旅の続きです。
倉敷をあとに向かったのは尾道。
尾道は温暖な気候と穏やかな瀬戸内海のせいなのか、また古い街並みのせいなのか、とても懐かしい気持ちになる町だった。
駅を出て左手にある小高い山をロープウェイで登ると千光寺があり、そこから見下ろす風景がとてもきれい。
遠くに見えるのが尾道水道で、隣の島と驚くほど距離が近い。
千光寺へ行った下り道、ロープウェイを使わず徒歩で下りたのは「ネコの細道」に寄るためだった。
福猫石と呼ばれる猫の絵が描かれた可愛らしい石が点在している小道で、もしかしたら本物の猫に会えるかもと楽しみにしていたのだけど、まったくいなくて残念だった。
この日は暑かったので、どこか日陰で休んでいたのかもしれない。
でも代わりに犬に会えたので良しかな〜
そのワンコと出会ったのは、船乗り場だった。
尾道に着いた日、船乗り場のベンチに大人しくお座りをしている芝犬がいた。
隣には飼い主の女性が座っていて、一粒ずつドッグフードを食べさせている。
ワンコかわいいなあと横目で見ながら何度か前を通り過ぎたのだけど、いつ見ても飼い主さんが、ドッグフードを食べさせているのが不思議だった。
でも翌日にその理由がわかった。
翌朝、船に乗るため船着場へ行くと、もう飼い主さんとワンコがベンチに座って、前日と同じようにドッグフードを食べさせていた。
船が来るまで時間があったので、隣に座らせてもらってワンコを愛でていたら、飼い主さんの方から話しかけて下さった。
飼い主さんによると、このワンコは14歳になり、家でほとんどエサを食べなくなったそうだ。
でもこの場所に来ると、なぜか食べてくれるのだという。
見ていると、そのワンコは食欲旺盛という感じは全くなくて、飼い主さんが口に持って行っても食べないことが多くあった。
ワンコにご飯を食べさせるために、こうして毎日のように船着場に通って来られているのかと思ったら「幸せな子ですね。こんなに大切にされて」と言ってしまった。
すると飼い主さん。
「ううん、幸せにしてもらったのは、こっちの方。この子が居てくれて、今までどんなに幸せだったか」
そうおっしゃって、優しくワンコの頭を撫ぜていた。
目の前を流れる尾道水道と同じ様に穏やかな目をしたワンコに、ついに我慢ができなくなった。
「あの、、撫ぜさせてもらってもいいですか?」と聞くと、飼い主さんに一瞬の間があったのが気になったが、「どうぞ」と言ってワンコを抱きかかえて私の隣に座らせてくれた。
飼い主さんの手は、ワンコの口が開かないようにしっかりと口元と、そして身体を押さえている。
「この子、知らない人に触られるのが苦手なの」とおっしゃるので、撫でさせてくれなんて言って申し訳なかったと思ったが、せっかくなので声をかけながらそっと撫ぜた。
最初は緊張していたワンコだったが、顔をこちらに向けて甘えるような仕草をしてくれた。
「あらっ大丈夫みたい」と言って飼い主さんが手を離しても怖がる様子はなく「めずらしいわ。こんなことないのに」とおっしゃるので、私も嬉しくなった。
たくさん撫でて最後はワンコにハグしてお別れして来た。
こんがり小麦色のワンコの背中が温かくて、ずっとハグしていたかった。
これは今回の旅の中でも一位、二位を争うくらい思い出になった出来事で、今でもあの温かいワンコの背中とかわいい顔を思い出してはニヤけている。
あら〜、これで旅の記事は終了しようと思っていたのに、書き切れなくなってしまった。
まだ続きます。