夜をさむみ朝戸をあけてわがみれば庭しろたへにあは雪ぞ降る(秋萩帖)
雪歌に 従三位盛親
夕暮のみそれの庭やこほるらん程なくつもる夜半の白雪
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)
題しらす 藤原朝定
さゝの葉のうへはかりにはふりをけと道もかくれぬ野への薄雪
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)
山家初雪
春の花秋の月にもおとらぬはみやまのさとの雪のあけぼの
(建礼門院右京大夫集~岩波文庫)
雪満衣といへる心を 法皇御製
けぬかうへにつもらは積れ降雪のみのしろ衣うちもはらはし
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
雪の歌とて読侍ける 右のおほいまうち君
山さとのかきねは雪に埋れて野へとひとつに成にける哉
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
見わたせは今はたおなし草も木もわかすつもれる野への雪かな
(建長八年九月十三日・百首歌合~日文研HPより)
雪を 法皇御製
白妙の色より外の色もなしとをき野山の雪の朝あけ
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)
宝治元年十首歌合に、野外雪 後嵯峨院御製
いとゝ又かきりも見えす武蔵野やあまきる雪の曙の空
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
後九条内大臣家百首歌に、嶺樹深雪といふことを 藤原隆祐
雪おれの音たに今朝は絶にけり埋れ果る峰の松原
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
ゆくさきもすきゆくかたもみえぬかなふふきにまよふたにのほそみち
(建仁元年十首和歌~日文研HPより)
雪の歌とて読侍ける 右近大将実房
あともたえしほりも雪に埋れてかへる山路にまよひぬるかな
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
題しらす 後鳥羽院御歌
鳥かへる谷のとほそに雪ふかし爪木こるおの道や絶南
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)
山路雪を 侍従行家
ふみ分る我よりさきの跡をみは雪そ山ちのしほりならまし
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
題しらす 源有長朝臣
誰か又おなし山路をたとるらんこゆれはうつむ跡の白雪
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
行路雪といへる心を読る 西住法師
こまの跡はかつふる雪に埋れてをくるゝ人や道まとふらん
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
おなし心(野径雪)を 前大納言実教
旅人のあさたつ後や積るらん跡こそ見えね野への白雪
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
亀山殿の千首歌に、雪 前大納言実教
我よりも先立人やまよふらん跡さたまらぬ野への白雪
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
行路雪を 藤原為守
旅人のさきたつ道はあまたにて跡なきよりもまよふ雪かな
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)
家々のかきねのたけもうづもれてたが里わかぬ今朝のしらゆき(光経集)
山家雪朝といへる心をよめる 大納言経信
朝戸あけて見るそさひしきかた岡のならのひろはにふれる白雪
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
野亭雪をよみ侍ける 藤原国房
さひしさをいかにせよとてをかへなるならのはしたり雪のふる覧
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
あさぼらけすすきおしなみふる雪にげにさびしさは冬のやまざと(光経集)
正治二年石清水若宮歌合に 藻壁門院但馬
さらぬたに人めかれ行山里に物さひしかる庭のしら雪
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
雪歌中に 前中納言俊光
ふみわけし昨日の庭の跡もなくまたふりかくす今朝の白雪
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)
百首歌の中に雪をよめる 皇后宮肥後
道もなくつもれる雪に跡たえてふる里いかにさひしかるらむ
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)
古渓雪をよみ侍ける 中宮大夫通方
谷ふかみ雪のふる道跡たえてつもれるとしをしる人そなき
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館HPより)
吉野山にて雪の降る日よませ給ひける 吉野の女院
踏み分けて来る人あらば問ひてまし都もかくや雪積もるらん
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
百番歌合に、山雪を 永福門院
鳥の声松の嵐の音もせす山しつかなる雪の夕くれ
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)
冬のころ、小野に移ろひ給ひけるに、日ごろ心もとなかりける雪、かき暗し降りて、風の音もいとはげしければ 目も合はぬの右大臣
山深く今日慣れそむるあらしよりやがて激しく荒るる雪かな
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
四十九院の岩屋のもとにゐたる夜、雪のいみしうふり風のはけしく吹侍けれはよめる 増基法師
浦風にわか苔衣ほしわひて身にふりつもる夜はの雪哉
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
雪のふりけるに
花とみる梢の雪に月さえてたとへむ方もなき心地する
(山家集~岩波文庫)
にはもせのはなのしらゆきかせふけはいけのかかみそくもりはてぬる
(拾遺愚草員外_定家~日文研HPより)
冬池雪
冬の池のはすの朽はも雪に又にこりにしまぬ花や開(さ)くらん
(草根集~日文研HPより)
題しらす 小侍従
かき曇あまきる雪のふる里をつもらぬさきにとふ人もかな
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
禁中雪と云る事を 藤原秀長
花ならぬ雪にもつらし朝きよめまた心あれともの宮つこ
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)
たいしらす 和泉式部
まつ人のいまもきたらはいかゝせむふまゝくおしき庭の雪哉
(詞花和歌集~国文学研究資料館HPより)
文保百首歌奉りける時 権中納言公宗母
しはしなといとはさりけん問人の跡よりきゆる庭の白雪
(続後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
弘長百首歌奉りける時、雪 衣笠内大臣
しられしなとはぬを人の情とは我こそみつれ庭の白雪
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
高陽院家歌合に 康資王母
ふみみけるにほの跡さへおしき哉氷のうへにふれるしら雪
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館HPより)
延文百首歌に、雪を 後深心院前関白左大臣
ふみ分てとひくる程はいとはぬを帰る跡こそ雪におしけれ
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
雪歌の中に 前大納言為世
ふみわけん我跡さへに惜けれは人をもとはぬ庭の白雪
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
十二月廿日比に雪のいたくふりたりしにつとめてもくのさきのかみ俊頼の君前の兵衛佐顕仲かもとにおなし歌をやりて侍し
雪ふれはふまゝく惜き庭の面をたつねぬ人そ嬉しかりける
俊頼のきみかへし
我心雪けの空にかよへともしらさりけりなあとしなけれは
あきなかのきみ
人はいさふまゝくおしき雪なれと尋てとふは嬉しき物を
(六条修理大夫集~群書類従)
雪のふりけるに、跡こそみえすとも心はかよふとしれ、と申て侍ける人の返事に 法印長舜
かよふらん心もいさやしら雪の跡みぬ程はいかゝたのまん
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
雪のあしたに、源義行かもとへ申つかはしける 前参議能清
ふみ分る跡こそなけれ心たにかよはぬ宿の庭のしら雪
返し 源義行
踏わけん庭には跡の惜けれは雪より外の道や尋ねん
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
依雪待人といへる事を 今上御製
跡つけぬ程をも見せん庭の雪人のとふまてきえすもあらなん
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)
庭雪を 藤原隆祐朝臣
とへかしな跡もいとはてまたれけりまた空晴ぬ庭の白雪
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
題しらす 権中納言兼信
こぬ人も今朝は恨し我たにも跡つけかたき庭の白雪
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
題しらす 権僧正道我
問人の跡さへやかてうつもれてかこつかたなき庭のしら雪
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
題しらす 三善遠衡朝臣
よしさらは人とはすとも庭の面に跡なき雪を独こそみめ
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
嘉元百首歌奉りける時 贈従三位為子
跡おしむわかならはしにいひなさんさのみとはれぬ庭の白雪
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
題しらす 法眼行済
とはてふる日数のみこそつもりけれけふも跡なき庭のしら雪
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
題しらす 平時茂
まつ人のとはぬ日数やつもるらむ跡たえはつる庭の白雪
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
貞和百首歌たてまつりける時 前左兵衛督直義
けふいくか問人なしに跡たえて雪にこもれる宿のさひしさ
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
見れば小柴をしたる。そのあなたにをかしき女房わらはべなど見え侍り」といへば、たれも「をかしのことや」とて、しばし車をやりとゞめてやをら下りて、立てたる門(かど)をおし開けて、小柴のもとにて見れば、わらはのきよげなる二三人、雪をとかくもてあそぶ。内にも人あるべし。簾(すだれ)を少し引き上げたる人、かたちいときよらなり。
例の色なる人の心どもは、「いかで見つと知らせてしがな」とて、左少将資盛、笄(かうがい)の先して書きて、
雪降ればふるさと寒く成りにけり すむ人さへやさびしかるらむ
とて、こと人は立ち隠れて、有盛の朝臣して取らせつ。さて聞けば、小さきわらはの簾(す)の本(もと)に寄りて、「あそこにうつくしげなる殿のおはしつるが、「まゐらせよ」とて、これをなむたびたる」といへば、内の人、「おぼつかなく、見る人のありけるにや」などいふ。
さて白き薄様のえならぬに、書きて出(いだ)したり。
白雪の降るにつけても山里に ふみわけてとふ人をこそ待て
墨つき、筆の流れ、よしあるを、思ひの外にをかしう思ふ。(略)
(平家公達草紙~岩波文庫・建礼門院右京大夫集)
冬の果てつ方、雪のいみじう降る日、人がりやる
ふりはへて誰はた来(き)なんふみつくる跡みまほしき雪の上かな
(和泉式部集~岩波文庫)
ささたけの野へのふるみちまよふとも雪ふみならしとふ人もかな
(宝治元年九月・院御歌合~日文研HPより)
題しらす 権中納言宗経
問人の跡こそあらめ松風の音さへたゆるやまのしら雪
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)
大納言忠頼の七十賀の屏風に、山に雪高う降れる家ある所 よみ人知らず落窪
雪深く積もりて後は山里にふりはへて来る人のなきかな
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
題しらす かねもり
山里は雪ふりつみてみちもなしけふこん人をあはれとはみむ
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
はなのはるつきのあきこそこひしけれゆきにひとこぬふゆのやまさと
(正治二年初度百首~日文研HPより)
題しらす 祐盛法師
ふる雪に往来の道も跡たえていくかになりぬ小野の里人
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)
雪の朝(あした)にあはれといふことを置きて、歌あまたよみける中に ふたよの友の上人
道絶ゆることや憂からむ降る雪をあはれと見ても人のまたれば
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
道とちて人とはすなる山郷のあはれは雪にうつもれにけり
(西行法師家集~日文研HPより)
文保三年、後宇多院に奉りける百首歌の中に 権中納言公雄
庵結ふ山路の雪も年ふりてうつもるゝ身は問人もなし
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)
ふりすさむこのゆふくれのゆきのいろにこころをとめてひとりみるかな
(嘉元百首~日文研HPより)