




松代へ所用の折に息子達と皆神山(みなかみやま)を訪ねてみました。小学校の遠足以来か中学生の時に一度登ったかぐらいで、いつも見ているのですがとんとご無沙汰でした。松代や篠ノ井方面から見るときれいなプリン型なのでプリン山とかお尻山とかいわれるのですが、東条の岩沢地区や奇妙山方面から見ると横に長く豪州のエアーズロックのようです。まず皆神神社に参拝しました。
皆神山は、長野県長野市松代にある、標高659メートルの30~35万年前にできた安山岩質の溶岩ドームです。そして、1965年(昭和40年)8月3日から約5年半もの間続いた、世界的にも稀な長期間にわたる松代群発地震の震源地のほぼ中心でした。有感地震は6万2826回、あまりに長期に渡ったためノイローゼになる住民も出たほどです。幸い死者は出ませんでしたが、怪我人や家屋の倒壊はありました。私は当時小中学生でしたが、同じ世代の地元の子供達は多感な時期でもあったためなんらかの強い精神的影響を受けただろうと思います。そのためか私は今でも地震対策にはかなり気を遣う習慣がついています。
私自身も目撃しましたが、地震時の宏観現象として皆神山や妻女山などの発光現象があり、大きな話題になりました。このような目撃例は安政の大地震など古くから目撃例があり、岩盤の崩壊による放電が原因のようで特に珍しいことではないようです。また、この群発地震で山は1m高くなったということです。
皆神山付近には低重力域があり、地下には、縦800m、横1500m、高さ200mのマグマ溜りが起源と考えられる空洞があって、地下に巨大な貯水池があると推定されています。皆神山溶岩は150m程度の厚さがあることが確認されていて、その下に湖水堆積物が見つかっています。また、山頂には川の跡の河床礫が見られます。つまり溶岩がまだ地上に出る前は、ここは池や川があったということです。皆神山を形成した溶岩は極めて粘性が強く噴火したり流れ出したりせずに、そのままプリン状に固まったと考えられています。
ノイローゼ患者が出るほど長期に渡った松代群発地震は、最終的に大量の深層地下水湧出という事態になり、火山性群発地震という当初の想定が、水噴火群発地震であったとの考えに変わりました。しかし、最新の学説では地殻の継続的な変形による応力速度の上昇によって説明できることが分かったということです。興味のある方は、こちら産能研の「群発地震発生のメカニズムを解明」をお読み下さい。
私は全く興味がありませんが、山頂にはある宗教団体が唱えたピラミッド伝説の看板があります。たいていの観光客は笑い飛ばして通り過ぎていくだけですが、中には遠方からわざわざ訪れるオカルトマニアもいるようです。もちろん皆神山はピラミッドではありません。むしろ放置されて荒れ放題になった里山であることの方が、私は心配です。小丸山古墳(円墳)の近くで出会った地元の方もそう言っていました。
皆神山には、その小丸山古墳と岩戸神社とされている古墳があります。山の東南の麓には古墳時代後期(6世紀)の築造とされる積石塚の円墳・桑根井空塚があります。大室古墳群や東条地区の竹原笹塚古墳、菅間王塚古墳、千曲市土口の堂平古墳群などと同様に朝鮮半島の渡来人との関係がある遺跡として注目されています。また、皆神神社は、熊野出速雄命(くまのいずはやおのみこと)が祭神で、熊野出速雄神社ともいいます。(本殿は室町時代のもので長野県指定県宝)熊野出速雄命は、諏訪社の祭神・建御名方富命(たけみなかたのみこと)の子で、貞観二年に信濃国従五位上の位を授かっており、斎場山(旧妻女山)の麓にある會津比賣神社の祭神・會津比賣命(あいづひめのみこと)が御子ともいわれています。
その小丸山古墳の近くでもうすぐ皆神山登山五百回という地元の方と出会ったのですが、話の最中に低くこもった太鼓を叩くような音がすぐ近くの谷から聞こえたのです。その音は以前千曲市の天城山(てしろやま)や関東の山でも聞いたことがあり、なんだろうと不思議に思っていました。啄木鳥のドラミングよりずっと低いこもった音でトントントントンと素早く四回鳴ります。その時、息子達はうり坊(猪の子)らしきものが上方を通り過ぎたと言うのです。猪の威嚇音でしょうか。地方によっては「山神楽」とか「天狗の太鼓」、はたまた「狸囃子」とか「狸の腹鼓」とかいうらいいのですが…。本当はなんなのでしょう。息子達と「なんだろうね」と言いながら山を後にしました。
とある日のこと、妻女山奥で同じその音を耳にしました。その前に雉か山鳥の地面に舞い降りる音とケーンという鳴き声がしました。もしやと思い、そおっと木の陰から近づいて覗くと山鳥の雄が歩いています。そして、やにわにドドドドッというあの音をたてました。羽を閉じたまま素早く体に打ち付けたのです。向こうにニホンカモシカがいたので威嚇かと思いましたが、帰って調べると「ほろ打ち」といって雌へのデモンストレーションでした。
「雉も鳴かずば撃たれまい」といいますが、これでは簡単に居場所が分かってしまいます。雉や山鳥は、普段は倒木の枝が折り重なった下にいることが多く、側を通った時にいきなり飛び出して驚かされることがあります。また、卵や雛がいる巣の近くに急人が来た時などは自傷行為として傷ついた振りをして地面を走り回ることがあります。なかなかの役者です。