ロック探偵のMY GENERATION

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泉谷しげる「義務」

2021-04-24 18:32:08 | 音楽批評


今回は、音楽記事です。

前回の音楽記事では、吉田拓郎さんについて書きました。

そこでも書いたように、拓郎さんと同じく、エレックレコードからデビューし、フォーライフレコード創設に参加したのが、泉谷しげるさんです。

――というわけで、今回は泉谷しげるさんについて書きましょう。



泉谷しげるといえば、このブログでたびたび名前が出てくる忌野清志郎との親交でも知られます。
交流はデビュー前からで、音楽喫茶「青い森」で演奏していて、一緒になることがよくあったといいます。

そうして「青い森」でやっているところを、エレックレコードに見出されるわけです。
ただし、拓郎さんとは入れ違いのかたち。拓郎さんがソニーに移籍してしまったので、その後釜を探していたエレックが白羽の矢を立てたのが、泉谷さんでした。

そのデビューシングルが、「帰り道」。
そして、B面に収録されていたのが「義務」です。

作詞は、岡本おさみさん。「襟裳岬」をはじめとする吉田拓郎さんとの共同作業でよく知られます。泉谷しげるさんの代表曲の一つ「黒いかばん」の歌詞も書いていて、ほかにも、南こうせつ「愛する人へ」など佳曲がある印象です。
そして作曲は、浅沼勇さん。この方は、エレックレコード創設者の一人です。エレックレコードは、「浜口庫之助の作曲講座」から生まれたわけですが、その作曲講座をやっていた出版社エレックの社長が浅沼さんとともに立ち上げたのが、エレックレコードなのです。こうして創設者みずからが出てきたというのは、それだけ力が入っていたということでしょうか。


詞の内容は、「今日だけは人間らしくいたいから」とデモに参加する男について。


  「ボクは庶民です
  どこの党にも関係ない 
  税金を払っている一庶民です
  ボクが好んでいるものといったら
  貧しい詩を書くこと位で
  国の運営などというものは
  ふだんは忘れていて
  新聞も読みすてちまう
  あくせく働く一庶民です」


といいつつ、デモに参加することを妻に告げ、「今日は胸を張って静かに歩いてこようと思ったのだった」と結ばれます。
1972年の歌ですが、どこか60年代の匂いを感じさせます。世間では、学生運動過激派の暴走があさま山荘事件で極致に達し、シラケムードが蔓延していました。“経済の季節”のはじまり……そこでこの歌が歌われたことの意味を考えさせられます。

泉谷さん自身も、ときに政治的な発言をしています。
amebaでブログをやっていて、2015年の安保法制のときには、強行採決に突き進む政権を批判したりもしていました。同年 Route 17 Rock'n'roll Orchestra の一員としてフジロックに出演した際には、「若いやつ、戦争には行くなよ」と発言したそうです。
ちなみにこのRoute 17 Rock'n'roll Orchestra というユニットには、仲井戸麗市、吉川晃司、トータス松本、泉谷しげる……という、かなり強力でなかなか濃い人たちが集まっています。この四人が交代で歌っていくという趣向で、泉谷さんは、代表曲である「春夏秋冬」と、この国のあり方を批判した「国旗はためく下に」を歌ったということです。選曲はバンドリーダーである池端潤二さんによるものだそうですが、おそらくは安保法制を念頭においたものなのでしょう。そして最後は全員で、忌野清志郎が反原発の替え歌にしたRCサクセション版「サマータイムブルース」を合唱したのだとか。

フォーライフ離脱でいろいろいわれ、テレビに出れば“乱入”といわれる色物キャラみたいになってはいますが……やはり泉谷さんも、60年代のスピリッツを継承しているアーティストなのです。
そのスピリッツを歌うことが、つまりは、あの時代に出てきた泉谷しげるというシンガーにとって“義務”ということなのでしょう。