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無名藝人




 
 【おしらせ】

 はてなブログで連載中の『徒労捜査官』更新しました。

 第23話《権力の介入》

 毎週、月・水・金曜日に更新しています。

 以上。



 そんな番組が今でも放送されているのかどうか知らないけど(知らないんだったらググって調べろよ)、かつてNHK FMで「FMクラシックアワー」というクラシック音楽専門の番組を放送していた。

 いまも刊行されているのかどうか知らないけど(だからググれよ)、「FM fan」「FMレコパル」といったFM情報誌の番組表に、オオ、コレハと思う曲があると、赤で印をつけておいて、その曲が始まるとラジカセのRECボタンを押して「音楽用カセットテープ」に録音していたものだ。まだそんなものが市販されているのかどうかはわからないが(だからググれって!)。

 予約録音なんてのができない時代だったので、そんな原始的な方法しかなかったのだ。何卒ご容赦いただきたい。

 ちなみに、最近でもまだ使われているのかどうか知らないが(だからググれっちゅうのに)、そういう操作を「エアチェック」という用語で呼んでいた。
 エアチェックをした曲の半分はクラシック音楽で、それを録音したカセットテープは100本くらいあったと思う。いまでは、すべて断捨離ってしまったが、以下のような曲が含まれていた。

 交響曲『第1番』~『第9番』ベートーヴェン
『海』デビュシー
『未完成』シューバート
『マタイ受難曲』バーク
『水上の音楽』ハンドル
『新世界より』ドヴォラック

 ……など。

※「ベートーヴェン」が英語の発音をもとにしている(ドイツ語では“ベートホーフェン”)ので、他の作曲家の名前も、英語の発音に準じた。というか、なんだか面白いから、原語と英語の発音がかなり違う名前を意識して選んだ。

 クラシック音楽といっても幅が広いが、小学校の音楽室の壁に肖像画が貼ってあるような有名な作曲家とか、まあそんな感じの偉い人たちが作った曲だと思っていただければ結構である。

 なぜわたしがクラシック音楽をコレクションしていたのか。それは、クラシック音楽が好きだからではなくて、好きではなかったからである。好きになろうとして、せっせと集めていたのだ。

 かりそめにも芸術家を標榜する人間が、畑違いとはいえ、かのベートーヴェン芸術の神髄を感得できないというのは、ちょっとアレなのではないか、という危惧があったことは謙虚に認めよう。


 なぜ、クラシックが好きになれないのか。

 一部を除いて、クラシックの曲はなぜか心に響いてこない。どれもこれも同じように聴こえる。

 映画『2001年宇宙の旅』で、クラシックなんかわかんねえよーという木石漢にも知られるようになった、R. シュトラウスの交響曲『ツァラトゥストラはかく語りき』は、例の荘重なイントロの約2分間を除いた残り30分余を聴いても、ベートーヴェンやシューベルトとどの辺りが違うのかわからない。

 それに、一曲の演奏時間が長すぎる!

 愛好家でなくとも知っている、ラヴェルの『ボレロ』はクラシックのなかでは短い方だと思うが、それでも演奏時間が15分以上ある。
『おどるポンポコリン』が15分もあったら、あれほど売れただろうか? 

 バッハの『マタイ受難曲』などは、第一部と二部を合わせると3時間をゆうに超える。
『津軽海峡冬景色』を歌い終わるのに3時間もかかるとしたら、果たして石川さゆりは紅白に出場できただろうか?

 また、クラシックの曲は鼻歌にするのが極めてむずかしい。誰だって、鼻歌まじりでないと仕事なんかできないはずだ。
 人間は、仕事のテンポに合わせた歌を歌っていれば、どんな過酷な労働にでも耐えることができるのだ。

 ロシア民謡ではあるが『ヴォルガの舟歌』(※)は、その意味で実によくできた曲だと思う。ロシアの画家、レーピンの『ヴォルガの船曵き』(※)という絵を見ながら聴けば、それが納得できるはずである。

『ヴォルガの舟歌』 赤軍合唱団
『ヴォルガの船曵き』 I.E.レーピン

 そこで、ご存知ベートーヴェンの『運命』。

 ダダダダーン
 ダダダダーン 
 ドダダダドダダダドダダダダーン
 ドダダダドダダダドダダダダーン
 ダダダダーン
 ダダダダーン
 ダダダダ・ダ・ダーーーーーーーーー
 ダダダダーン!


 これは、仕事をしながら口ずさむのには向いていない。職場で他人に聴かれたら恥ずかしい。道で通りすがりの人に聴かれても恥ずかしい。

「ダダダダーン」と歌いながら伝票を整理している事務員を想像してみるといい。「ダダダダーン」と歌いながら客の注文を聞いているマクドナルドの店員を想像してみるといい。

「そんなときゃ、歌詞をつけてみるといいぜ」

 そう言って、須賀青洲(すがせいしゅう)さんは歌ってくれた。

 段田男~
 段田男~
 名前だけなら知ってる~
 どんな人かは知らない~
 とにかく~
 演歌の~
 歌手だそ・う・だ~~~~~~~~~~
 段田男~!


「どんな人かは知らない」という部分を聴いて、知らないのならググれよと思ったが、このシステムの素晴らしさは認めざるを得なかった。これなら仕事をしながら歌ってもサマになる。

 段田男(だんだ だん)Wikipedia

 須賀青洲さんが歌うのを聴いて、わたしは何のためらいもなく、師事したい旨を伝えた。すると彼が、

「歌舞音曲&ロケンロールを舐めちゃいねえかい? 何もかも棄てて打ち込む覚悟があるのなら、ついてきな」

 と言うので、わたしは思わずカッとなった。

「何もかもって、ムチャを言わないでくださいよ。僕には、Facebookやmixiの友達がいるんです。Twitterもやってます。Google+も。Tumblrは登録しただけです。とにかく、もうあなたにはついていけません! さようなら!」

 こうして、須賀青洲さんとの絆が永遠に失われてしまっただけでなく、わたしがクラシックを好きになる機会も永遠に失われてしまったのである。

 そんなこんなで、いまだにわたしは、チャイコフスキーの曲とメンデルスゾーンの曲は、どこが特徴的に違うのかがわからない。それは多分、苦労してクラシック音楽を録音しまくったものの、どうも興味が湧かなくてほとんど聴かなかったからだろう。

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