雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

御方々・君達・殿上人など

2014-11-14 11:00:44 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第九十六段  御方々・君達・殿上人など

御方々・君達・殿上人など、御前に人のいと多くさぶらへば、廂の柱によりかかりて、女房と物語りなどしてゐたるに、ものを投げ賜はせたる、開けて見たれば、
「思ふべしや、いなや。『人、第一ならず』は、いかに」
と、書かせたまへり。

御前にて、物語りなどするついでにも、
「すべて、人に、一に思はれずば、何にかはせむ。ただいみじう、なかなか憎まれ、悪しうせられてあらむ。二、三にては、死ぬともあらじ。一にてを、あらむ」
などいへば、
「一乗の法ななり」
など、人々も笑ふことの筋なめり。

筆・紙など賜はせたれば、
「九品蓮台のあひだには、下品といふとも」
など書きて、進らせたれば、
「無下に思ひ屈じにけり。いとわろし。いひとぢめつることは、さてこそあらめ」
とのたまわす。
「それは、人にしたがひてこそ」
と申せば、
「そが、わろきぞかし。『第一の人に、また一に思はれむ』とこそ思はめ」
と仰せらるる、いとをかし。


お身内の方々、若君たち、殿上人など、御前に人々がとても大勢伺候していましたので、私は廂の間の柱に寄りかかって、女房と話をしながら座っていますと、中宮様が何かを投げて下さったので、それを開けて見たところ、
「そなたを可愛がろうか、可愛がるまいか。『人に、第一番に愛されているのではない』というのは、どう思うか」
と、お書きになっていらっしゃる。

中宮様の御前において皆と何か話している時にも、
「ともかく、相手から、第一番に愛されないのなら、どうしようもない。いっそのこと、ひどく憎まれ、手ひどく扱われた方がましよ。二番三番などは、死んでも、いやです。第一番でどうしてもありたいわ」などと言っていましたので、
「それはどうやら、一条の法(法華経からの引用で、唯一無二といった意)、といったところね」などと女房たちも笑っていた、あの話の線からのお言葉らしい。

筆と紙などを下さいましたので、
「九品蓮台の間に入れるのなら、たとえ下品であっても十分でございます」などと書いて差し上げますと、(極楽浄土には九段階あり、その最下位でもよい、といった意味)
「ひどく卑屈になってしまったものね。大変良くないこと。きっぱり言い切ったことは、そのまま押し通すべきよ」
と仰せになる。
「それは相手によりけりでございます」と申し上げますと、
「それが悪いのです。『第一番の相手に、また第一番に愛されよう』と心掛けるものですよ」
と仰せになられるのは、いかにも中宮様らしい申され方です。



中宮様との意味ありげな会話です。
「一番でなければ」というのは、どこかで聞いたような台詞ですが、少納言さまの性格がとてもよくあらわれているように思うのです。
最後の部分ですが、この「いとをかし」をどのように感じ取ったらよいのかどうしても分からず、とりあえず、このように表現しておきました。
無責任で申し訳ありません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする