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中川五郎「腰まで泥まみれ」

2021-04-03 18:53:39 | 音楽批評


今回は、音楽記事です。

このカテゴリーでは、以前「フランシーヌの場合」という歌をとりあげました。

そこでも書いたように、その当時の日本では、反戦のメッセージをこめたような歌がフォーク界隈でよく歌われていました。
ベトナム戦争のこともあったでしょう。

その一つとして、今回は中川五郎さんの「腰まで泥まみれ」という歌をご紹介したいと思います。



中川五郎さんは、本邦フォーク草創期における伝説的フォークシンガー。

海外アーティストの詞を日本語訳していることでも知られ、この「腰まで泥まみれ」もその一つ、もとはピート・シーガーの手になる曲です。

ピート・シーガーといえば、反戦歌などを多く書いたことで知られる人物で、このブログでも、彼の作ったピーター、ポール&マリー「花はどこへ行った」などを紹介しました。「腰まで泥まみれ」も、その系譜に連なる反戦歌といえるでしょう。

多くのアーティストにカバーされていますが、Youtubeに元ちとせさんがカバーしたバージョンの動画があったので、下にリンクさせておきます。


元ちとせ 『腰まで泥まみれ』MUSIC VIDEO+「平和元年」SPOT

この歌詞は、リボン・クリーク事件という実際にあった事件を題材にしているといいます。
軍の部隊が演習で川を渡ろうとしているというシチュエーション。
水深は先へ進むにつれてどんどん深くなっていきますが、隊長は進軍をやめようとしません。
「膝まで泥まみれ」「腰まで泥まみれ」と状況は悪化していきますが、そのまま演習を続行しようとします。
「隊長こんな重装備ではだれも泳げません」と兵士が進言しても、「そんな弱気でどうするか」と隊長は一喝。「俺について来い 俺たちに必要なのはちょっとした決心さ」

  「今なら間に合う引き返そう」と軍曹が言った
  ぼくらは泥沼から抜け出して 隊長だけが死んでいった

というのが、ことの顛末です。
そして、最後にリスナーに向かってこう語りかけます。

  これを聞いて何を思うかは あなたの自由
  あなたはこのまま静かに 生き続けたいだろう
  でも新聞を読むたび蘇るのは あのときの気持ち
  僕らは腰まで泥まみれ だが馬鹿は叫ぶ 「進め!」

この寓話は、ベトナム戦争の泥沼にはまり込んでいくアメリカを風刺したものととらえるのが一般的でしょう。
しかし、戦争だけでなく、さまざまな事象にあてはまると思います。
いまの日本でもそうでしょう。
腰まで、いやもう首まで泥につかりながら、「進め!」という声が響いているのは……
まあ、この国の場合、一般兵士が全滅して隊長だけ生き残り何の責任もとらないのが大日本帝国以来の伝統だと思いますが……