エッセイでも小説でもルポでも嘘でもなんでも書きます
無名藝人




私の評は、正直言って芳しくない。
というのは、この映画は事実誤認やリアリティの欠如がはなはだしいからだ。それはご愛嬌ですまされる範囲をはるかに超えて、もはや子供向けの怪獣映画のようになってしまっている。
これは「ガメラ」という獰猛なカメと少年のふれあいを描いた作品だ。動物と人間の交流を描いた映画はこれまでもたくさんあったが、鈍重な動物の代表のようなカメを主役にした作品は、私の知る限り他にない。しかし、その独自性を無にするほど致命的な欠陥が多すぎるのである。

欠陥の第一はガメラの大きさである。体長が60メートル、体重は80トンあるそうだが、現在までに発見されたカメのなかに、そんな巨大な種類はない。もしそんな、シロナガスクジラよりも大きなカメがいたら、とうに発見されているはずだ。

第二に、ガメラは空中を飛ぶことになっているが、地球の重力の大きさを考慮すると、そんな大型の動物が飛翔することはおろか、跳躍することも絶対に不可能である。いや、みずからの体重を支えきれず、歩行することもできないだろう。
まあ、体長60メートル、体幅40メートルでも、体の厚みが5ミリなら、凧の原理で浮き上がり、気流にのって空中をクラゲのように漂うことは可能かもしれないが、そんな、ぺらぺらした平ベったい生き物が、大砲や戦闘機の攻撃もはねかえし、高層ビル街を火の海にし、人々を恐怖のどん底に落とし入れるということになると、もうこれは動物と人間のふれあいを描いたヒューマンドラマなのか、怪奇映画なのか、シュールなコメディなのか、わけがわからなくなってくる。
 
第三の欠陥は、ガメラが火を吐くことだ。しかもそれは火炎放射機のような猛烈な焼夷力を持っているのだ。
しかし、ウミガメも、淡水域に生息するカメも、リクガメも火は吐かない。たまに大阪の四天王寺に行くと、そこの池にうじゃうじゃいるカメを長時間眺めていることがあるが、まだ一度も火を吐いているカメを見たことがない。もちろん飛んでいるところも見ていない。
 
『ガメラ』の新作を作るのなら、改善すべき点はたくさんある。
まず、体長はせいぜい3m以内に収めておくことだ。それ以上大きいと怪獣のようになってしまう。
また、空を飛ぶという設定と火を吐くという設定は破棄するしかない。空想映画ならともかく、どんな理由をつけても、そんな非現実的な設定では観客を納得させるのは無理だ。それに子供が観たら、カメとは空を飛ぶ動物だという誤った知識をもってしまう。
まあ、フィクションなのだから、獰猛な性格にするのはいいだろう。しかし、せいぜい家畜のニワトリを襲う程度にしておきたいものだ。カメに都市を破壊するだけの能力はないし、そもそもそんなことをしなければならない動機がない。登場人物の行動に動機が感じられないと観客がついてこられなくなるのだ。
 
『ガメラ』の次回作では、瀬戸内海の漁村を舞台に、漁師の子供が、たまたま網にかかった大ガメを少しづつ手なずけてゆくプロセスを物語りの中心にしてもらいたいものだ。
ところで、タイトルに「ガメラ」は使うべきではない。『少年とカメ』ではどうだろう。

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「ぱど」というフリーペーパーが、毎週、郵便受けに入っていて、いつもむさぼるように読んでいる。
というのは、そのなかに「地元でお仕事」という求人コーナーがあるからだが、電車の清掃とか、梱包作業とか、経験がなくてもできる仕事はけっこうあるものの、たいていは年齢で採用条件から外れてしまう。
 
困った。 
 
日本人男性の平均寿命からすると、私はあと30年ほど生きなければならないことになるが、それは断るつもりだ。どう考えても、これから私の経済状態が好転するだろうと予想できる材料が何ひとつないからだ。
周囲からは、もう人生の半分以上をクリアしているのだから、あとひと踏ん張りして生きてみては、と勧められるのだが、ひと踏ん張りで生きるには30年は長すぎる。
できるなら、今すぐにでも人生を解除したいところだが、まだ母親が生きているので、私ももう暫くは生きていなくてはならない。親より先に死んだら成仏できないと、アサヒ芸能にも書いてあった。
 
とにかく今は、一時しのぎでも、カネを稼がなければならない。仕事は見つからないが、それは人に雇ってもらおうなんて考えるからだ。元手のいらない事業主になればいいのだ。

そんなわけで、大道芸をして投げ銭をもらうことにした。
といってもジャグリングなんかできないし、歌もダンスもトークもダメだから、声態模写でもするしかない。
私のレパートリーは、田中角栄、いかりや長介、横山やすし、の三人である。

「ま、しょの~」
「だめだこりゃ」
「怒るで、しかし」

おそらく前フリを入れても、1分以内で全部終るだろう。これでは話にならないのでレパートリーを増やさなければならない。
最もナウなヤングにウケる声態模写といったら何だろう。光源氏、渋柿隊、近畿キッズ、ブイシックスあたりだろうか。
しかし集客を考えると、ナウなヤングだけでなく、あらゆる年齢層にウケるものをしなければならない。ただ、ガキにはウケなくていい。カネをもっていないからだ。
また、主婦、学生、医者、役人、セールスマン、ホステス、軍事アナリスト、魚屋など、さまざまな分野の人に人気のある人物の声態模写をマスターして客層を広げようと考えている。
以下は、これから話し方をマスターしようと思っている有名人だ。
 
・足立紘子
・谷坂ひとみ
・木戸川絵里
・内山ミキ
・李章子
・森崎瑞枝
・エミコ・グリーンバーグ
・垂ノ峰はん子

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自分は自宅で仕事をしているからエアコンが効いて快適だけど、この炎天下に外で仕事をしている人たちは大変だろうなと思いながら窓の下を見ると、雪ダルマが、うちのマンションの表玄関から入るところが見えた。
しばらくするとチャイムが鳴ったのでインターフォンに出ると、宅配便だという。ハンコをもって玄関のドアを開けたら、溶けかかった雪ダルマが紙の箱を小脇に抱えて立っていた。
人件費削減のつもりなのか知らないが雪ダルマを使うことはないだろう、しかもこの暑い時期に、とかなんとか思いながら、雪水を吸ってフレンチトーストのようにふやけた荷物を受け取ると、雪ダルマは無表情で「毎度どうも」と言って立ち去った。
毎度もなにも、雪ダルマの宅配は初めてだ。

このあいだ注文した商品だろう、と差出人も確認せずにガムテープをはがすと、ビックリ箱のように受話器が飛び出してきた。反射的にそれをキャッチすると、誰かが話している声が聞こえるので耳にあてた。
「…で、こっちに来てもらえないかな。カラープロファイルが埋め込まれてなくてさ、困っちゃって…」
 意味の分らないことを一方的にしゃべっている。
「あの、どちらにおかけですか?」
「え、村田さんじゃないの?」
「ちがいますけど」
相手は何も言わずに切ってしまった。

その電話マナーの悪さには腹が立ったが、こんな失礼な間違い電話を配達した雪ダルマにも腹が立ったので、荷物を突っ返してやろうと後を追いかけた。
しかしこの暑さだ。もうかなり溶けていたらしく、雪ダルマの通った跡が水たまりのように濡れていたので、すぐに見つかったが、そのときは、熱く焼けた舗装道路の上で、すでに頭の上半分だけになっていた。
その姿が哀れだったが、とにかく荷物は返さなければいけないので、これ違いますよといって渡すと「すいませんね」 といいながら溶けてしまった。

「やはり雪景色におけ雪ダルマ」
どこかで聞いたことのあるようなないような言葉が浮かんだ。

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