雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

お送りする心 ・ 小さな小さな物語 ( 309 )

2012-01-25 10:45:42 | 小さな小さな物語 第五部~第八部
今日、八月十六日は京都大文字の送り火が焚かれる日です。
今年は何かと騒がれたようですが、私たちの近くで過ごされた御霊(ミタマ)たちが、静かにお帰りいただけるように祈るばかりです。


京都五山の送り火につきましては、かなり前のことになりますが、作品の中に使いたくて少々勉強したことがあります。
盂蘭盆会の終りににあたって行われる五山(正しくは六つの山ですが)の送り火は、仏教の儀式と強く結ばれているようですが、発生や伝承の過程では、仏教とは関係なく多くの信仰や伝統が加えられてきたようです。
京都に限らず、今日でも各地で「大文字」やさまざまな形での送り火行事がなされていますが、そのいずれもが、特定の宗教儀式というよりは、もっと素朴なご先祖の御霊を慰めるという気持から発生し、今日も、さまざまな宗教儀式の形をとっていても、その気持ちに大きな変化がないように思われるのです。


この世のすべてを造られたという造物主というような存在があると仮定した場合、おそらく「人間」は、造物主の想定外の作品だったのではないでしょうか。
それは、きっと、「人間」が「火」というものを手にした時から造物主が意図した範囲を超える存在になっていったのではないでしょうか。
おそらく、私たちは、「火」を手にした早い段階から、ご先祖の御霊という存在と語り合う重要な役割を「火」に求めて来たように思われるのです。そして、ご先祖に限らず、一足先にかの国に旅立っていった御霊たちと、いつまでも心を通わせようとする人間の行為も、造物主の想定外だったかもしれません。


京都五山の送り火は、荘厳ですばらしいものです。
しかし、身近にお迎えした御霊たちを、かの国にお返しする道を照らすためには、あのような立派な焚火を必ずしも必要とするわけではありますまい。各地に伝えられる伝統行事しかり、小さな仏壇の蝋燭の微かな明かりもしかり、あるいはそれが線香花火だったとしても、そこに私たちのお送りする心さえあれば、再会を約して旅立ってくれることでしょう。

( 2011.08.16 )

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