言語空間+備忘録

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「司法修習生の司法修習」は「民間会社の新人研修」にはあたらない

2011-10-20 | 日記
 先日、このブログの記事「司法修習生の給費制は打ち切り、貸与制にすべき」のコメント欄に、次のようなコメントをいただきました。



国家資格者かどうかとか、身分は関係ありません。
民間会社の新人研修期間でも、職人の見習い期間でも、いくら使い物にならないからといって給料を払わなくていいですか?入社後はもちろん入社前研修であっても事実上義務付けるのなら給料を支払わないといけないんです。
昼休みに電話番させるだけでも時給払わないといけません。
修習生も同じように身体を拘束されてるんだから対価を払わないといけないというのが原則でしょう。
低所得者がどうのとか関係ないでしょう。


 このコメントに書かれた内容について、私の意見を述べたいと思います。



 まず、このコメントは、「司法修習生には給与を支給すべきだ」と主張しつつ、「低所得者がどうのとか関係ないでしょう」とも主張しています。この主張は奇妙です。

 なぜなら、「司法修習生には給与を支給すべきだ」と主張しつつ、「低所得者がどうのとか」主張しているのは、日弁連(日本弁護士連合会)だからです。つまりこのコメントをされた KKK さんは、
「お金持ちしか法律家になれなくなる」ので「司法修習生には給与を支給すべきだ」という日弁連の主張は「おかしい」
と述べつつ、同時に、「司法修習生には給与を支給すべきだ」と主張されているわけです。

 常識的に考えて、「お金持ちしか法律家になれなくなる」ので「司法修習生には給与を支給すべきだ」という日弁連の主張が「おかしい」と考えるなら、司法修習生には給与を支給すべき「ではない」と考えることになるはずです。それにもかかわらず、なぜか KKK さんは「司法修習生には給与を支給すべきだ」と主張されています。



 ここで、KKK さんが言いたいのは、「なにがなんでも給与を支給しろ!!」なのかもしれない、とも思われます。なぜなら、

 私は上記記事「司法修習生の給費制は打ち切り、貸与制にすべき」において、「お金持ちしか法律家になれなくなる」ので「司法修習生には給与を支給すべきだ」という日弁連の主張は「おかしい」と指摘したのですが、

 それを読んだ KKK さんが「日弁連の論理がおかしいかどうかは関係ない。給与支給という結論先にありきだ。なにがなんでも司法修習生には給与を支給しろ!!」と主張されているとすれば、KKK さんが「低所得者がどうのとか関係ないでしょう」とコメントしつつ、同時に「司法修習生には給与を支給すべきだ」とも主張されていることも、納得がいくからです。

 しかし、これが KKK さんの主張であるとすれば、それはあまりにも「おかしい」と言わざるを得ません。

 「給与支給という結論先にありきだ。なにがなんでも司法修習生には給与を支給しろ!!」や、「司法修習生に給与を支給すべき合理的根拠があるかないかは関係ない。とにかく給与を支給しろ!!」などといった主張は、常識的に考えれば「論外」だということになるからです。



 そこで、別の可能性を考えてみます。すると、KKK さんは、
 「お金持ちしか法律家になれなくなる」ので「司法修習生には給与を支給すべきだ」という日弁連の主張は、たしかに「おかしい」。このような主張を根拠として、司法修習生に給与を支給すべきだと主張している日弁連は「間違っている」。このような根拠で司法修習生に給与を支給することは認められない。この点で、私(=KKK)はあなた(=memo26)の意見に同意する。
 しかし、民間会社の新人研修期間について考えてみれば、いくら使い物にならないからといって給料を払わなくていいなどということはない。司法修習生も同じように身体を拘束されている以上は対価を払わないといけないというのが原則である。したがって、「司法修習生には給与を支給すべきだ」。
と主張されているのではないか、とも考えられます。

 KKK さんの文章を「そのまま、自然に」読めば、このような解釈は採り難い(とりがたい)のですが、このように解釈しなければ、KKK さんは「根拠なんかどうでもいい。なにがなんでも給与を支給しろ!!」と主張されていることになると思います。

 そこで、以下、この解釈を前提として、私の意見を述べます。



 上記解釈を前提とすれば、KKK さんは、民間会社の新人研修と司法修習を同一視し、または同様に捉えたうえで、「司法修習生にも給与を支給すべきだ」と主張していることになります。

 しかし、この種の主張には、重大な疑問があります。それは、民間会社の新人研修の場合、雇用している民間会社が給与を支給しているのですが、(裁判官志望者や検察官志望者はともかく)弁護士になることを志望している司法修習生に、なぜ、「雇用関係にない」国が給与を支給しなければならないのか、という疑問です。

 裁判官志望者・検察官志望者について「のみ」、国は、民間会社の新人研修と同様に給与を支給しろ、という主張であれば、まだわかります。しかし、自営業者になる弁護士に、あるいは自営業者である弁護士に雇用されて働く弁護士に、なぜ、修習期間中「国が」給与を支給しなければならないのでしょうか。



 実際問題として、司法修習生の「圧倒的大多数」は、弁護士になります。とすれば、司法修習生に対する給与支給の是非については、自営業者たる弁護士になる者に対して、その研修期間中に、「国が」給与を支給すべきか否か、という問題を基準にして考えるべきこととなります。

 とすれば、司法修習生の修習期間中には、国は、給与を支給する必要はない、と考えることが合理的です。もし、どうしても民間会社の新人研修と同様に扱うべきだ、と主張したいのであれば、司法修習生に給与(給費)を支給すべき主体は

   国ではなく、
   弁護士の団体である日本弁護士連合会

であると考えなければ、筋が通りません。とすれば、KKK さんとしては、
 日弁連が国に対し、司法修習生に給与(給費)を支給しろと主張しているのは間違っている。国は、弁護士志望者に給与(給費)を支給する必要はない。国ではなく、日弁連(日本弁護士連合会)が、司法修習生に給与(給費)を支給すべきである。
 日弁連は、自己が負担すべき司法修習生の給与(給費)を、国に支給せよと求めている点で、間違っている。
と主張しなければならないことになります。

 この場合、具体的な支給方法は、日弁連の判断に任せてよいとは思いますが、たとえば日弁連が会員(弁護士)から徴収している会費の一部を、司法修習生に給与(給費)として支給するなどといった方法が考えられるでしょう。



 以上により、司法修習生の司法修習を、民間会社の新人研修期間と同一視し、または同様に捉えたうえで、司法修習生の給費(給与)支給を国に対して求める主張は、「合理的な根拠を欠いているので、認められない」と思います。つまり、「司法修習生の司法修習」は「民間会社の新人研修」にはあたらない(該当しない)ということです。

 民間会社の新人研修期間と同一視する論法によって、司法修習生の給費制(給与支給制)維持を国に求めてはならないし、国は、このような給費制維持論は無視すべきである、と考えます。


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