心の花園 ( 65 )
荘厳に満ちて
北国からは、すでに雪の便りが届けられるようになりました。
季節は秋の盛りといえる頃ですが、十一月初旬のこの頃は、わが国の広さ、特に季節感の差の大きさを感じさせられます。
本州中部より南の地域では、紅葉が山から里へ下ってきた頃ではないでしょうか。
紅葉を代表する樹木としてはカエデの仲間たちの真っ赤に染まる姿が圧巻ですが、古来、「錦こきまぜ」と表現されるように、赤ばかりでなく、黄色や茶色などが複雑に、それでいてそれぞれが鮮明に色づく姿を愛でてきました。
黄色といえば、その代表的な樹木は「イチョウ」ではないでしょうか。
心の花園にも、並木というほどではありませんが、居並んだ「イチョウ」が鮮やかな色合いを深めつつあります。
わが国には、「イチョウ」の名所とされる所や、神木とか地域の象徴とされるような古木がたくさんあります。
新緑の頃のみずみずしい葉色も捨て難いものですが、秋が深まるにつれて色づいてゆくさまは、黄色というより金色と表現したくなるような、荘厳で、神々しくさえ見える美しさです。
「イチョウ」は、わが国では各地でよく見かけることが出来る樹木です。お宮やお寺の神木とされるものなどには、樹齢が千年を越えた巨木も少なくありませんし、街路樹などにもよく見かけられますし、並木として有名な場所も少なくありません。
わが国ばかりでなく、全世界においてでも、広範囲に分布している樹木の代表的なものといえます。
しかし、生物学的にいえば、「イチョウ」は実に貴重な植物なのです。
植物の分類は、植物界の下は、「門・綱・目・科・属・種」と分類されて行きますが、「イチョウ」は「裸子植物門」「イチョウ綱」に属していますが、実は、「イチョウ綱」で現存している植物は「イチョウ」ただ一種なのです。ですから、当然の事ながら、以下の「イチョウ目・イチョウ科・イチョウ属」にも「イチョウ」以外のものは無く、ただ一種の貴重な植物なのです。言うなれば、植物界のシーラカンスのような存在なのです。
「イチョウ」は、このように大変貴重な存在ですが、排気ガスや寒さにも強く、街路樹に使われるなど親しみやすい樹木ですが、ヨーロッパでは1693年に死滅してしまったそうで、現在の物は長崎から持ち込まれたものが数を増やしていったのだそうで、多くの国の「イチョウ」は移植によって増やされたもののようです。
「イチョウ」を漢字書きしますと、「銀杏」というのが一般的ですが、他にも「公孫樹」「鴨足樹」の表記もあります。
「銀杏」というのは、その実である「ギンナン」からきたものでしょうし、「公孫樹」というのは、高貴な出自であることを表しているように思われますし、「鴨足樹」というのは、葉がアヒルの足型に似ていることからきているようです。
このことからも、「イチョウ」は貴重さと親しみやすさが同居している樹木といえます。
「イチョウ」の花言葉は「荘厳」「長寿」「鎮魂」などが紹介されています。いずれも、その姿の神々しさや、生命力の逞しさなどから生まれたものなのでしょう。
晩秋から初冬にかけて、金色に輝く「イチョウ」を眺め、また、降りしきる鴨の足型の葉などを眺めながら、美しさと荘厳さに触れながらも、悠久の命を紡ぐ姿にも思いを馳せたいものです。
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