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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

古典の季節表現 春 紅梅

2018年01月13日 | 日本古典文学-春

寛喜元年女御入内屏風歌 入道前太政大臣
野も山も匂ひにけりな紅のこそめのむめの花の下風 
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

梅の花の白き、紅合はせ侍りけるに、紅の方にてよめる 梅めづるの宮の君
八重咲けどにほひは添はず梅の花紅深き色ぞまされる
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

ただの梅、紅梅など多かるを見て
梅の花香(か)はことごとに匂へども色は色にも匂ひぬるかな
(和泉式部続集~岩波文庫)

紅梅をよませ給ける 花山院御製
香をたにもあく事かたき梅の花いかにせよとか色のそふらん
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

紅梅をよめる 源俊頼朝臣
くれなゐの梅かえになく鶯は声の色さへことにそ有ける
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

 内の紅梅を女蔵人に詠(よ)めとおほせごとありけるに、かはりて詠(よ)みて侍し
春雨やふりてそむらんくれなゐにいろこくみゆるむめの花笠(がさ)
梅花香(か)はことごとに匂(にほ)はねどうすくこくこそ色は咲けれ
紅に色こき梅は鶯のなきそめしより匂ふなるべし
(元輔集~「和歌文学大系52」明治書院)

とみのこうぢどの内裏になりて、ひろ御所のつまの紅梅さかりなりし比、月のおぼろなる夜、たれとはなくて、しろきうすやうにかきてむすびつけられたりし、
色もかもかさねて匂へ梅の花こゝのへになる宿のしるしに
この御返事は、院の御所へ申すべしとおほせられしかば、辨内侍、
いろも香もさこそ重ねて匂ふらめ九重になるやどの梅がえ
(弁内侍日記~群書類從18)

 宇治殿、南面の紅梅に雪のつもえるを御覧じて、人をめして折らせ給ふ。
  おられけり紅にほふ梅の花けさしろたへに雪はふれゝど
経衡を召て、此御歌をたまはせければ、経衡さはぎてまかりたちにける。
 ニ三日ありて、堀川右大臣、和歌をたてまつられけり。
  おられける梅の立枝にふりまがふ雪は匂ひて花や咲らん
(「續古事談」おうふう)

紅のこそめの梅もしろたへにふりまかへたるはるのあはゆき
(東撰六帖~続群書類従14上)

 雪の梅にふりかゝりたるをみてよめる 入道前左大臣室
降つもる雪の隙よりほのみえて下紅に匂ふ梅かえ
(菊葉和歌集~続群書類従14上)

木の花は、濃きも淡きも紅梅。
(枕草子~新潮日本古典集成)

二月になりぬ。紅梅のつねのとしよりもいろこくめでたうにほひたり。
(蜻蛉日記~バージニア大学HPより)

日のいとうららかなるに、いつしかと霞みわたれる梢どもの、心もとなきなかにも、梅はけしきばみ、ほほ笑みわたれる、とりわきて見ゆ。階隠のもとの紅梅、いととく咲く花にて、色づきにけり。
(源氏物語・末摘花、~バージニア大学HPより)

寝殿の隅の紅梅盛りに咲きたるを、ことはてて内へまゐらせたまひざまに、花の下に立ち寄らせたまひて、一枝をおし折りて、御挿頭にさして、気色ばかりうち奏でさせたまへりし日などは、いとこそめでたく見えさせたまひしか。
(大鏡~新編日本古典文学全集)

二月の十日、雨すこし降りて、御前近き紅梅盛りに、色も香も似るものなきほどに、兵部卿宮渡りたまへり。(略)花をめでつつおはするほどに、前斎院よりとて、散り過ぎたる梅の枝につけたる御文持て参れり。
(源氏物語・梅枝~バージニア大学HPより)

御かたちいと清げに、きららかになどぞおはしましし。堀河の院に住ませたまひしころ、臨時客の日、寝殿の隅の紅梅盛りに咲きたるを、ことはてて内へまゐらせたまひざまに、花の下に立ち寄らせたまひて、一枝をおし折りて、御挿頭にさして、気色ばかりうち奏でさせたまへりし日などは、いとこそめでたく見えさせたまひしか。
(大鏡~新編日本古典文学全集)

近衛太皇太后宮に紅梅を奉りて侍けるに、次のとしの春、花の咲たる見よとておりて給はせけるに、むすひつけ侍ける 読人しらす
うつしうへし色香もしるき梅花君にそわきてみすへかりける
巻名 風雅和歌集巻第十五 部立 雑歌上 
かへし 前参議経盛
うつしうへし宿の梅とも見えぬかなあるしからにそ花も咲ける 
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

中院にありける紅梅のおろしえたつかはさんと申しけるを、またのとしの二月はかり、花さきたるおろし枝に結ひつけて、皇太后宮大夫俊成のもとにつかはし侍ける 大納言定房
昔より散さぬ宿のむめの花わくる心は色に見ゆらん 
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

はるかむ(玄上)の宰相左近中将にて紅梅を折ておこせたりしに
君かため我おるやとの梅花色にそ出る深き心は
とある返し
色も香もともに匂へる梅花ちるうたかひのあるや何なり
(権中納言兼輔卿集~群書類従14)

この東のつまに、軒近き紅梅の、いとおもしろく匂ひたるを見たまひて、(略)
 「心ありて風の匂はす園の梅にまづ鴬の訪はずやあるべき」
 と、紅の紙に若やぎ書きて、この君の懐紙に取りまぜ、押したたみて出だしたてたまふを、幼き心に、いと馴れきこえまほしと思へば、急ぎ参りたまひぬ。
(略)枝のさま、花房、色も香も世の常ならず。
  「園に匂へる紅の、色に取られて、香なむ、白き梅には劣れるといふめるを、いとかしこく、とり並べても咲きけるかな」
  とて、御心とどめたまふ花なれば、かひありて、もてはやしたまふ。
(源氏物語・紅梅~バージニア大学HPより)

三百首歌中に 中務卿親王 
けふも又人もとはてやくれなゐのこそめの梅の花のさかりを
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

女に梅の花を折りて見せ侍るとて 逢ふにかふる三位中将
紅に匂はざりせば梅の花深き心をよそへましやは
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

そのほどにあめふれど「いとほし」とていづるほどにふみとりてかへりたるをみれば、くれなゐのうすやうひとかさねにて紅梅につけたり。ことばは「いそのかみといふことはしろしめしたらんかし
はるさめにぬれたる花のえだよりも人しれぬみのそでぞわりなき
(蜻蛉日記~岩波文庫)

くれなゐのなみたにそむるうめのはなむかしのはるをこふるなるへし
(能因法師集~日文研HPより)

 閨のつま近き紅梅の色も香も変はらぬを、「春や昔の」と、異花よりもこれに心寄せのあるは、飽かざりし匂ひのしみにけるにや。後夜に閼伽奉らせたまふ。下臈の尼のすこし若きがある、召し出でて花折らすれば、かことがましく散るに、いとど匂ひ来れば、
 「袖触れし人こそ見えね花の香のそれかと匂ふ春のあけぼの」
(源氏物語・手習~バージニア大学HPより)


古典の季節表現 春 一月 若菜

2018年01月07日 | 日本古典文学-春

天平元年班田之時使葛城王従山背國贈薩妙觀命婦等所歌一首
あかねさす昼は田賜びてぬばたまの夜のいとまに摘める芹これ
大夫と思へるものを太刀佩きて可尓波の田居に芹ぞ摘みける
 右二首左大臣讀之云尓 [左大臣是葛城王 後賜橘姓也]
(万葉集~バージニア大学HPより)

あらをたのこそのふるあとふみわけてゆきけのわかないまやつむらむ
あたちのののさはのこほりとけにけりますけにましるこせりつむなり
けふそかしなつなはこへらせりつみてはやななくさのおものまゐらむ
ななくさのかすならねともはるののにゑくのわかはもつみはのこさし
(夫木抄~日文研HPより)

君がため山田の沢にゑぐ摘むと雪消の水に裳の裾濡れぬ
(万葉集~バージニア大学HPより)

野べいでて誰がいへづとと折りつらむ春のわらびにまじるいたどり
(土御門院御集)

住吉社に奉りける百首歌の中に、若菜を 皇太后宮大夫俊成 
いさやこらわかな摘てんね芹生るあさゝは小野は里遠くとも 
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

三百六十首歌の中に 曽弥好忠 
ねせりつむ春の沢田におりたちて衣のすそのぬれぬ日(そ)なき 
(続後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

百首歌よませ給うける中に、沢若菜 伏見院御製
春あさき雪けの水に袖ぬれて沢田のわかなけふそ摘つる 
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

沢若菜
うちむれて野沢のわかなつむにたにのとけき御世の春そしらるる
春といへは野沢の氷かつ消えてわかなつむへき時をしるかな
今朝みれは野さはの水のあさみとりゑくのわかなや下萌えぬらん
(宝治百首~日文研HPより)

建保二年内大臣家百首歌に、朝若菜 前中納言定家
たかためとまた朝霜のけぬかうへに袖ふりはへて若なつむらん
(続後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

七日は、雪間の若菜、青やかに摘み出でつつ、例はことにさやうなるものも目に近からぬところどころにも、もてさわぎあつかひたるこそをかしけれ。
(枕草子~前田家本)

 むつきの七日中宮亮仲実かもとへなゝくさのなつかはすとてよめる
岡見河む月に映るゑこの畦をつみしなへてもそこの御為そ
 返し 仲実朝臣
心さし深きみたにゝつみためていしみゆすりて洗ふね芹そ
(散木奇歌集~群書類従15)

 正月七日若な人にやるとて
春日野のけふなゝ草のこれならで君をとふひはいつそ共なし
(赤染衛門集~群書類従15)

年替はりぬれば、空のけしきうららかなるに、汀の氷解けたるを、ありがたくもと眺めたまふ。聖の坊より、「雪消えに摘みてはべるなり」とて、沢の芹、蕨などたてまつりたり。斎の御台に参れる。
(源氏物語・椎本~バージニア大学HPより)

 故式部卿の宮、二条の御息所に絶えたまひて、またの年の正月の七日の日、若菜奉りたまうけるに、
  ふるさとと荒れにし宿の草の葉も君がためとぞまづはつみける
(大和物語~新編日本古典文学全集)

見渡せば、松の葉白き吉野山いく重積もりし雪ならん。
ツレ 深山には松の雪だに消えなくに、都は野べの若菜摘む、頃にも今やなりぬらん、思ひ遣るこそゆかしけれ。
ツレ 木の芽春雨降るとても、木の芽春雨降るとても、なほ消え難きこの野べの、雪の下なる若菜をば、いま幾日ありて摘ままし。春立つと、いふばかりにやみ吉野の、山も霞みて白雪の、消えし跡こそ道となれ、消えし跡こそ道となれ。
(謡曲・二人静~岩波・日本古典文学大系)

シテツレ 若菜摘む、生田の小野の朝風に、なほ冴えかへる袂かな。
ツレ 木の芽も春の淡雪に、 シテツレ 森の下草なほ寒し。
シテ 深山には松の雪だに消えなくに、 シテツレ 都は野べの若菜摘む、頃にも今やなりぬらん、思ひやるこそゆかしけれ。 
ツレ ここはまたもとより所も天離がる、 シテツレ 鄙人なればおのづから、憂きも命の生田の海の、身を限りにて憂き業の、春としもなき小野に出でて
シテツレ 若菜摘む、いく里人の跡ならん、雪間あまたに野はなりぬ。
シテツレ 道なしとても踏み分けて、道なしとても踏み分けて、野沢の若菜今日摘まん、雪間を待つならば、若菜ももしや老いもせん。嵐吹く森の木蔭、小野の雪もなほ冴えて、春としも七草の、生田の若菜摘まうよ、生田の若菜摘まうよ。
(略)
君がため、春の野に出でて若菜摘む、衣手寒し消え残る、雪ながら摘まうよ、淡雪ながら摘まうよ。
地 沢べなる、氷凝りは薄く残れども、水の深芹、掻き分けて
青緑、色ながらいざや摘まうよ、色ながらいざや摘まうよ。
(略)
佐野の茎立若立ちて、
地 緑の色も名に染む、 シテ 長安の薺 地 辛薺、 シテ 白み草も有明の、 地 雪に紛れて、摘みかぬるまで春寒き、小野の朝風、また森の下枝松垂れて、いづれを-春とは白波の、川風までも冴えかへり、吹かるる-袂もなほ寒し、摘み残して帰らん、若菜摘み残し帰らん。
(謡曲・求塚~岩波・日本古典文学大系)

(2013年1月7日の「若菜」の記事は削除しました。)


古典の季節表現 春 一月二日 朝覲行幸

2018年01月02日 | 日本古典文学-春

今上はしめて鳥羽殿に朝覲行幸(てうきんのきやうかう)の時、更につかへて両院御拝(りやうゐんこはい)の儀まのあたり見奉りて、思ひつゝけ侍ける 前太政大臣(実氏) 
ためしなき我身よいかに年たけてかゝる御幸に*出つかへつる(イ:けふつかへつる)
(続後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

正応二年三月鳥羽殿に朝覲行幸の時、花添春色といふ事を講せられけるに 一条内大臣 
花の色を春のひかりと思ひしやけふの御幸のためし成らん 
(続後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
正応二年三月、鳥羽殿に朝覲行幸のとき、花添春色といふ事を講せられけるに 為道朝臣 
花の色は千とせをかねて古のためしにまさる春にも有かな 
 前参議為実 
うつろはぬはこやの山の花の色にけふ九重の春をそへつゝ 
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

花園院位におはしましける時、朝覲行幸の儀を御覧せさせおはしましてよませ給うける 伏見院御製 
春にあふ老木の桜ふりぬれはあまたかさなるみゆきをそみる 
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

 偽れることにより、女院も院に渡らせ給ひにければ、こもりゐて侍りけるを、朝覲の行幸につかうまつるべきよしせちにのたまはせければ、こと直るべきにやと思ひて、つかうまつれりける後もかひなく侍りければ 言はで忍ぶの一条内大臣
逢ふことのなみのぬれ衣(ぎぬ)たち出でてほすやと待ちしほどぞはかなき
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)


古典の季節表現 春 二月中旬

2017年02月19日 | 日本古典文学-春

(弘仁三年二月)辛丑(十二日) 天皇が神泉苑に行幸して、花樹を観覧した。文人に命じて詩を作らせ、身分に応じて綿を下賜した。花宴の節は今回が起源である。
(日本後紀〈全現代語訳〉~講談社学術文庫)

白き紙に、
 「中道を隔つるほどはなけれども心乱るる今朝のあは雪」
 梅に付けたまへり。
(略)やがて見出だして、端近くおはします。白き御衣どもを着たまひて、花をまさぐりたまひつつ、「友待つ雪」のほのかに残れる上に、うち散り添ふ空を眺めたまへり。鴬の若やかに、近き紅梅の末にうち鳴きなるを、
 「袖こそ匂へ」
 と花をひき隠して、御簾押し上げて眺めたまへるさま、夢にも、かかる人の親にて、重き位と見えたまはず、若うなまめかしき御さまなり。
(源氏物語・若菜上~バージニア大学HPより)

とみのこうぢどの内裏になりて、ひろ御所のつまの紅梅さかりなりし比、月のおぼろなる夜、たれとはなくて、しろきうすやうにかきてむすびつけられたりし、
色もかもかさねて匂へ梅の花こゝのへになる宿のしるしに
この御返事は、院の御所へ申すべしとおほせられしかば、辨内侍、
いろも香もさこそ重ねて匂ふらめ九重になるやどの梅がえ
こうたうの内侍どのゝつぼねは、女院の御所なりけるほど、宰相どのと申す人のつぼねにてありける。その人のもとより、「むめやさかりなるらん。」とたづねたる返事に、勾當内侍にかはりて、辨内侍、
色もかもなれし人をやしのぶ覽みせばや梅の花の盛りを
返事、宰相殿にかはりて、權大納言、
ながめはやなれこし梅の花のかも今九重に色はそふ覽
このうたども、「太政大臣殿〔實氏〕きかせ給ひて、『さしもゆゝしき「色もかも」の御秀歌にかよひて、「いろもかも」とあるわろし。又御返事も、「こゝのへになる」といみじくつゞけられたるに、「いまこゝのへ」とよみたる、たゞしかるべからず。ともにおつなり。』とおほせらるゝ。」ときゝしめんぼくなさ、をかしくて、辨内侍、
匂ひなき色を重ねて梅のはなつらくも人にとがめられぬる
(弁内侍日記~群書類從18)

  十一日、右馬頭などともなひて、初午とて稲荷社など拝みたてまつりて、木幡の奥、いくてといふ所の梅を見侍る路すがら、短尺懐(ふところ)に入て歌詠みしに、野径霞
野辺遠き霞にまじり行人の袖より袖に梅が香ぞする
(草根集~「和歌文学大系66」明治書院)

十二日ゆきだち風にたぐひてちりまがふ。むま時許よりあめになりてしづかにふりくらすまゝにしたがひて世中あはれげなり。(略)十七日あめのどやかにふるにかたふたがりたりとおもふこともあり。
(蜻蛉日記~バージニア大学HPより)

 きさらきの中の十日あまり花をこそなとまつころに風さむく空かきくらしてはては雪ふりいてゝひめもすふゝきなとこしちにいふらむもおほうにやとなかめ暮したるにとなりわたらひしめたる宗春法師のくれもかゝる空を心あらんわかきものなと尋とふらん又した待もすらんたとたはふれて申をくるとて
ふりかくす雪の心をうらみてもしたにや君か花を待らん
 と申をくりたる返事につけて
春さむみ花はこゝろもかけぬよにふりくる雪そ情かほなる
(源孝範集~群書類従15)

宮は、東山の春を見給へられんとて、中納言の山の井へ、まゐらせ給へり。二月のなかば過ぎ行くほどなりければ、いづれの山の端にも、棚引きわたる霞の間より、初花のこぼれ出でて、裾野の浅緑より、見越さるるこそ、春の色はひとかたならね。
(松陰中納言~「中世王朝物語全集16」笠間書院)

 十日かもへまうづ。しのびてもろともにといふ人あれば「なにかは」とてまうでたり。いつもめづらしき心ちするところなれば今日も心のばゆる心ちあらたまるべしなどするもかうしひけるはとみゆらん。さきのとほり北野にものすればさはべにものつむをむなわらはべなどもあり。うちつけにゑぐつむかとおもへばもすそおもひやられけり。船岡うちめぐりなどするもいとをかし。
(蜻蛉日記~バージニア大学HPより)

二月十日、春日の臨時祭に立つ。このきはしめたる事なれば、おもしろく嬉しくて、酉のはじめに梨原に著きぬ。子にもやなりぬらむの程にぞ、宮にまゐる。更けたる月の木の間より見えて、庭火のかげ、神(かん)さびたる笛の音(ね)、拍子の音(おと)もすごく、舞人の立ち舞ふけしき、光を神もいかにと、面白くめでたし。
君が世にかかるひかりの色そふる神のこころもおもひ知られて
事果てぬれば、梨原へかへりぬ。序にちと入湯などして、京へ參り著きぬ。
(中務内侍日記~有朋堂文庫「平安朝日記集」)

きさらきのなかはの比、八十の賀し侍るついてに、釈教の心を 蓮生法師
法の道あとふむかひはなけれとも我も八十の春にあひぬる 
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
蓮生法師八十賀し侍けるによみてつかはしける 前右兵衛督為教
ふりにける八十の後をかそへても残るよはひの末そ久しき
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

二月も十餘日になりぬ。きくところに十夜なんかよへるとちぐさに人はいふ。つれづれとあるほどに彼岸にいりぬれば「なほあるよりは精進せん」とてうはむしろたゞのむしろのきよきにしきかへさすればちりはらひなどするをみるにもかやうのことは思ひかけざりし物をなどおもへばいみじうて
うちはらふちりのみつもるさむしろもなげくかずにはしかじとぞ思ふ
(蜻蛉日記~バージニア大学HPより)

 御修法(しゆほふ)の心ぎたなさも、御心のうちわびしきに、六日と申しし夜は、二月(きさらぎ)の十八日にて侍りしに、広御所(ひろごしよ)の前の紅梅、常の年よりも色もにほひもなべてならぬを御覧ぜられて、ふくるまでありしほどに、後夜果つる音すれば、(略)
(とはずがたり~講談社学術文庫)

(治承四年二月)十四日。天晴る。明月片雲無し。庭梅盛んに開く。芬芳四散す。家中人無く、一身徘徊す。夜深く寝所に帰る。燈、髣髴として猶寝に付くの心無し。更に南の方に出で、梅花を見るの間、忽ち炎上の由を聞く。(略)
(『訓読明月記』今川文雄訳、河出書房新社)

(正治二年二月)十一日。天晴る。夕に雨降る。夜に入りて甚雨。巳の時許りに、女房小児等を相具し、三条坊門に行き向ふ。下し置きて、大炊殿に参ず。申の時許りに退出す。坊門に行き向ひ、昏、廬に帰る。夜に入り、召し有りと雖も、風雨深泥、術無きの間、所労の由を申して参ぜず。後に聞く、別当拝賀。申し継ぐため長兼参入す。伺候するの間、忽ち詩を賦せらると云々。題に云ふ、雨中花柳に対す。
(『訓読明月記』今川文雄訳、河出書房新社)

(承元二年二月)十七日。天晴る。早旦に御狩。人々の衣装、善を尽し美を尽す。留守。申の時、還りおはします。
(『訓読明月記』今川文雄訳、河出書房新社)

(嘉禄元年二月)十五日。天晴れ、風烈し。(略)今日、思ふ所有りて夕陽を拝す。西日山に入り、東に月初めて昇る。桜の早花一両開き、梅花未だ落ちず。春の風景自然(おのづから)感を催す。(略)
(『訓読明月記』今川文雄訳、河出書房新社)


古典の季節表現 春

2017年01月04日 | 日本古典文学-春

かにまよふ 梅がのきばに にほひどり 花にあふせを まつとせの あけてうれしき けそうぶみ ひらくはつねも はづかしく まだ解(とけ)かぬる うすごふり ゆきにおもへば ふかくさの 百夜(ももよ)も通ふ こひのやみ きみがなさけの かりねのとこに まくらかたしく よもすがら
(端唄百番「御所車」~岩波文庫・「江戸端唄集」)