ロック探偵のMY GENERATION

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半藤一利さん、死去

2021-01-13 18:03:35 | 日記


半藤一利さんが亡くなりました。

近現代史研究の第一人者といっていいでしょう。

このブログではときどき近現代史関連の記事を書いていますが、私がそういった分野に入っていくきっかけも、半藤さんの著書でした。昭和初期の日本が戦争にむかっていく複雑怪奇な経緯をわかりやすく解説していく半藤さんの著作は、右も左もわからない素人には絶好の入門書でした。

自身も戦争を経験し、父親が治安維持法違反で三度も逮捕された経験をもつ半藤さんは、この国の現状を憂いてもいました。

戦後70年の2015年には、「安倍談話」をめぐって、保阪正康氏、藤原帰一氏らとともに共同声明を発表するなどしています。保阪さんも、半藤さんと並んで私がリスペクトする歴史学者ですが、彼らがそろって共同声明を出さなければならないぐらいに歴史修正主義が蔓延してしまっている危機感があったのでしょう。

その歴史認識は、戦前回帰ともとれる動きへの懸念にもつながります。
特定秘密保護法、安保法制、共謀罪……といった、2010年代半ばの動きには、とりわけ半藤さんも危惧を抱いたようです。
2017年、「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織的犯罪処罰法改正案が国会で議論されている際には、朝日新聞の記事で次のように語っています。


歴史には後戻りができなくなる「ノー・リターン・ポイント」があるが、今の日本はかなり危険なところまで来てしまっていると思う。
 「今と昔とでは時代が違う」と言う人もいるが、私はそうは思わない。戦前の日本はずっと暗い時代だったと思い込んでいる若い人もいるが、太平洋戦争が始まる数年前までは明るかった。日中戦争での勝利を提灯(ちょうちん)行列で祝い、社会全体が高揚感に包まれていた。それが窮屈になるのは、あっという間だった。その時代を生きている人は案外、世の中がどの方向に向かっているのかを見極めるのが難しいものだ。


私も、近現代史をかじってみて、この点は痛感します。
戦前の日本は決して暗黒時代ではなく、それなりに活発で、それなりに明るい社会でした。1930年の銀座の写真なんかは、1960年代の写真だといってそのまま通用するんじゃないかとも思えます。
おしゃれして買い物に興ずる若い婦人たち……「銀ブラ」という言葉がはやったのも、1930年のこと。しかし、それが10年ほどで、もんぺ姿で一億総玉砕などというようになってしまったのです。
当たり前の平和な日常が壊れるのはあっという間で、しかも普通の生活者は実際にそのときがくるまで危機に気づかない……であればこそ、歴史の警鐘に耳を傾ける必要があります。半藤一利さんは、その警鐘を鳴らしてくれる重要な歴史家でした。