HOBNOBlog

ロンドンから徒然に

花宵道中 ~ 気高き官能小説

2007-09-27 | 文学
 ずっと長年女性を対象に企画の仕事をしてきましたが、だからといって女心が分かるわけではありません(笑)たまにモニターにかけたりすると、とんでもない勘違いなんてことも当然ありました。

 話がいきなり変な方向に飛ぶのですが、世の中には男女の絡みを描いた小説がたくさん存在します。そんな“エッチな”小説の大半が男性作家による男性読者に向けたものです。となると、おそらくこちらもきっと女性読者から言わせたら、“そんなバカな”の世界がたくさんまかり通っているに違いありません。
 そこで、数年前に始まった『女による女のためのR-18文学賞』です。女性が読んでもナチュラルに感じられるエロティックな小説を選ぶということで、応募者も女性なら選考委員も女性、さらには選考のために『読者賞』も設けて、こちらも女性によって選ばれます。

 今日は大阪出張だったので行き帰りの新幹線用に持ち込んだのが、以前買ったままになっていた『花宵道中』。これが第5回のR-18文学賞の大賞及び読者賞をダブル受賞した作品なのです。江戸・吉原を舞台に遊女たちを描いているのですが、これが思いのほか傑作で驚きました。
 確かに官能的ではあるのですが、それは単に読者の快楽に阿るのではなく、遊女たちの実らぬ恋やひと言では言い表せない遊郭での人間関係を際立たせる芯になり、むしろ雰囲気としては格調の高ささえ感じさせます。

 それにしてもこの文章の上手さは何なんでしょう?奇しくも同じ頃に発売されて直木賞を受賞した『吉原手引草』がやはり吉原を舞台にしていますが、こちらの作者は松井今朝子さんで50歳を越えたベテランです。ところがこの『花宵道中』の宮木あや子さんは1976年生まれとのことですからまだ30歳そこそこの新人作家です。それがこの遊郭に住む人々の即かず離れずの微妙な人情の距離感や、文字通り命がけの恋に身を焦がす遊女の心境を、どうしてこんなに、(男の僕でも違和感がないくらい)上手に描写できるんでしょう。本当に皮膚で感じてしまうような文章です。

 選考委員のひとりの角田光代さんのコメントが帯にありました。「子どもには読ませたくない、読ませてたまるもんか」
 ぜひ一読をお奨めします。但しR-18ですよ(笑)

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。