ロック探偵のMY GENERATION

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イルカ「まあるいいのち」

2021-04-12 23:26:04 | 音楽批評



昨日に続いて音楽記事です。

このところ、フォーク関係の記事で学生運動との関りについて書いていますが……いよいよそれも、かぐや姫の「神田川」で、そうした運動が衰退していくフェーズの話になりました。

しかし、それで話が終わってしまったのでは、あまりにも悲しい……ということで、今回は、かぐや姫の妹分とも目されるイルカさんについて書こうと思います。

イルカさんは、今年で活動50周年を迎えるというベテランです。
女性シンガーソングライターとして初めて武道館公演をやったとか……そういうレジェンドでもあるのです。

代表作「なごり雪」は、かぐや姫にも在籍していた伊勢正三さんの作。
音楽活動の出発点はシュリークスというグループですが、このシュリークスには、同じくかぐや姫の山田パンダさんが参加していたことでも知られます。そういった経緯もあってか、かぐや姫の妹分ような存在ともみられているようです。


紹介するのは、そのイルカさんの「まあるいいのち」という歌。
1980年に発表されたアルバム『我が心の友へ』に収録されています。
歌詞は、次のようなものです。
  
  ぼくからみれば 小さなカメも
  アリから見ればきっと 大きなカメかな?
  みんな同じ生きているから
  一人にひとつずつ大切な命

「なごり雪」や「海岸通」といった伊勢正三ナンバーからは想像しがたいんですが、イルカさんの自作曲では「いつか冷たい雨が」のように、深くて重いテーマが扱われたりもします。
そこには、どこか金子みすゞ的な視点があるように私には感じられます。あるいは、宮沢賢治的な相対主義というか……
その視点を「いつ冷たい雨が」よりもポジティブな形で表現したのが「まあるいいのち」ということになるでしょう。
これが、60年代式プロテストソングが衰退していったなかでメッセージソングが持ちえた一つの形ではないかとも思えます。
60年代のフォークとは違って、ポジティブにメッセージを打ち出していく……それは、アメリカでフラワームーブメントが衰退した後にその精神的後継者たちが見出した方向性でもあったと思われるのです。

  ぼくから見れば大きな家も
  山の上から見ればこびとの家みたい
  みんな同じ地球の家族
  一人にひとつずつ大切な命

この歌は、十数年前に生保会社のCMソングとして使われましたが、それを見た人から多くの問い合わせがあったといいます。
その時点で発表から20年以上が経っていたわけですが、そういう訴求力を持った歌なのです。

 ぼくからみれば東と西も
 よその星から見れば丸くてわかんない
 みんな同じ宇宙の仲間
 一人にひとつずつ大切な命

という歌詞は、東西冷戦という時代状況を踏まえたものでしょう。
西も東もないだろうと。そういうメッセージも、ここにはあるのです。

  二つの手のひら ほほにあてれば
  伝わるぬくもり まあるいいのち

という最後のコーラスパートは、「ヘイ・ジュード」っぽい感じもします。
菜食主義者という点からしても、ポール・マッカートニーに通ずるところがあるかもしれません。

以上の観点からすると、金子みすゞ+宮沢賢治+ポール・マッカートニー=イルカということになります。
これは、ほぼ最強じゃないでしょうか。