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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

古典の季節表現 春 櫻に寄せて-哀傷

2016年04月08日 | 日本古典文学-春

正暦二年諒闇の春、さくらの枝につけて、道信朝臣につかはしける 実方朝臣
墨染のころもうき世の花さかりおり忘てもおりてける哉
返し 道信朝臣
あかさりし花をや春も恋つらんありし昔を思ひ出つゝ
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

ほりかはのおほきおほいまうちきみ身まかりにける時に、ふか草の山におさめてけるのちによみける かむつけのみねを
深草の野辺の桜し心あらはことしはかりはすみそめにさけ
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

嵯峨の院かくれさせ給ひての春、きさいの宮たちのおはしますところに、花をさし入れて かやが下折れの関白
かかりけることしの春の花なれば色をも香をも憂しとこそ見れ
その花に書き付けさせ給ひける 中宮
かかりけることしの春に長らへて憂しとも花を見るぞ悲しき
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

子にまかりをくれて侍けるころ、東山にこもりて 中務
さけはちるさかねは恋し山さくらおもひたえせぬ花のうへかな
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

やよひのころ、人にをくれて歎ける人のもとへつかはしける 成尋法師
花さくらまたさかりにて散にけんなけ木の本を思ひこそやれ
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

さくらをうへをきてぬしなくなり侍にけれはよめる よみ人しらす
うへをきし人なき宿の桜花にほひはかりそかはらさりける
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

 三月になりぬれば例の月に参りたれば堀河院の花いとおもしろし。兼方、後三条院におくれ参らせて、
  いにしへに色もかはらず咲きにけり花こそ物は思はざりけれ
と詠みけん、げにと覚えて、花はまことに色もかはらぬけしきなり。
(讃岐典侍日記~岩波文庫)

むすめにまかりをくれて、又のとしの春、さくらの花さかりに家の花を見て、いさゝかにおもひをのふといふ題をよみ侍ける 小野宮太政大臣
さくら花のとけかりけりなき人をこふる涙そまつはおちける
 平兼盛
おも影に色のみのこるさくら花いく世の春をこひむとすらん
 清原元輔
花の色もやともむかしのそれなからかはれる物は露にそ有ける
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

弘安元年三月、藤原景綱ともなひて西山の良峰といふ寺にまうてゝ、外祖父蓮生法師旧跡の花のちり侍けるをみて人々三首歌よみ侍けるに 前大納言為氏
尋きて昔をとへは山里の花のしつくも涙なりけり
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

道命法師なくなりて後、法輪寺のいほりの桜の咲たるをみて 赤染衛門
たれみよと猶にほふらん桜花ちるをおしみし人もなき世に
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

前大僧正行玄身まかりて後、何事も引かへてなけかしくおほえ侍けるに、又の年の春、ひえの山にのほりて、花のおもしろく咲たりけるを見てよみ侍ける 前大僧正全玄
けふみれは深山の花は咲にけりなけきそ春もかはらさりける
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

花のさかりに藤原為頼なとともにて、石蔵にまかれりけるを、中将宣方朝臣、なとかかくと侍らさりけむ、後のたひにはかならす侍らむときこえけるを、そのとし中将も為頼も身まかりにける、又の年、かの花を見て大納言公任につかはしける 中務卿具平のみこ
春くれは散にし花も咲にけりあはれ別のかゝらましかは
返し 前大納言公任
行かへる春や哀と思ふらむ契し人の又もあはねは
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

式部卿敦慶のみこなくなりて、右衛門督兼輔とふらひて侍ける返事に 三条右大臣
春ことに花はちるとも咲ぬへし又あひかたき人の世そうき
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)


古典の季節表現 春 櫻に寄せて 寄花恋

2016年04月06日 | 日本古典文学-春

女院をはつかに見たてまつらせ給ひて、桜に付けて聞こえさせ給ひける あたり去らぬの一条院御歌
いまさらに霞隔てば山桜人目見てきと人に語らん
御返し
春を経て霞晴れせぬ山桜いかなる折か遠目にも見む
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

西四条斎宮のもとに、花につけてつかはしける 権中納言敦忠
匂ひうすくさける花をも君かため折としをれは色まさりけり
返し 雅子内親王
おらさりし時より匂ふ花なれはわかため深き色とやはみる
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

年をへていひ渡侍ける女の、さすかにけちかくはあらさりけるに、春のすゑつかたいひつかはしける 大中臣能宣朝臣
いくかへりさきちる花をなかめつゝ物思ひくらす春にあふらむ
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

桜のいとおもしろう咲きたるを見て、往(い)にし人のもとより、「散らぬ先に、今一度いかで見む」と云ひたるに
疾(と)うを来(こ)よ咲くと見る間に散りぬべし露と花とのなかぞ世の中
といひやりて待つに、日比になりぬれば、いひやる
来(く)まじくは折りてもやらん桜花風の心にまかせては見じ
といひたれば、「なかなかあだの花は見じとてなむ」と云ひたるに
あだなりと名にこそ立てれ桜花霞のうちに籠めてこそをれ
(和泉式部続集~岩波文庫)

寄殘花戀
葉がくれに散りとゞまれる花のみぞ忍びし人に逢ふ心地する
(山家集~日文研HPより)

寄花恋
つれもなき人にみせはやさくらはなかせにしたかふ心よわさを
(山家集~日文研HPより)

寄花恋  摂政左大臣
あたなりし人の心にくらふれは花もときはのものとこそみれ
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

寄花忍恋
思ふ事色にいつとも人とはは花の物いはぬ陰やたのまん
寄春木恋
身にそしむ色も匂ひもなほ迷ふ花のかりねの明けし契は
寄花別恋
おくれかせ花桜戸の休らひにいてゆく袖のあかぬ匂を
寄花契恋
たのめ置く中の契も花のかにふかからぬ夜の袖の別ち
寄花恋
契りしもうき名はよそにちりの世の花にあたなる色やまさらん
(草根集~日文研HPより)


古典の季節表現 春 一月 立春

2016年01月10日 | 日本古典文学-春

 三年春正月一日於因幡國廳賜饗國郡司等之宴歌一首
新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事
 右一首守大伴宿祢家持作之
(万葉集~バージニア大学HPより)

 六年正月四日氏人等賀集于少納言大伴宿祢家持之宅宴飲歌三首
霜の上に霰た走りいやましに我れは参ゐ来む年の緒長く
 右一首左兵衛督大伴宿祢千室
年月は新た新たに相見れど我が思ふ君は飽き足らぬかも
 右一首民部少丞大伴宿祢村上
霞立つ春の初めを今日のごと見むと思へば楽しとぞ思ふ
 右一首左京少進大伴宿祢池主
(万葉集~バージニア大学HPより)

立春の心をよみ侍ける 前大納言為定
天つ空霞へたてゝ久かたの雲ゐはるかに春や立らん
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

大納言忠頼の七十賀を娘のし侍りける屏風の歌 よみ人知らず落窪
朝ぼらけかすみて見ゆる吉野山春や夜のまに超えてきつらむ
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

春たつ心をよみ侍ける 前大納言為世
今朝よりや春はきぬらんあら玉の年立かへりかすむ空かな
(続後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

ひきかへてよものこすゑもかすむなりけふよりはるのあけほののそら
(秋篠月清集~日文研HPより)

百首歌めしけるついてに 順徳院御製
音羽川山にや春のこえつらんせき入ておとす雪の下水
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

嘉元内裏に百首歌奉りける時 後照念院関白太政大臣
春のくるあさけの風のをとは河たきつ岩ねも氷とくらし
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

堀河院御時百首歌めしけるとき、立春の心をよみ侍ける 修理大夫顕季
うちなひき春は来にけり山河の岩まの氷けふやとくらん
 皇后宮肥後
つらゝゐしほそ谷川のとけゆくは水上よりや春はたつらむ
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

寛平御時、きさいの宮の歌合のうた よみ人しらす
氷とく春立くらし三吉野のよしのゝ滝のをとまさるなり
(続後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

春立つ日
いつしかと氷とけゆくみかは水ゆくすゑとほきけさのはつはる
(建礼門院右京大夫集~岩波文庫)

 程なく年暮れて、春にも成にけり。霞み込めたる眺めのたどたどしさ、谷の戸は隣なれども、鶯の初音だにもおとづれ来ず。思ひ慣れにし春の空は忍びがたく、昔の恋しき程にしも、又都の便りありと告げたる人あれば、(略)
(十六夜日記~岩波・新古典文学大系「中世日記紀行集」)

鶯をよみ侍ける 柿本人麿
うちなひき春たちぬらし我門の柳のうれに鶯なきつ
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

正月八日、春立ける日、うくひすのなきけるをきゝてよめる 藤原顕輔朝臣
けふやさは雪打とけて鶯のみやこに出るはつ音なるらん
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

延喜御時、御屏風の歌 貫之
あたらしく明る年をは百年の春のはしめとうくひすそなく
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)


古典の季節表現 春 躑躅

2015年03月27日 | 日本古典文学-春

夕につゝしを見るといふ心をよめる 摂政左大臣家参川
入日さす夕紅の色はへて山したてらす岩つゝしかな
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

つつしさくならひのをかのまつかけにおなしゆふひのいろそうつろふ
(夫木抄~日文研HPより)

四季物語の中に つつじの木工頭
あかねさす入日の影に色映えて見るも輝く岩つつじかな
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

くれなゐのやしほにみゆるいはつつしはるさめにこそいろまさりけれ
(夫木抄~日文研HPより)

建仁元年影供歌合に、水辺躑躅 前中納言定家
竜田川岩根のつゝし影みえて猶水くゝる春のくれなゐ
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

百首歌よませ給うける中に 順徳院御製
水鳥の羽かひの山の春の色にひとりましらぬ岩棡哉
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

樵路躑躅といふ事を 前大僧正慈鎮
山人の爪木にさせるいはつゝし心ありてや手折くしつる
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

山路のつゝじ
はひつたひ折らで躑躅を手にぞとるさかしき山のとり所には
(山家集~バージニア大学HPより)

題しらす 読人不知
思ひいつるときはの山のいはつつしいはねはこそあれこひしきものを
(古今集~日文研HPより)

あふことはとほつのはまのいはつつしいはてやくちむそむるこころは
(正治二年初度百首~日文研HPより)

建保三年内裏百首歌奉りける時 前中納言定家
岩つゝしいはてやそむる忍山心のおくの色をたつねて
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 源重之
光なき谷にも春の岩つゝしいはて入日の色にさくらん
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)


古典の季節表現 春 三月

2015年03月16日 | 日本古典文学-春

 三月になりぬ。このめすゞめがくれになりてまつりのころおぼえてさかきふえこひしういとものあはれなるにそへてもなどなにごとを猶おどろかしけるもくやしうれいのたえまよりもやすからずおぼえけんはなにの心にかありけん。
(蜻蛉日記~バージニア大学HPより)

三月ばかりの夜のあはれなるを見て
物思ふに哀れなるかと我ならぬ人に今宵の月を見せばや
(和泉式部続集~岩波文庫)

うちなかめはるのやよひのみしかよをねもせてひとりあかすころかな
(夫木抄~日文研HPより)

播磨守に侍りけるとき、三月はかりに、舟よりのほり侍けるに、つのくにゝやまちといふところに、参議為通朝臣しほゆあみて侍、ときゝてつかはしける 平忠盛朝臣
なかゐすな都の花も咲ぬらん我もなにゆへいそく舟出そ
(詞花和歌集~国文学研究資料館HPより)

弘安三年三月、日吉社にはしめて御幸侍ける時、天台座主にてよみ侍ける 前大僧正公豪
としことの御幸を契る春なれは色をそへてや花も咲らん
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

嘉承二年三月鳥羽殿の行幸に池上花といへる事をよませ給ひける 堀河院御製
いけ水のそこさへ匂ふ花さくら見るともあかし千世の春まて
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)
嘉承二年鳥羽殿にて、池上花といへることを 富家入道前関白太政大臣
千世をへてすむへき池の水なれはうつれる花の陰ものとけし
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
堀河院の御時、鳥羽殿に行幸の日、池上花といへる心を読侍ける 法性寺入道前関白太政大臣
池水に花のにしきをうつしては浪のあやをやたちかさぬらん
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
嘉承二年三月、鳥羽に行幸侍ける時、池上花といへることを講せられ侍けるに 中御門右大臣
ちよをへてそこまてすめる池水にふかくもうつる花の色哉
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
堀河院御時、鳥羽殿にて、池上花といへる心を講せられけるに 大納言俊明
うちよする浪に散かふ花みれはこほらぬ池に雪そつもれる
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
おなし御時(堀川院御時)、鳥羽殿に行幸の日、池上花といへる心をよませ給けるに 中納言実隆
桜花うつれる池のかけみれは波さへけふはかさしおりけり
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館HPより)
堀川院御時、鳥羽殿に行幸の日、池上花といへる心を読侍ける 権中納言俊忠
千とせすむ池の汀の八重桜かけさへ底にかさねてそ見る
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

延喜の御屏風に伊勢の御息所、和歌を読める語(こと)
今昔、延喜天皇、御子の宮の御着袴(はかまぎ)の料に御屏風を為(せ)させ給て、(略)春の帖に桜の花の栄(さき)たる所に、女車の山路行たる絵を書たる所に当て色紙形有り、(略)
伊衡は仰を奉て、御息所の家に行て見れば、五条渡なる所也。庭の木立ち極て木暗くて、前栽極く可咲(おかし)く殖たり。庭は苔、砂(いさご)青み渡たり。三月許(ばかり)の事なれば、前桜■(ごんべん+慈)(おもしろ)く栄へ、寝殿の南面に帽額の簾(すだれ)所々破て神さびたり。(略)
程も久く成ぬれば、紫の薄様に歌を書て結ひて、同じ色の薄様に裏(つつみ)て、女の装束を具して押出たり。赤色の重(かさね)の唐衣、地摺の裳、濃き袴也。(略)
ちりちらずきかまほしきをふるさとのはなみてかへるひともあはなむ
(今昔物語集・巻第二十四・第三十一~岩波文庫)

 弥生になりて、咲く桜あれば、散りかひくもり、おほかたの盛りなるころ、のどやかにおはする所は、紛るることなく、端近なる罪もあるまじかめり。
  そのころ、十八、九のほどやおはしけむ、御容貌も心ばへも、とりどりにぞをかしき。姫君は、いとあざやかに気高う、今めかしきさましたまひて、げに、ただ人にて見たてまつらむは、似げなうぞ見えたまふ。
  桜の細長、山吹などの、折にあひたる色あひの、なつかしきほどに重なりたる裾まで、愛敬のこぼれ落ちたるやうに見ゆる、御もてなしなども、らうらうじく、心恥づかしき気さへ添ひたまへり。
  今一所は、薄紅梅に、桜色にて、柳の糸のやうに、たをたをとたゆみ、いとそびやかになまめかしう、澄みたるさまして、重りかに心深きけはひは、まさりたまへれど、匂ひやかなるけはひは、こよなしとぞ人思へる。
(略)
 御前の花の木どもの中にも、匂ひまさりてをかしき桜を折らせて、「他のには似ずこそ」など、もてあそびたまふを、
  「幼くおはしましし時、この花は、わがぞ、わがぞと、争ひたまひしを、故殿は、姫君の御花ぞと定めたまふ。上は、若君の御木と定めたまひしを、いとさは泣きののしらねど、やすからず思ひたまへられしはや」とて、「この桜の老木になりにけるにつけても、過ぎにける齢を思ひたまへ出づれば、あまたの人に後れはべりにける、身の愁へも、止めがたうこそ」
  など、泣きみ笑ひみ聞こえたまひて、例よりはのどやかにおはす。人の婿になりて、心静かにも今は見えたまはぬを、花に心とどめてものしたまふ。
(略)
 君達は、花の争ひをしつつ明かし暮らしたまふに、風荒らかに吹きたる夕つ方、乱れ落つるがいと口惜しうあたらしければ、負け方の姫君、
  「桜ゆゑ風に心の騒ぐかな思ひぐまなき花と見る見る」
  御方の宰相の君、
  「咲くと見てかつは散りぬる花なれば負くるを深き恨みともせず」
  と聞こえ助くれば、右の姫君、
  「風に散ることは世の常枝ながら移ろふ花をただにしも見じ」
  この御方の大輔の君、
  「心ありて池のみぎはに落つる花あわとなりてもわが方に寄れ」
  勝ち方の童女おりて、花の下にありきて、散りたるをいと多く拾ひて、持て参れり。
  「大空の風に散れども桜花おのがものとぞかきつめて見る」
  左のなれき、
  「桜花匂ひあまたに散らさじとおほふばかりの袖はありやは
 心せばげにこそ見ゆめれ」など言ひ落とす。
(源氏物語・竹河~バージニア大学HPより)

 弥生ばかりの空うららかなる日、六条の院に、兵部卿宮、衛門督など参りたまへり。
(略)
 ゆゑある庭の木立のいたく霞みこめたるに、色々紐ときわたる花の木ども、わづかなる萌黄の蔭に、かくはかなきことなれど、(略)
 いと労ある心ばへども見えて、数多くなりゆくに、上臈も乱れて、冠の額すこしくつろぎたり。大将の君も、御位のほど思ふこそ、例ならぬ乱りがはしさかなとおぼゆれ、見る目は、人よりけに若くをかしげにて、桜の直衣のやや萎えたるに、指貫の裾つ方、すこしふくみて、けしきばかり引き上げたまへり。
 軽々しうも見えず、ものきよげなるうちとけ姿に、花の雪のやうに降りかかれば、うち見上げて、しをれたる枝すこし押し折りて、御階の中のしなのほどにゐたまひぬ。督の君続きて、
 「花、乱りがはしく散るめりや。桜は避きてこそ」
 などのたまひつつ、宮の御前の方を後目に見れば、例の、ことにをさまらぬけはひどもして、色々こぼれ出でたる御簾のつま、透影など、春の手向けの幣袋にやとおぼゆ。
(源氏物語・若菜上~バージニア大学HPより)

をしきかなやよひのそらにはなちりてこすゑにすさふうくひすのこゑ
(千五百番歌合~日文研HPより)

たいしらす 大中臣能宣朝臣
ちる花にせきとめらるゝ山川のふかくも春の成にけるかな
(詞花和歌集~国文学研究資料館HPより)

雛屋(ひいなや)のあたりも、なほめづらかなる事ども添ひて、池の藤波は、紫の雲にまがひ、八重山吹は、井手の里にもこえて咲き乱れたり。青葉の桜などは、なべて一木(ひとき)二木(ふたき)、まれなる物とこそ見慣れたれども、数を尽くして咲き続きたるさま、まことの花盛り無徳(むとく)に圧(お)されぬべし。
(恋路ゆかしき大将~「中世王朝物語全集8」笠間書院)

 西明寺の牡丹花の時、元九を憶(おも)ふ
前年 名を題する処(ところ)、
今日(こんにち) 花を看(み)に来(きた)る。
一(ひと)たび芸香(うんかう)の吏(り)となりてより、
三(み)たび牡丹の開くを見る。
あにひとり花の惜(をし)むに堪(た)ふるのみならんや、
まさに知る老(おい)の暗(あん)に催すを。
なんぞいはんや花を尋ぬるの伴(とも)、
東都に去っていまだ廻(かへ)らず。
なんすれぞ知らん紅芳(こうはう)の側(かたはら)、
春尽きて思(おもひ)悠(いう)なる哉(かな)。
(「漢詩大系12白楽天」集英社)

こかくれてはるのすゑにそなりにけるきしのやまふきいろまさりゆく
(能宣集[花山院献上本]~日文研HPより)

うら若きやよひの野辺のさいた妻春は末葉になりにけるかな
(六百番歌合~岩波文庫『六百番歌合・六百番陳情』)

もののふのやよひといへは梓弓はるの末にも成りにけるかな
(百首歌合-建長八年九月十三日~日文研HPより)

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弘安六年三月県召除目の中の日、雨のふり侍けるに、前大納言為世いまた兵衛督にて参議をのそみ申けるついてに 前大納言為氏
年をふる杜の柏木この雨にもれぬめくみの春をしらはや
返し 照念院入道関白前太政大臣
さりともとたのみをかけよ春雨にもれぬめくみは君にまかせて
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

のそむ事かなはさりける年の、三月の始つかたまて庭の花さき侍らさりけれは 藤原宗秀
身こそかく春のめくみのよそならめ花さへ時をしらぬ宿かな
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

貞和のころ三月の始つかた、うれへあはすること侍しついてに申をくり侍し 按察使資明
老はつるおとろの道の下草は春のめくみにあふかひもなし
返し 前大納言為定
思ひしれめくみを頼む春にたにあはぬおとろの道の下草
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

やまひかきりに侍ける春、三月の廿日あまり迄庭の花をそく咲侍けるによめる 従三位藤子
折しもあれ心つくしにまたれすはことしはかりの花は見てまし
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

弘安元年三月、藤原景綱ともなひて西山の良峰といふ寺にまうてゝ、外祖父蓮生法師旧跡の花のちり侍けるをみて人々三首歌よみ侍けるに 前大納言為氏
尋きて昔をとへは山里の花のしつくも涙なりけり
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

やよひの比、源頼之朝臣か遠忌に嵯峨の墓所にまかりたりけるに、雪のふるを見て 源満元朝臣
思はすよ花をかたみのさかの山雪に跡とふ千世の古みち
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

洞院摂政のことを思ひてよみ侍ける 前右大臣〈忠〉
わかれにしむかしの春を思ひ出て弥生のけふの空そかなしき
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

.
(安貞元年閏三月)一日(庚辰)。天晴れ、風烈し。貞応二年核を埋めし梨木の花、初めて開く。
二日(辛巳)。朝天陰る。去々年の春、継ぐ所の八重桜の花又開かんと欲す。之を以て心神を養ふ。冬春の間に栽うる木、皆以て枯れず、葉各々萌ゆ。(略)
(『訓読明月記』今川文雄訳、河出書房新社)