ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
『ホテル・カリフォルニアの殺人』(宝島社文庫)発売中です!

風「22才の別れ」

2021-04-14 21:13:09 | 音楽批評



今回も、音楽記事です。

前回の記事では、イルカさんの「まあるいいのち」という歌について書きました。

そこでも書いたように、イルカさんはかぐや姫とつながりが深く、そのメンバーである伊勢正三さんの作った歌をいくつか歌っています。

というところから、今回は、伊勢正三さんのほうに注目して、“風”の「22才の別れ」という歌について書こうと思います。

風は、伊勢正三さんが元猫の大久保一久さんと作ったユニット。
“元猫”というのは誤解を招きかねない表現ですが……“猫”という名前のグループに在籍していたという意味です。

その風のデビュー曲であり、おそらく代表曲ともいえるのが、「22才の別れ」。

もともとはかぐや姫のために作った歌といいますが、かぐや姫が解散してしまったために、風のデビュー曲ということになりました。

歌われるのは、5年の交際を経ながら、ほかの男と結婚することになって離れていく女……

 あなたに「さようなら」って言えるのは今日だけ
 明日になってまたあなたの暖かい手に触れたらきっと
 言えなくなってしまう そんな気がして

いかにも伊勢正三さんらしい、いろいろ深い事情がありそうな別れの物語を内包した歌詞と、哀愁に満ちたメロディとで、大ヒットしました。



音楽史的な観点からすると、このあたりが、フォークといわゆる「ニューミュージック」の分水嶺でしょう。

風はカテゴリーとしては“フォークデュオ”に分類されると思いますが、たとえば「ささやかなこの人生」や「ほおづえをつく女」なんかを聴いていると、もはやフォークとは呼べないだろうと私には思われます。「ささやかな……」の背後でうっすら聞こえるバンジョーの音がフォークの残響のようですが、それは「残響」という以上のものではないように感じられるのです。
「22才の別れ」にしても、伊勢正三、大久保一久、そしてギターで参加している石川鷹彦……と、そのメンツはフォーク界のビッグネーム揃いですが、そこで奏でられているのは、従来のフォークとは一味違った音楽ではないでしょうか。

フォークとニューミュージックに連続性があるというのは衆目の一致するところと思われますが……私の認識では、フォークが完全に歌謡曲化したものがニューミュージックです。
そのプロセスは70年代をとおして進行していったものと思われますが、1975年に登場した風は、まさにその中心に位置するグループであり、そのデビュー曲である「22才の別れ」は、転換点に位置する重要な一曲といえるでしょう。


そういったわけで、この歌はいろんな人にカバーされてもいるようです。

とりわけ大物としては、たとえば、桑田佳祐さんが「昭和八十八年度! 第二回ひとり紅白歌合戦」と銘打ったライブで、この歌をとりあげました。

それから――これはカバーではありませんが――東京事変の「三十二歳の別れ」という歌は、あきらかに「22才の別れ」をイメージしたものでしょう。


一風変わったところでは、Me First and the Gimme Gimmes というバンドがカバーしています。

このバンドは、NOFXのベースであるファット・マイクや、フー・ファイターズのクリス・シフレット(ジェイク・ジャクソン名義)などが組んだ、いわゆるスーパーグループ。
「カントリー・ロード」をパンクバージョンにしてカバーしていたりするんですが、彼らが日本の歌を日本語のままでカバーするというアルバムがあって、そこで「22才の別れ」がとりあげられています。
このアルバムで取り上げられているのは、GSのタイガーズ「C-C-C」や、ニューミュージック系として甲斐バンド「HERO」、チューリップ「心の旅」、もう少し時代がくだったものとして、ブルーハーツの「リンダリンダ」などが入っています。いずれも大ヒット曲ですが、このラインナップの中でフォーク枠として入っているのが、吉田拓郎「結婚しようよ」と風「22才の別れ」なのです。メロコア風のアレンジになってますが、それはそれで成立しています。バッド・レリジョンの曲だといわれれば、そうかと納得してしまうかもしれません。そのあたりが、やはりフォークソングの枠を超えている部分ということなのでしょう。

…と、以上見てきたところからも、「22才の別れ」が、時代を超え、国境を越えて多くのアーティストにインスピレーションを与えているということがわかるでしょう。この曲は、日本歌謡史上における記念碑的な作品なのです。