Twitterで「“ステマ”ってなんなのか教えてちゃぶ台」というツイートをしたら、それに対して知らない人から「ggrks」という返信があったが、その意味が分からない。
 orz みたいなものかと思って眼が血走るほど ggrks を見つめるも何のイメージも浮かばない。そこで「ggrks ってなに?」と聞き返すと、また、「ggrks」が返ってきた。
 ははぁそうか。「ちゃぶ台」を巧みに用いた、エスプリの香り馥郁たる私のツイートにマジレスなんかして野暮な奴だと思われないよう、私を上回る高度なエスプリで対抗しようとしてるのだなと判断した私は、然らばお相手つかまつると、さらに馥郁たるツイートで返した。

「なるほど。略語だったんですね。ス・テ・マの頭文字を並べるとggrks。気がつかなかったなあ」

 私の盤石のツイートには歯が立たないと恐れをなしたのか、それに対する返信はなかった。結局「ステマ」が何なのか分からなかったので、仕方がないからググってみると、「ステルスマーケティング」の略だということが分かって一段落したが、ステルスマーケティングがどういうものなのかまでは、面倒なので調べなかった。
 ついでに「ggrks」もググってみたら、「ググれカス」の略語だということだった。つまり知りたいことがあるのなら人に聞く前にGoogleで検索して調べろ、このカス! という意味だったのだ。私は嬉しくなって、ggrks と書き込んでくれた人に「やっと意味が分かりました。つまり私はカスだっ……」と書いたところで猛烈に腹が立った。

 私がカスだと! この私が。守銭奴で好色漢、地位や財産のある人間にはへつらい自分より弱い者に対しては尊大にふるまう、他人の成功を妬み失敗を願う、そんな私がカス呼ばわりされるのは……しかたがないかもしれない。

 しかし、いくらなんでも「ググれカス」などという吐き捨てるような言い方はないだろう。もう少し丁寧に、
……ggtmtkdsks(ググってみてくださいカス)とか、

できれば励ましの口調で、
……ggrssrbantnsgsmtmirmngmtkrhzdsosrrktharmsnsggrmsks
(ググりさえすればあなたの探し求めているものが見つかるはずです、恐れることはありません、さあググりましょうカス)とか。

そのくらいの言い方をしてくれれば、私だって、
……ggtmmststrsmktngnktdtndsnargtgzmsornrswtmdogrstkdsks
(ググってみました。ステルスマーケティングのことだったんですね。ありがとうございます。お礼に来週、和民で奢らせてくださいカス)

といった、ウィッティな返信ができるというものだ。



 Facebookに、神戸市にある「五色塚古墳」という前方後円墳の後円にあたる部分の頂上から撮った写真をアップした。
 遠方には海が広がっていて、大きな島が浮かんでいる。その説明として「先週、五色塚古墳を見に神戸市垂水区まで行きました。遠くに写っている島は淡路島でしょうか?」と書いてアップしたら、その2秒後に ggrks が返ってきた。質問するつもりはなくて何気なく書いただけなのに、間、髪を容れずに食らいついてくる。

 どうやら、何かを問うような投稿をすると、ggrks の標的になるらしいということは分かった。
 試しにTwitterとFacebookで、「明日は雨かな?」「ミナミあたりで飲みませんか?」といった他愛ない問いかけをしてみたが、よほど神経を尖らせているのか、それともヒマなのか、ここでも ggrks がコメント欄に現れた。

 これは面白い。なんだか興が乗ったので、昔の歌謡曲の質問形式の歌詞を、記憶力の著しく衰えた脳みそで必死に思い出して投稿してやった。

 ♪神戸 泣いてどうなるのか~(「そして神戸」内山田洋とクールファイブ)
 ♪泣いた女がバカなのか だました男が悪いのか~(「東京ブルース」西田佐知子)
 ♪口紅もつけないままか~(「木綿のハンカチーフ」太田裕美)

 ついでに、「わたしは誰? ここはどこ?」「生きるべきか死すべきか?」など、世上によく知られた言葉も投稿したが、やはりすべての投稿に ggrks が出現した。

 ここで気がついたのは、ggrksのターゲットにされているのは、どうも私ひとりらしいということだった。他の人のタイムラインを見ても、ggrks は見当たらない。

 TwitterやFacebookのなかに「永吉監視センター」というのがあって、オペレーターが延べ10,000人、24時間私のタイムラインを監視していて、質問と思しき投稿を見つけると、ただちに ggrks を送信しているのではないだろうかと本気で考えてしまった。

 そこで、いつも ggrks を飛ばしてくるアカウントを見てみると、ディスプレイの中央で黄金バットのように、不敵な笑い声を発しながら仁王立ちでマントをなびかせている人物がいた。
 黄金バットと違うのは、坊主頭で肥っていて、全身がウロコで被われ、ハイヒールを履き、腰に花柄のエプロンを巻いているというところだけだった。

 何か言うのかと待っていたら、そのまま飛び去ろうとするので、私は慌ててそのマントをひっ掴んで尋ねた。

「あんた誰なんだ?」
「ググれカス」
「あんたが独りでggrksを送信してたのか?」
「ググれカス」
「なんで僕ばかりを狙うんだ?」
「ググれカス」
 
 質問形式で話をしようとすると「ググれカス」で逃げられてしまうので、聞き方を変えてみた。

「あんたがどういう人間なのか、僕に説明する義務がある」
「あたしの名前は仲嶺まど美。36歳。まだ独身だけど結婚を前提にして交際している男性がいるのよ。彼の名前はテロル大黒。どさ回りのプロレスラー」
「ggrks を送るのをやめてもらいたい」
「残念ね。結婚資金が溜まるまではやめるわけにはいかないのよ」
「だったら、僕以外の誰かをターゲットにすればいい」
「それなら可能。でも、ターゲットから逃れるには呪文を唱えないと」
「それは、どんな呪文なんだ?」
「ははは。ググれカス!」

 仲嶺まど美は飛び去って行った。私が質問をしてしまうように巧みに誘導されていたのだったが、ともかく「仲嶺まど美 呪文 テロル大黒 結婚資金」でググって呪文を見つけて唱えたら、それきり ggrks は来なくなったので、どういうわけで私がターゲットになったのか、そんなことはもうどうでもいい。


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