国際医療について考える

国際協力という分野に興味を持つ人たちとの情報共有、かつ国際協力に関する自分としてのより良いありかたについて考える場所。

免疫不全とワクチン

2011-09-15 | Vaccine 概要

不活化ワクチン:
不活化ワクチンは禁忌とならないが、免疫を正常に獲得できるかどうかに関しては不明確
肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチン、Hibワクチン、髄膜炎菌ワクチン等は免疫不全者に対して接種が推奨される
免疫機能が正常化した場合には再度ワクチンを再度接種することも考慮する[CDC MMWR General Recommendation of Immunization Dec 2006]

ステロイド
ステロイドの免疫抑制効果は様々であるが、PSL換算で2mg/kg以上もしくは20mg/day以上のステロイドが2週間以上使用されている場合は生ワクチンの接種は免疫不全者と同様に禁忌と考えて良い
(pinkbook 2011, National Consensus Travel Medicine 2009)

上記以下のステロイド使用の場合(短期使用、低容量使用、短期作用型ステロイドの隔日使用、置換療法目や皮膚、目、吸入、関節、滑液包、靭帯への局所的な使用等)は、ステロイド使用は禁忌とならない
渡航が必要な場合には、禁忌証明を発行して蚊に刺されないように対策をしっかり説明しておく必要がある
生ワクチンを接種する場合にはステロイド治療を中止して少なくとも1ヶ月間は期間をあける必要がある
[CDC. General recommendations on immunization: recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP). MMWR. In press.]

10mg/day未満または総量700mg未満のステロイド使用では感染のリスクは上昇しないとする報告あり[Rev Infect Dis. 1989 Nov-Dec;11(6):954-63.]

免疫不全者での効果
免疫不全者ではワクチンの効果が低下、予防効果が得られない可能性
→予防効果が低い、反応が遅い、幾何平均値が低い、効果が短い

例としてA型肝炎(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=10558960)
肝移植患者の抗体獲得率 dose1後 41%, dose2後 97.4%
腎移植患者の抗体獲得率 dose1後 23.7%, dose2後 71.8%
コントロール群の抗体獲得率 dose1後 89.7%, dose2後 100%
肝移植患者の抗体価 dose1後 101, dose2後 1306
腎移植患者の抗体価dose1後 17, dose2後 85
コントロール群の抗体価dose1後 169, dose2後 1596

抗RA薬について(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=18419456)
古典的な抗リウマチ薬(MTX, AZP)一般的に20~50%に予防効果がない
生物学的抗リウマチ薬(TNF拮抗薬)僅かにワクチンに対する抗体反応が減少する

同じ疾患でもワクチンの種類によって効果が異なる(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=18388521 )
インフルエンザワクチンに関して、MTX単独治療ではワクチンの反応低下を認めなかったが、MTXにetanercept, infiximabを併用した群では抗体獲得率、抗体価が低下した
肺炎球菌に関して、MTX単独脂溶ではワクチンの反応が減弱、adalimumabとMTXの併用では反応が低下、etanercept or infiximabとMTXを併用ではほぼ効果なし

各疾患について推奨されるワクチン
炎症性腸疾患に対して推奨される予防接種:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=21172250

DL: Vaccination in patients with inflammatory bowel diseases and other gastroenterological (auto)immune conditions

乾癬に対して推奨される予防接種:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=17980456
SLEに対して推奨される予防接種:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=17153850
RAに対して推奨される予防接種:http://www.rheumatology.org.uk/includes/documents/cm_docs/2009/v/vaccinations_in_the_immunocompromised_person.pdf


エクリズマブ〔Eculizumab:商品名ソリリス(アレクシオンファーマ):ヒト化モノクローナル抗体, 終末補体(C5開裂)阻害薬〕を使用する場合、髄膜炎菌感染症の発生率が1,000~2,000倍高くなることから、4価の髄膜炎菌ワクチン(MenACWY)と血清群B(MenB)ワクチンの両方を薬剤開始する2週間以上前に接種することが推奨される。また、肺炎球菌及びHib(生後12~59ヶ月の小児)の予防接種も推奨される。また、Complement deficinencyに対する肺炎球菌の予防はPCV13が優先される、(CDC:General Best Practice Guidelines for Immunization) (IDSA: Patients Receiving Eculizumab (Soliris®) at High Risk for Invasive Meningococcal Disease Despite Vaccination)。
また、エクリズマブ開始直後から、シプロキサン2週間、その後、治療中のペニシリン500mgx2/dayまたはエリスロマイシンによる予防内服が推奨される(UK national renal complement therapeutic center


なお, ワクチン接種をしていても, エクリズマブ使用患者は髄膜炎菌感染症に対してリスクが高いことから, 米国の医療機関では他の国と同様に, エクリズマブ使用期間(多くの患者でほぼ一生涯)での抗菌薬の予防投与を推奨している。


ワクチンを接種するタイミング
基本は免疫抑制状態になる前
休薬できるばあいは休薬後約3ヶ月(ステロイドは1ヶ月、infliximab 6ヶ月?、etanercept 2ヶ月?)
休薬した薬剤を再開するタイミングはワクチン接種から3週間後
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=17980456 )

黄熱関連
ウイルス血症:ワクチン接種後2日~10日(5日目がピーク)
インターフェロン産生:ワクチン接種後3日~8日目
HI抗体産生:ワクチン接種後4日目~
免疫不全者では、ウイルス血症の長期化が神経侵襲、脳炎のリスクとなりうる
免疫不全者では、ウイルス増殖による抗ウイルス血症が肝障害やその他の臓器障害のリスクとなりうる
(N Engl J Med 1965; 273:194-198. PMID: 14306335)
胸腺不全, DiGeorge’s syndrome, 胸腺切除術を施行した場合も禁忌
症状のないHIV罹患者は暴露のリスクが明らかであれば, リスクを説明して接種される場合がある
一般的にCD4>500/mm3での黄熱接種が推奨されるが中和抗体の獲得率は低いとされる(1年後83% vs 非感染者97%)
[Clin Infect Dis. 2009 Mar 1;48(5):659-66.]
CD4カウントが200/microL以上である場合は, 全例で免疫が獲得され, 副反応もなかったとする報告あり
[AIDS 2004; 18:825.]
脾臓摘出者:controvertial (基本的に接種しない)

脾摘後のリスクについて
重症化する感染症の病原体として肺炎球菌が最多90% (他に髄膜炎菌、インフルエンザ桿菌)
脾摘患者では免疫グロブリンの産生低下(液性免疫低下)によりオプソニン化できない→マクロファージが貪食能低下→莢膜を持つ細菌に対して重症化(肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ桿菌)
その他、液性免疫低下→Salmonellaや腸内細菌科、Bacteroides、イヌとの接触があればCapnocytophaga canimorsusというGNRのリスクが上昇。ウイルスではエンテロウイルス、原虫ではGiardiaの他、leishmania、trypanosomaの頻度も上昇する。
マラリア罹患との関連性ははっきりしない。

脾臓摘出前後での予防接種
接種推奨の対象となる疾患:Hib肺炎球菌、肺炎球菌、髄膜炎菌、季節性インフルエンザ、Tdap、(MMRV)
注意点:
MCV4は8週間以上の間隔をあけて2回接種(Menactraを使用する場合はできればPCV13との同時接種を避ける)
MCV4は5年ごとの接種が推奨されるが、MenBについては追加接種の規定なし
PCV13から8週間以上の間隔をかけてPPSV23を接種、追加接種はPPSV23で5年ごと
DPT(Tdap)の追加接種は10年ごと

骨髄移植後
接種間隔については報告により異なる(成人の場合、3回接種目を追加接種同様の間隔を置くかどうか等)

造血細胞移植学会ガイドライン第1巻[4]予防接種 第2版



HIV
無症状(CD4>200mm3)であれば
推奨ワクチン(WHO/UNIVEF):DTP, OPV, Masles, Hep.B, YF, TT (有症状でもYF以外は推奨)
小児の推奨ワクチン(ACIP):DTP, IPV, MMR, Hib, Hep.B, Pneumococcal, varicella, influenza
必要に応じて小児に接種(ACIP):Meningococcal, Rabies, Anthrax, Plague
成人の推奨ワクチン(ACIP):MMR, Hep.B, Pneumococcal, varicella, influenza, Td
必要に応じて小児に接種(ACIP):IPV, Meningococcal, Rabies, Anthrax, Plague
[Vaccines 5th edition]

HBV vaccine for HIV Pt
HIV感染とHBV感染のリスクは共通する
HIV感染によりHBVキャリア化、肝不全のリスクが高まり、HBVワクチン接種の必要性が増す (Bonetti TC, 2004)
HAARTを行っていないHIV感染者におけるHBs抗体獲得率は25-50%程度 (Protokin S, Vaccines)
高齢者、CD4低下で抗体獲得率は下がる
小児においてHAART導入により、接種回数を増やすことで抗体獲得率が改善する
HAART導入がなければ、接種回数を増やしても、容量を増やしても改善に乏しい(Oldakowaska A, 2004)
成人においてCD4 counts >350であれば、2倍用量の接種が効果的 (Fonseca MO, 2005)
CPG 7909を負荷した2倍量のワクチン3回接種(0, 4, 8週間)で抗体獲得率は100% vs 63%(Cooper CL, 2005)
GM-CSFを負荷した2倍量のワクチン3回接種(0, 1, 6カ月)で抗体獲得率は62% vs 30%(Sasaki MG, 2003)
IL-2によってCD4増加が誘導されるが免疫応答は強化されない (Valdez H, 2003)
抗体獲得後も抗体価低下の速度が早い
HIV感染小児において13-18カ月後の抗体保持率は42% (Scolfaro C, 1996)
健常者では抗体陰性化しても感作リンパ球の働きで予防効果が持続するが、HIV感染者ではHBV既感染の症例でも再度B型肝炎を発症、キャリア化することがある(Halder SC, 1991)
HIV感染者でHBc抗体陽性でも偽陽性の可能性を考慮してワクチン接種を施行すべき
1回の接種で既往抗体反応を認めれば、その後の接種は不要(HBe抗体陽性例で可能性が高い)
既往抗体反応を認めなければ、3回の接種が推奨される (Rajesh T, 2005)

CDCによる原発性免疫不全、二次性免疫不全における予防接種の推奨(pinkbook)

 

2018年11月一部情報追加・更新


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« Ebola Hemorrhagic Fever | トップ | Cryptococcus infection »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Vaccine 概要」カテゴリの最新記事