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ロック探偵のMY GENERATION

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真心ブラザーズ「素晴らしきこの世界」

2019-07-19 17:21:05 | 音楽批評
 

今回は、音楽記事です。

このジャンルでは、YUKIさんと、JUDY AND MARYのことを書きました。

そこからのつながりで、真心ブラザーズの「素晴らしきこの世界」という歌を紹介したいと思います。

真心ブラザーズ――
YUKIさんの夫であるYO-KINGこと倉持陽一さんがやっているグループですね。

まだ結婚する前に、この二人は、RCサクセションの「キモちE」をカバーしています。
正確にいうと、真心ブラザーズが「キモちE」をカバーする際に、YUKIさんがゲストボーカルとして参加。
クレジットには、YUKIさんの担当パートとしてGuest Vocal & Sexy とありますが、その表記のとおりに、歌の合間にSexy なせりふを入れたりしてます。
結婚にいたったのは、このときの縁もあったんでしょうか。

この曲はスライ&ザ・ファミリーストーンの(It's a) Family Affairをミックスしたアレンジになってるんですが、私としては、やはりRCの曲をカバーしたというところに注目します。
RCサクセションといえば、いうまでもなく、このブログにたびたび登場する忌野清志郎のバンド。
そのRCの曲をカバーしているというところからも、彼らの音楽的なセンスは信用できるというものでしょう。

そして、それだけではありません。
逆に、忌野清志郎のほうも真心ブラザーズのトリビュートアルバムに参加しているのです。

そこでキヨシローがカバーしたのが、「素晴らしきこの世界」。
キヨシローが日本のアーティストの曲をカバーするのは結構レアだと思いますが、真心ブラザーズはそのレアな例なのです。事故で入院していた清志郎がリハビリの一環としてレコーディングしたもので、すべての楽器をキヨシロー本人が演奏しているといいます。


では、その「素晴らしきこの世界」とはどんな歌なのか。
ここで、オリジナルのほうの曲の内容についても書いておきましょう。

曲はギターとハーモニカの伴奏からはじまり、序盤では穏やかな夕暮れの町の景色が歌われます。

  夜道を一人で歩いていたら
  どこから何やらカレーのにおい
  僕もこれから帰るんだよ 
  湯気がたってる暖かいうち
  素晴らしきこの世界

ここだけ聞いていれば、ルイ・アームストロング的な感じかとも思わされます。
しかし途中から、一転して激しい曲調に。

  民族紛争 果てしない仕返し
  正義のアメリカ ミサイルぶちこむ
  飢えた子供の目つきは鋭く
  偽善者と呼ばれて自殺する男たち
  素晴らしきこの世界

ここで、「素晴らしきこの世界」とは、ある種の皮肉だということがあきらかになります。
自分のまわりには穏やかな景色が広がっているけれど、遠くに目を転じれば悲惨な現実が転がっている――そういう世界です。

  笑った顔から怒った顔へ
  感情の津波が波止場をおそうよ
  ノードラッグ ノーアルコールで爆発しよう
  ユメを見る前に 現実を見よう
  素晴らしきこの世界
  

しかしこれは、決して現実に絶望する歌ではありません。
最後のほうでは、次のように歌われます。

  僕の体にあふれるエネルギー
  あらゆる困難もぶちこわし進むよ
  悟り顔の若年寄にケリを入れて
  バネをきかせて世界を変えるよ
  素晴らしきこの世界


ユメを見る前に現実を見たからといって、それでユメを見なくなるわけじゃないんです。
現実のその向こう側に夢を見る。
どうせなにも変えられやしない――と、したり顔で何もせずにいる“若年寄”的態度を、真心ブラザーズは否定します。
このメッセージには、YUKIさんの「さよならバイスタンダー」と通ずるところがあるでしょう。あの忌野清志郎がこの曲をカバーしたというのもうなずけます。
冷笑的な態度は、ちっともかっこいいことじゃない。
たとえ絶望的な状態であっても、当事者であることから逃げない。世の中そんなものさとしたり顔で傍観者にまわるのではなく、世界を変える努力をしよう――この歌が伝えたいのは、そういうことなんだと思います。そしてそれは、いまの日本にこそもっとも必要とされているメッセージではないでしょうか。