

公開当時から興味はあったものの、観終わった後 とても落ち込みそうな気がして
どうも映画館に足が向きませんでした。ギンレイホールでの上映も明日までという
ことで、重い腰を上げて観てきました。
落ち込む心配なんて、全くありませんでした。何を危惧していたんだろう、私。
ワシントンDC郊外の高級住宅街に住む裕福な家庭に育ち、優秀な成績で大学を
卒業し、人生のエリートコースを約束され、前途有望なのに ある日突然何もかも
すべてを捨てて旅立ち、アラスカで悲惨な最期を遂げる青年クリス。
愛人の子で私生児、両親の仲が悪い、父親が暴力を振るう。。。そんな家庭は
彼に限ったことではない。世の中を見渡せば、そんな話いくらでもあると思う。
私生児で親がいなく、学校に行くお金はおろか、日々の食べるものさえも手に
入らない、そんな人だっていることを考えば 彼のやっていることに共感出来ません
でした。彼の場合、確かに家庭には恵まれなかったかも知れないけれども お金にも
物資面にも恵まれ、ある意味すべてを手に入れていたのに親への確執からすべてを
放棄し、ただひたすら逃避していたような印象を受けました。
クリスが心の中に増幅させていた憎しみをもっと別のポジティブな行動に変えられな
かったのかなあ~とそれが残念で堪りませんでした。軌道修正する機会はいっぱいあったのに。
放浪の旅で出会う人々は皆クリスに対して優しく、親身になってアドバイスをしてくれ
ました。ある人は息子のように、ある人は弟のように面倒をみてくれました。
様々な人との関わりから学び取れることもあっただろうに。
父親との確執にネガティブな感情に支配されてしまって、周囲の忠告が耳に入って
こなかったんでしょうね。ソルトン・シティで出会ったおじいさんとは世代を超えた
強い絆に結ばれ、養子したいとまで言ってくれたのに。温かく自分を見守ってくれる
人たちをあっさり捨ててしまう。サバイバルの訓練をしたわけでもなく、技能もない
状態でアラスカに行って何を得ようとしたのか。
持っているものを一切捨てて、縛られているものから解き放たれ、自然の中で究極の
自由を求めること。それはもしかしたら誰しも一度は憧れる生活なのかも知れない。
観ていて、辛く印象的だったシーンはいくつかあるのですが、ひとつは不思議なバスでの
生活をたたみ、人が住んでいるところまで戻ろうとした時には雪もすっかり溶け、川幅が
大きくなって帰れなくなってしまったシーン。幸福は人と幸せを分かちあうこと、
誰かと共にいることの喜びであることに気付き、戻ろうとしたのに。。。
それまでも観ていて、裕福な家に生まれ育ったお坊ちゃんの甘さにイライラしていた
けれど ここのシーンは彼の最期を予測してしまう決定的な場面でした。
劇中 本人もショックだったのか、日記に「大失敗。川を渡れない」と大きく書き記した
ノートが大写しされていました。一気に孤独や寂寥の感に襲われたのであろうと思います。
クリスは身体を鍛えたり、野生の植物や猟について自分なりに勉強していたけれど、
地図も時計も持たず、自然の厳しさ、怖さを軽んじているのか軽装で山に乗り込んで
きてしまった。現地の人と一緒に生活をして、生き抜く術を実地を学んでいなかった。
だから猟で仕留めたせっかくの獲物も捌くのに時間が掛かってしまい、うじが湧いて
無駄にしてしまったり。
色々書きましたが、観て本当に良かったと思った作品でした。
18㎏減量した鬼気迫る演技、美しくも厳しい自然、暫く忘れらそうもありません。