まつお文庫からのご案内

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新しく買った本 5月

2020-05-14 14:42:05 | 文庫のページ
①『冷たい心臓 ―ハウフ童話集ー』 ヴィルヘルム・ハウフ 乾侑美子訳 福音館書店 2001
 ハウフはドイツの小説家、童話作家です。1827年、25歳になる直前に、若くして亡くなりますが、1826年に童話集の第1部が出版され、翌年に第2部、1828年に第3部が出版されます。第1部が『隊商』、第2部が『アレッサンドリアの長老とその奴隷たち』、第3部が『シュペッサルトの森の宿屋』です。日本では明治20年に早くも第1部の『隊商』が『砂漠旅行物語』という題で翻訳されています。
 乾侑美子訳のこの本は第1部から第3部までを1冊にまとめたもので、650ページを超える大作です。『千夜一夜物語』のように、枠組みがあり、登場人物が次々に物語を語るという形式で物語が展開していきます。滑稽な話、ぞっとするような怖い話、ワクワクする話などたくさんの物語に出会える童話集です。
 第1部では、砂漠を旅する商人たちが退屈しのぎに、一人ずつ物語を語り始めます。旅の途中で加わった謎の男の正体が明かされる結末は衝撃的です。
 第2部では、アレッサンドリアの長老につかえる奴隷たちが長老や長老に招かれた人々の前で物語を語ります。長老の前でなぜ奴隷たちが物語を語るのか、そのいきさつには深い意味が込められています。奴隷たちの物語を聞いている老人と4人の若者たちが『物語を聞く喜び』について語り合う場面は興味深いです。最後、長老が行方不明だった息子と再会する場面も感動的です。
 第3部では、盗賊が出るという森の近くの宿に泊まった人々が、寝ずの番をしようと一人ずつ物語を語り始めます。「サイドの運命」やこの本の題名になっている「冷たい心臓」は壮大な物語です。この宿に泊まった人々に起こる苦難の出来事にもハラハラさせられますが、結末は感動的です。
 物語を読む楽しさを思う存分味わうことのできる童話集です。乾侑美子さんの訳は読みやすく、長い物語ですが、どうぞ挑戦してみてください。
②『神に守られた島』 中脇初枝 講談社 2018.7
 珊瑚礁の美しい島、沖永良部島(おきのえらぶじま)に住む人々の戦争中の物語です。
 戦争はこの島にも大きな爪痕を残していきます。学校はなく、家の手伝いをしながら友だちとも遊ぶ10才のマチジョーの日常は徐々に食糧難と空襲におびえる毎日に変わっていきます。集落には電気も水道もなく、水汲みの下手な同級生の女の子、カミを助けてあげるマチジョーの優しさが心に残ります。先祖を敬い、伝統や風習を守り、歌と踊りを楽しむ島の人々の豊かな生活が、戦争によってどう捻じ曲げられていくか、見つめようとするマチジョーが頼もしいです。
 島の上空を沖縄に向かって飛んでいく特攻隊も島にやってきた守備隊も決して島を守ってくれないこと、戦争が終わってしまったことさえ13日も知らずにいたことなど、だまされないためにどう生きればいいのか、マチジョーは考えます。
 戦争が終わって半年後の2月、島にはまた大きな問題が起きます。北緯30度以南の奄美群島は日本の領土ではなく、アメリカの一部になるというのです。マチジョーの一家は4月、密航船で本土に向かうことになり、マチジョーとカミには別れが訪れます。
 続編が2019年に出版されました。『神の島の子どもたち』です。7年後、高校2年になったカミが本土への復帰運動に関わっていく物語です。マチジョーとどう再会していくのか楽しみです。
 2015年に出版された中脇さんの『世界の果てのこどもたち』も、戦争によって過酷な運命に巻き込まれた3人の子どもたちの感動的な物語です。これもおすすめです。 
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