むさしの連歌会

雅な和歌の言葉で連歌を楽しむ会、一度、のぞいてみませんか?

4年振りに浄光明寺で「鎌倉連歌会」を開催しました

2023年12月09日 | 近況

鎌倉扇ヶ谷の「浄光明寺」は、藤原定家の孫で歌道冷泉家の祖となった為相卿ゆかりの名刹です。その母は、「十六夜日記」を書いた阿仏尼。この日記は阿仏尼が、家領の相続のことで幕府に訴え出るため鎌倉へ下向したときのことを書いたものです。高校で習いましたね。為相卿も、訴訟のために鎌倉に来ることが多く、やがて藤ヶ谷に居を構えて和歌・連歌を指導。鎌倉における文化の発展に貢献しました。和歌の世界では、新後撰和歌集以下の勅撰集に65首入集、家集として「藤谷和歌集」が残されているなど押しも押されもせぬ存在ですが、連歌の世界でも「藤谷式目」(現在は散逸)を著わすなど指導的な存在であったようです。二条良基とともに「菟玖波集」や「応安新式」の編纂にあずかった連歌師、救済に和歌を教えたのも為相卿でした。

むさしの連歌会は、春は猪苗代兼載のお墓がある満福寺(栃木県野木)で「古河連歌会」を、秋は浄光明寺で「鎌倉連歌会」を開催しています。コロナで中断を余儀なくされていましたが、4年ぶりの開催です。むさしの連歌会は、ふだん東京に本拠を置き、毎月第2土曜の定例日に武蔵野市の施設で集まって実座を、その間はメールによる文音で連歌を巻いています。このほかに、年2回は、少しでも関東に正風連歌を広げようと、地元の方々のご協力を得て、連歌ゆかりのお寺で連歌会を張行しているのです。今年は11月15日、浄光明寺のご住職、大三輪龍哉様のご参加も得て、第3回「冷泉為相卿追善 鎌倉連歌会」を開催しました。

当日は、ご住職が本堂に用意して下さった為相卿の霊位に、まず各々が手を合わせた後、本堂内で世吉を詠みました。むさしの連歌会では、いつも発句をコンテストで投票により選ぶのですが、今回はちょっと趣向を加えました。前もって池田南天代表が為相卿の和歌の中から一句を選び、それを本歌取りした発句を各人が提出、その上で全会員がメールで投票して決めることにしたのです。代表が選んだ為相卿の和歌は、「時雨よとなに急ぎけむもみぢ葉の千入(ちしほ)になれば秋ぞとまらぬ」。新千載和歌集にも入った名歌です。これに対し、会員の一人が付けた発句が「かぎりとて秋ぞとまらぬ谷(やつ)のいろ」でした。本歌取りの作法を踏まえつつ、浄光明寺の背後に切り立った鎌倉名物の谷(やつ)の風景、その晩秋から初冬への季節の移ろいを詠んだ素晴らしい発句です。ダントツの得票数で発句は決まり。連歌会はこれに脇を付けるところからスタートしました。

この会には、会員の古くからの友人で地元鎌倉に住む人、会員の香道の門弟など、おおぜいのお客様が参加しました。浄光明寺のご住職は、この連歌会も3回目。見事な付句を詠んで下さいましたし、他のお客様も連歌は初めてと言いながら、周囲の会員の助けを借りながら、ちゃんとよく付いた句を詠んでくれました。後で振り返って、「楽しかった」と語って下さったそうです。

この日、巻き上げることのできなかった残りは、次の定例日である12月9日の実座で詠みました。そこにも、お客様を迎えることができたのです。九州は大宰府天満宮、神縁(みゆかり)連歌会の有川宜博宗匠と宮崎由季様です。創設以来30年の先輩連歌会から来られたというので、みんな最初は緊張していたのですが、連歌の仲間はすぐに打ち解けます。午後には普段どおり軽口の応酬、後の飲み会では大いに盛り上がり再会を約するまでに至りました。

むさしの連歌会にとって、思い出に残る「鎌倉連歌会」でした。


賦何路連歌(巻98、令和5年12月9日満尾)鎌倉連歌会

2023年12月09日 | 作品集

冷泉為相卿追善 於浄光明寺

初折表    
発句 かぎりとて秋ぞとまらぬ谷のいろ 草芳 やつ
たゞつかの間もをしめ虫のね 南天  
第三 八千草の風もなびける野末にて 梅豊  
第四 荻の露こそいとゞこぼるれ 草芳  
第五 浦くれて浪路にすめる月の影 龍哉  
第六 つらつら見れどあかぬ国原 和雄  
第七 並びなき高嶺にかかる白き雲 浩朗  
第八 旅の衣も袖ゆらしつゝ 初瀬  
初折裏    
第一 春の野にうぐひすの声きこえきて 晃司  
第二 淡雪ぞ咲く庭の梅が枝 正幸  
第三 盃もめぐりの水に流れ来よ  
第四 あたたかなるか朝日さす宮 純一  
第五 遠山は赤みをおびてかゝやけり 直人  
第六 我が恋ひそめしほどのよろこび 路光  
第七 とぶらひてなごりををしむ夜もすがら 龍哉  
第八 駒かくしてよつらききぬぎぬ 南天  
第九 牧の里そことしもなく夏闌けて 和雄  
第十 扇の端にいづる三日月 梅豊 つま
第十一 みそぎしてぬさとり流す五十鈴川  
第十二 音なほ高く神風ぞ吹く 純一  
第十三 植ゑおきし花な散らしそ瑞籬に 宜博  
第十四 子らの遊べる長閑なる原 由季  
名残折表    
第一 雲居までひばりきほひて揚るらむ 路光  
第二 霞消えゆく春のくれかた 直人  
第三 へだてせぬ逢初め川ぞたのもしき 南天  
第四 はなだの帯も結ぼほれつゝ 初瀬  
第五 薫き物のかをりに心乱されて 純一  
第六 終ひの栖と定めてもいさ 宜博  
第七 積む雪にかよふ人なき杣の道 由季  
第八 法読む声も凍つる岩室 路光  
第九 彼の岸を願ふいのりも年をへて 直人  
第十 しるしや幾重雲のむらさき 南天  
第十一 秋風の吹くにまかせて破れひさし 初瀬  
第十二 何急ぐらむかりの一列 純一  
第十三 ためらひも十六夜なれば殊ならず 宜博 ことならず
第十四 旅の枕のそぞろ寒けし 由季  
名残折裏    
第一 笠を打つ天つ水音しげくして 路光  
第二 あやめぞかをる池のかたはら 直人  
第三 立ち来たりまづは言問ふ唐衣 南天  
第四 色も照る日も舞はむひとさし 初瀬  
第五 山里はあはれなるままかげろひて 純一  
第六 鄙に都に飛ぶや初蝶 宜博  
第七 時は今目の限りなる花の雲 由季  
挙句 円居うらゝに満つるゑみごゑ ヒサヨ