ロック探偵のMY GENERATION

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『世界一受けたい授業』――ジョン・レノン、いまの時代に響くイマジン 

2021-01-03 20:36:11 | 過去記事



もう去年の話になりますが、『世界一受けたい授業』で、音楽の授業としてジョン・レノン、ビートルズを取り上げていました。


去年は、生誕80年ということもあってなんでしょうが、ジョン・レノンやビートルズに関する番組が例年以上にたくさんあったようで……これもその一環でしょう。
リアルタイムで観ることはできなかったんですが、最近は便利な世の中になったもので、民放の番組で見逃したものを正規に視聴できるサイトがあり、そこで視聴しました。今回は、その感想を書きたいと思います。



番組によると、昨年ジョン・レノン生誕80年ということで発売されたベストアルバム Gimme Some Truth が、10月のダウンロードランキングで月間一位になったといいます。

そのことにも示されているように、ビートルズの楽曲には、現代の音楽業界でヒットする要素がいくつかあるということで、それらが解説されていました。

その一例として、歌詞がシンプルといったようなことが挙げられていました。
この点については、ジョン・レノンが日本の短歌や俳句に受けた影響があるともいわれています。そのきわめてシンプルな形式がジョンに感銘を与え、たとえばビートルズ時代の Because などにつながっているという……まあ、どこが短歌やねん、というツッコミもあるかもしれませんが。(ちなみに、この記事のタイトルも5・7・5・7・7になってます。ちょっとした遊び心……)

もう一つ、いまの時代ににヒットする要因として「イントロのない曲」ということが挙げられてもいました。
この21世紀ストリーミング時代においては、最初の数秒が勝負になるため、イントロなしでいきなり歌がくるというのが受けるんだそうで……かんがえてみれば、前期ビートルズ(私の定義では、『ヘルプ!』まで)のアルバムは一曲目が人間の声ではじまるものが多いです。つまり、レコードに針を落とすと、まず人間の声が響いてくる。この時期のアルバムはA Hard Day's Night 以外すべてそうで、(ファースト・アルバムでは、「1、2、3、4」のカウント。A Hard ~も、イントロはあってないようなもんでしょう)そのあたりは本人たちも意識していたのかもしれません。ライブバンドの勢いをそのままレコードにするというような……それが、良くも悪くも瞬間のインパクトに反応しがちな現代人にマッチしているんでしょうか。

ただ、いまの若者がビートルズやジョン・レノンを聴くというのは、その存在がある意味では伝説化しているので、その伝説の音楽をとりあえず聴いてみようかとなっている部分もあるでしょう。

実際のところ、半世紀以上も前に解散したバンドのことを今の人がどれだけ知っているか、理解するかというのはかなり微妙なところだと思われ……たとえば、当該番組に関しても、テロップに Watching the Wheels とあるのに流れている曲が Beautiful Boy だったというようなことがありました。
まあ、あまりジョン・レノン警察みたいなことはいいたくないんですが……しかし、これはさすがに一般人が現行犯逮捕するレベルの案件でしょう。凡ミスとはいえ、一昔前だったら番組制作にかかわっている誰かが間違いに気づいていたのではないかと。



ここで、せっかくなので、番組で紹介されていた曲の動画を。

まずは、Give Peace a Chance です。

Plastic Ono Band - Give Peace A Chance (1969)

そして、Power to the People。

POWER TO THE PEOPLE. (Ultimate Mix, 2020) - John Lennon/Plastic Ono Band (official music video HD)

どちらも、社会的なメッセージが前面に出ていて、ラブ・アンド・ピースの空気を色濃く残しています。
このメッセージ性も、ジョン・レノンという人の大きな特徴といえるでしょう。



番組の話に戻ります。

番組で紹介されていた興味深いトリビアの一つは、初来日時のこと。
はっぴを着て飛行機のタラップを降りてくる有名な映像がありますが、あのときはっぴを着ていたのはジャケットのしわを隠すためだったのだとか。
CAのコンドン聡子さんという方が機転をきかせてやったといいます。ビートルズファンにはよく知られていることなのかもしれませんが、私は初耳学でした。
ただ、それ以来ポール・マッカートニーは来日するたびにはっぴを着せられるという目に遭っているわけで……ある意味では罪作りなことをしたのかもしれませんが。

もう一つ貴重だったのは、ジョンがヨーコ・オノに惹きつけられるきっかけになったといわれるインスタレーション作品が紹介されていたことです。
梯子をのぼっていった先に、小さな文字でyes と書かれているという……
この作品のことは前にビートルズ本で読んだことがあって知っていましたが、実際にみたのは初めてです。おそらくは再現であって実際の展示と同じものではないのでしょうが、貴重なものでした。

「ジョン・レノンは yes の人だった」というのは前にも一度なにかの記事で書いたと思いますが、それはこの出会いのエピソードにも表れています。

それは、ただの yes ではなく、no の奥にある yes なのです。
ロックンロールは基本的に no を突きつける音楽ですが、ジョンはその奥に yes を見出そうとしていました。それが、ジョン・レノン的実存主義であり、彼のメッセージにもつながっています。
現代においてジョン・レノンが聴かれるというのは、ひょっとしたらそういうこともあるのではないか――件のインスタレーションを見て、そんなことも感じました。