まだ、アップル社が日本法人を持たぬとき、所用でアップル本社にショート・ステーする機会があった。まず、入り口で当座のIDカードをもらう。個々の部屋の入退室には、リーダーにこのIDカードを通さねばならなかった。カードを受け取るとき、社内ではお金は一切不要と聞かされた。昼食時、カフェテリア形式の社員食堂で食事をする。あれもこれもとトレーに山盛りの食事、果物、デザートをとる。お金は不要だが一応何をどれだけとったかレジで確認し、IDをカード読み取り機に通す。売店で何をとっても、IDカードを通しておしまい。
あるとき、プレゼンテーション・ルームに通され、7,8人でディスカッションが始まった。司会は極東担当ディレクターの中国人女性。
どうやら、アップルジャパンの立ち上げをするについて、どこの誰を抜擢すればよいかの検討会議だった。この世界の慣例に従い、東芝関係者のなかから人選をすることに決定。東芝ヨーロッパの総責任者T氏が最有力ではないかといった会話が続く。
結局、滞在中の全ての経費はアップル社もちだった。日本に帰ってきてしばらくすると、「アップルジャパンの社長に、東芝のT氏!」というタイトルが新聞紙上をにぎやかしていた。