言語空間+備忘録

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宇宙は次の平滑空間たりうるか

2011-10-24 | 日記
水野和夫・萱野稔人 『超マクロ展望 世界経済の真実』 ( p.87 )

萱野 では、アメリカのヘゲモニーにおける空間支配の特徴はどのようなところにあるのでしょうか。今度はそれを考えていきたいと思います。
 「海の国」イギリスからアメリカに覇権が移ったときの新しさは、海ではなく空という空間が世界を制するための決定的なエレメントになったというところにあります。第二次世界大戦以降、空から爆弾を落とすことが軍事的勝利のためにはもっとも重要になりました。それはいまでも変わりません。湾岸戦争でもイラク戦争でも、最初にまず空爆をして、そのあとに地上戦にいくわけですよね。
 だから、世界的なヘゲモニーを確立するためには、空を軍事的に制することが不可欠となった。そこから生まれてきたのが無差別爆撃という戦略です。これはゲルニカ爆撃からはじまって重慶爆撃、東京大空襲、広島・長崎の原爆投下、というかたちで拡大してきました。
 そして第二次世界大戦が終わると、今度はさらに宇宙へと空間支配の範囲が広がっていく。まずソ連が一九五七年に大陸間弾道ミサイルの開発と人工衛星の打ち上げに成功します。その後、ソ連は世界初の有人宇宙飛行に成功し、アメリカはそれを追って一九六九年に人類初の月面着陸を成功させます。ライト兄弟が世界初の有人動力飛行に成功したのが一九〇三年ですから、人類ははじめて空を飛んでからわずか六六年で月までいってしまったんですね。それだけ空と宇宙の開発競争がすさまじかったということです。
 この意味でいうと、二〇世紀は空の時代です。アメリカのヘゲモニーはこの空という空間の制覇のうえに確立されました。海から空へ。これがアメリカのヘゲモニーにおける第一の特徴だと思います。

水野 海から空に、平滑空間がさらに外へと移動したんですね。

(中略)

萱野 ただ、空間支配の場所が空へと移ることで、これまでとは違う問題もでてきます。空がこれまでの海と違うのは、宇宙までいってしまうと有利な交易条件をもたらしてくれるようなものが何もないという点です。

水野 宇宙にいって陸地の獲得はできないわけですね。

萱野 そう。海だったら植民地の獲得ということにつながりますけれども、いくら宇宙にいっても……。

水野 火星人と貿易できるわけじゃないし(笑)。宇宙に資源がないかぎり、宇宙での軍事的ヘゲモニーと経済のヘゲモニーはむすびつかないでしょう。火星かどこかに利用可能な資源があれば、それを開拓して地球にもってくることで、宇宙の支配と経済の支配は一致するかもしれません。でも、仮に宇宙タンカーができたとしても運搬コストの面で採算があわないでしょう。

萱野 だから、アメリカは空を制することでヘゲモニーを確立してきたんですが、それが宇宙にまで拡大してきたときに、はたしてその支配が経済的なルール策定につながるかどうかは疑問がある。
 それに宇宙ということでいえば、そもそも宇宙を軍事的に支配できるのか、という点についても議論の余地があります。なぜかというと、宇宙ではさすがにもう戦争は起こせないでしょうから。たとえば中国はいまものすごい勢いで宇宙開発をやっていて、北朝鮮の核開発なんかよりもじつはよっぽど世界的にはインパクトがある。中国は衛星打ち落とし実験なんかもやっていますよね。

水野 やっていましたね。

萱野 あれはけっこう恐ろしいことですよね。宇宙空間を力ずくで支配するような行動がエスカレートすれば、宇宙から核爆弾がどんどん落っこちてくるような戦争になってしまい、それこそ人類は滅亡します。そんな戦争を起こせないのであれば、宇宙を軍事的に支配するようなことは結局できないのではないか。
 だからどちらにしても、いまの宇宙開発競争が経済的なルール策定へと転化することはむずかしい。イギリスが海でおこなったようにはいかないということです。

水野 ということは、宇宙支配をめぐっては、だんだんそのインセンティブがなくなってきているということなんですかね。それとも宇宙開発には経済的支配とは別のインセンティブが働いているのでしょうか。

萱野 かつてほどそのインセンティブはないんじゃないでしょうか。一九八〇年代にアメリカが計画した戦略防衛構想も、冷戦終結とともになしくずし的に中止されちゃいましたし、それ以降、宇宙開発への大きな構想は立ち上げられていませんから。


 宇宙が次の「平滑空間」(世界覇権を決定づける重要な新しい空間) になることは、経済的にみても、軍事的にみても、考え難い、と書かれています。



 「平滑空間」とは「世界覇権を決定づける重要な新しい空間」を指します。詳しい内容については、「「条里空間」と「平滑空間」」をご覧ください。



 さて、著者らは、イギリスが(当時の)平滑空間である海を支配することで世界覇権を握り、その後にはアメリカが(当時の)平滑空間である空を支配することで、イギリスから世界覇権を奪った、という歴史をもとに、

 次の平滑空間は宇宙であるか否か、について議論しています。

 著者らの結論は、宇宙までいってしまうと、
  1. (宇宙人との)貿易も、(宇宙に)植民地をつくることも考えられない。宇宙に資源でもないかぎり、経済的な意味はない。したがって経済的にみれば、宇宙が次の平滑空間であるとは考え難い。
  2. また、宇宙支配をめぐって戦争になれば人類が滅亡してしまうので、そのような戦争は起こせない。したがって、軍事的にみても、宇宙が次の平滑空間であるとは考え難い、
というものです。

 以下では、簡潔に、著者らの結論が「おかしい」ことを示します。



 まず、経済的側面についてですが、

 著者らは重要な事実を見落としています。それは「宇宙には資源がある」という事実です。
水野 火星人と貿易できるわけじゃないし(笑)。宇宙に資源がないかぎり、宇宙での軍事的ヘゲモニーと経済のヘゲモニーはむすびつかないでしょう。火星かどこかに利用可能な資源があれば、それを開拓して地球にもってくることで、宇宙の支配と経済の支配は一致するかもしれません。でも、仮に宇宙タンカーができたとしても運搬コストの面で採算があわないでしょう。
 水野さんは運搬コストの面でも宇宙支配は経済的利益に結びつかない、とお考えのようですが、

 この点も問題ありません。なぜなら、火星まで行かずとも、地球のすぐそばにある「月」に行けばよいからです。月には、地球では貴重な資源が大量に存在しているといわれています。

 したがって、宇宙開発と経済的支配とが結びつく可能性は、十分にあります。



 次に、軍事的側面についてですが、

 重要なのは「宇宙支配をめぐって戦争を起こせるか否か」ではありません。このことは、これと同種の問題「核兵器を実戦で使えるか」を考えてみればわかります。

 核兵器を使えば、(核兵器で)報復される恐れがあるから「核兵器は実際には使えない」。この議論には説得力があります。しかし、こちらが核武装していなければ、(相手にしてみれば)報復される恐れがないから「核兵器は実際に使える」ということになります。

 これと同様に、宇宙支配をめぐる戦争が考え難いからといって、宇宙の軍事的支配が重要になることはあり得ない、といった考えかたが成り立たないことは、あきらかです。

 軍事衛星を打ち上げていない国は、軍事衛星を打ち上げている国に比べ、圧倒的に不利であることからも、このことはあきらかだと思います。



 したがって、経済的にみても軍事的にみても、宇宙が次の平滑空間になりうる可能性は「かなり高い」と考えるのが自然だと思います。



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