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小島教育研究所

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データサイエンスとは何か? 『事例で学ぶ!あたらしいデータサイエンスの教科書』から

2022-07-25 | 情報教育


 様々な領域のデータを収集できるようになった今、データサイエンスに基づく意思決定や社会課題の解決に期待が寄せられています。その手法を学ぶにあたっては、そもそもデータサイエンスがどういうものなのかを知っておかなければなりません。横浜市立大学データサイエンス学部の初代学部長である岩崎学さんが解説する『事例で学ぶ!あたらしいデータサイエンスの教科書』(翔泳社)から、「第1章 データサイエンスとは」を抜粋して紹介します。
本記事は『事例で学ぶ!あたらしいデータサイエンスの教科書』の「第1章 データサイエンスとは」からの抜粋です。掲載にあたり、一部を編集しています。
 データサイエンスとは何でしょうか。

 その解答は十分に確立しているとはいえませんし、個人ごと組織ごとに違った答えを持っているかもしれません。しかし大まかには、

データサイエンス=(統計学+情報科学)×社会展開

といえるのではないでしょうか。データを扱う学問である統計学に加え、実際にデータを処理するための情報科学をその基盤とし、様々な社会課題の解決への展開につなげるのがその使命です。

 本書では、社会展開を念頭に置いた上で、主として統計学の視点からデータサイエンスについての様々な側面を取り上げて論じます。

 本章ではプロローグとして、これまでの統計的データ解析について概観したのち、それが現在のデータサイエンスではどのように変貌しつつあるかを見ていきます。

1.1 これまでの統計的データ解析の流れ
 まず、本節でこれまでのデータ解析の流れを確認し、それを元にして次の1.2で現在のデータサイエンスの特徴について論じます。

1.1.1 これまでのデータ解析の手順
 これまでのデータ解析の一連の手順を図1にまとめます。

図1 統計的データ解析の流れ
図1 統計的データ解析の流れ
 図1について、若干の説明を以下に加えます。

(1)研究目的の設定
 極めて当然ですが、まずは研究目的が明確に認識されている必要があります。単なる現状把握なのか、近未来の予測なのか、あるいは人為的な介入による変化をもたらすための方策を提供するのか。目的に応じてデータの取り方は変わってきますし、分析の方法論および結果の提示の仕方も影響を受けます。

(2)データ収集法の立案:実験、観察研究、調査
 研究目的が認識されたら、それを実現するためのデータ取得の計画を立てる必要があります。データの取得にはコストがかかりますから、研究目的を確実に実行できることを前提に、なるべく効率的なデータの取得法を工夫しなければなりません。

 統計学はこれまで、データ取得法の方法論を発展させてきました。研究目的が調査であれば「標本調査法」が、処置効果の立証などであれば「実験計画法」がデータ取得の方法論を与えてくれます。大学における統計学の授業では近年、これらの内容が講義されることが少なくなってきていますが、

"garbage in, garbage out"

の言葉があるように、データの質が悪ければ、よい分析結果は望むべくもありません。統計的データ解析で最も重要なものはデータを集める方法論であるとは、統計学の大御所のご託宣です。

(3)データの収集(モニタリング)
 よいデータを得ることがデータ分析のイロハのイですが、黙っていてはよいデータは得ることはできません。ここにある程度のコストをかけなくてはなりません。

 例えば新薬開発の臨床試験では、各製薬メーカーはモニターという職種の部隊を抱えていて、かなりの人数の人たちがよいデータを取るための業務に携わっています。これはどの分野でも同様で、よいデータを取るための方策なくして質のよいデータは決して得られないと知るべきです。

(4)データの電子化
 現在では、データ分析を紙と鉛筆および電卓で行う人はいません。データは必ずコンピュータに入力した上で分析にかける必要があります。

 しかし以前には、データは調査票やアンケート用紙などの紙媒体で提供されるのが一般的でしたので、それを電子化する必要がありました。現在ではほぼ死語となったキーパンチャーのようなデータ入力の専門家もいました。

 現在でもデータ入力は極めて重要な仕事で、その後の分析を見据えた上でのデータの準備が必要です。

(5)データのチェック(クリーニング)、マージ
 データは、多くの場合というよりほとんどすべての場合、そのままでは分析にかけることはできません。分析のための整形が必要ですし、データの欠損や異常値の存在など多くの問題を解決せねばなりません。また、分析が1つのデータセットのみで完結することは稀で、複数のデータセットの結合(マージ)が必要となります。その際には、データのマッチングを含めた地道な作業が必要となります。

 実際にデータ分析を行うとすぐにわかりますが、ここの部分でのエネルギーの消費はかなりの量に上ります。人によってはデータ分析の7~8割の労力がこの段階でかかるといわれることもありますが、これは決して誇張ではありません。

(6)データの集計とグラフ化(予備的検討):記述統計
 本格的な分析の前に、データの全体像を把握しておく必要があります。ここで有用な方法論が、いわゆる記述統計的手法です。データは多くの場合数字の羅列ですので、それを見やすくするためのデータの集計は欠かせません。また、データのグラフ表示による視覚化も重要な手立てです。この段階だけで、分析の目的が達成されることも多くあるでしょう。

(7)統計的推測ないしは予測:推測統計
 統計的な推定や検定などのいわゆる推測統計的手法は、データの素性を的確に捉え、近未来の予測や新しい知見を得るために必要となります。

 大学などにおける統計学の授業ではここの部分が主として講義されます。数学的な扱いが主となり、難解な数式展開などが含まれたりしますので、とっつきづらい面は否めませんが、統計手法の数理的な側面の理解はデータの分析によって妥当な結論を導くために必要不可欠です。

(8)分析結果のプレゼンテーション:文書化、口頭発表
 データを分析したらその結果を何らかの形で示さなくてはなりません。文書化および口頭での発表が必要となります。その際に重要なのは、分析結果を過不足なく客観的に伝える姿勢です。データの持つ情報を十分に捉えきれないのでは分析者として失格ですし、逆に結果をことさらに誇張するのも慎まなくてはなりません。データ分析の結果はその後にデータで証明されます。

 例えば新薬の開発で薬の効果をことさらに強調し過ぎても、その薬が実際に患者さんに投与されれば、その有効性はデータとして返ってきます。新商品に関するアンケート調査の結果を誇大に強調しても、実際にそれを販売すれば売上高がその成否を証明してくれます。

(9)意思決定(終了もしくは最初に戻る)
 データの分析結果は、それを得ることだけが目的であることはないでしょう。それに基づいた何らかの意思決定がなされなくてはなりません。もし意思決定に至らないのであれば、さらにデータを取り直すなどの算段が必要となり、このリストの最初に戻ります。

1.2 データサイエンスの特徴
 ここでは、統計的データ解析の流れがどのように変化してきているのか、あるいは変わってはいけないものは何であるのかを議論します。

1.2.1 統計的データ解析の現状と変化の方向
 1.1の統計的データ解析の流れは、いかにコンピュータが発達し人工知能(AI)がもてはやされようとも、また統計学がデータサイエンスに取って代わられようとしても陳腐化するものではなく、やはり押さえておかなければいけない真理を含んでいます。

 普遍的な価値を持つ原則を押さえることにより、そこからの乖離の程度を測りながら現代の複雑なデータの分析を行う必要があります。以下では、前節で提示した統計的データ解析の流れが現状どのように変化しつつあるかを見ていきます。

(1)研究目的
 世の中にはデータがあふれています。そのままにしておいたのでは宝の持ち腐れ、何とかしなければというのは誰もが思うことです。しかし、目的がなくては何のしようもありません。初めは目的が不明確であったとしても、最終的なゴールを早く見つけ出さなくてはなりません。

 特にデータの量が膨大になり、その質もまちまちである現在、データのハンドリングには思ったより長い時間がかかるようにもなっています。分析のツールやシステムを導入すればすべてが解決する、というのは全くの幻想です。目的があいまいなままいたずらに時間を浪費する愚を犯してはなりません。

(2)データ収集法の立案
 データは、それを集める時代から、集まっているあるいは集まってくる時代へと変わってきました。特に各種センサーの発達により日々刻々とデータが自動的に蓄積され、SNSのように我々一人ひとりがデータの入力源となって、せっせとデータを蓄積しつつあります。それに伴い昨今、データを集める方法論がおろそかになっているという危惧があります。どのようなデータ収集法が理想であるのかの知識を持った上で、現在あるデータがいかにして取られたのか、それは理想的な収集法に比べどこに不備があるのかを認識することが重要です。

(3)データの収集
 データが自動的に集まってくる昨今ですが、どのようにして収集がなされているのかのモニタリングはやはり重要です。データの背景に関する知識は、適切なデータの分析法の選択と実行のために必要不可欠です。

(4)データの電子化
 数値に限らず、昨今ではテキスト、画像、音声そして動画などが電子化され、電子データとして入手が可能になっています。コンピュータの記憶媒体の大容量化と通信速度の飛躍的向上がそれを後押ししています。以前の、データが紙で提供されていた時代とは様変わりしました。情報科学の技術革新の賜物といえるでしょう。

(5)データのチェック
 この段階は、現在でもやはり手間暇がかかります。人手で行うにはデータの量が膨大過ぎるからでしょう。ここをいかに自動化し人手を煩わさないようにできるかが、迅速なデータ分析のポイントです。異常値の検出やデータの欠損への対応などの自動化は、データの分析の一連の流れを加速させる上で極めて有効な手段となります。さらなる研究が待たれる分野です。

(6)データの集計とグラフ化
 この段階のテクノロジーの進展には目を見張るものがあります。超大量のデータの迅速な集計、美しい動画を交えた洗練されたデータの可視化などを実現化する様々なツールが提供されています。最近のデータは大量であるが故にその大まかな特徴を的確に捉える必要があり、そのためにはこの種の可視化ツールは大いに有用です。この段階で必要にして十分な情報が得られることも多いでしょう。また、その後の分析法の選択にも示唆を与えてくれます。

 しかし注意すべきは、きれいなグラフィックスが得られただけで満足してしまいかねないことです。だからどうした、結局どうなるの、といった疑問に的確に答えるためには、やはり「次の段階」が必要でしょう。

(7)統計的推測ないしは予測
 ビッグデータの扱いなどでは、推測統計の精細な議論は必要でないかもしれません。しかし推測統計の元となる、「現象をモデル化してデータの分布の関数形を定め、そこに含まれる未知パラメータをデータから推定した上でその推定値の精度の情報も提供する」という考え方や哲学は、やはり必要不可欠といわざるを得ません。

 しかし予測に関しては、深層学習(ディープラーニング)に代表される機械学習の諸手法が、これまでの古典的な統計学のいわば型にはまった統計手法の限界を超え、極めて柔軟なモデルに基づいた、精度のよい予測値を与えることができるようになりました。予測の方法は面目を一新したといっても過言ではありません。

 とはいえ、その予測方法は中身がブラックボックス化していて、なぜ予測が当たるのかについての知見をもたらしてくれない、という課題があります。単なる予測を超え、当該現象における因果関係の確立による人間の介入法にまで到達できるかがカギとなります。

(8)分析結果のプレゼンテーション
 プレゼンテーションツールも非常な進化を遂げつつあります。これまでの単なる数表やごく簡単なグラフだけでなく、目を見張るようなビジュアルによるダイナミックなプレゼンテーションが現実のものとなっています。しかしそれらに幻惑されてはならず、やはり中身が重要です。

 もちろん、中身の充実があった上での説得力のあるプレゼンテーションツールの適用は、望ましいものでしょう。

(9)意思決定
 データ分析の結果は、意思決定の役に立たなければ何の意味もありません。そのことを肝に銘じて新時代のデータ解析を行う必要があります。


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教育現場でのタブレット端末配備が「世界トップクラス」の日本、授業変革は進んだか? 米巨大IT企業アップル、グーグルの幹部に聞いた

2022-06-15 | 情報教育
47newsより

 児童生徒に1人1台端末を配備する政府の「GIGAスクール構想」で、先進国の中で遅れていた日本の教育現場の端末整備は今や「世界トップクラス」(米グーグル幹部)に改善した。授業内容や教員の働き方が大きく変わる中、端末やソフトウエアを提供しているアップル、グーグルの両社幹部に情報通信技術(ICT)を使った教育の在り方を聞き、学校の授業の様子をのぞいてみた。(共同通信=吉無田修)

 ▽「小さい頃から親しむと違ってくる」【アップルの教育事業責任者、スーザン・プレスコット氏】

 ―アップルが考える教育の柱は何ですか。

 「一つ目は創造性です。プロジェクトベースの学びによって実現します。二つ目は協働。複数の生徒がアイデアを出し合い、複雑な問題の解決に当たります。三つ目は、生徒一人一人に個別化された学びです。四つ目は、オンラインというバーチャルな学びや、他の国の人とつながることです」

 ―日本の学校に275万台以上導入されたタブレット端末、iPad(アイパッド)の特徴は。

タブレット端末を使った東京都墨田区立錦糸中の地理の授業=3月

 「テクノロジーに慣れていない学習者にも、高度な技術を駆使できる方のどちらにも向いていて、創造性に満ちた学びを実現できます。生徒は学校の外に出かけて録画や録音機能を使って記録を作成しています。プログラミング教育にも対応しています」

 ―プログラミング教育の必要性や課題は何ですか。

 「プログラミングは、21世紀の必須の言語として学ぶことが重要です。問題解決や協働といった力を身につけられます。ハードルが高いのは教員です。当社は無償カリキュラムを用意しており、教員らも学べるようにしています」

 ―日本はものづくりが得意です。一方でソフトウエア分野は世界的なIT企業が育っていません。

 「(iPadを使った教育で)小さい頃からソフトに慣れ親しむと本当に違ってきます。(民泊仲介サイト大手の)米エアビーアンドビーといった新しい事業のアイデアも浮かんできます。ソフトの力を通じて世界を変える機会も増えるでしょう」
 ▽「活用して初めて変化が起きる」【グーグルの教育事業でアジア太平洋地域のマーケティング責任者、スチュアート・ミラー氏】

―グーグルが教育事業に力を入れる理由は。

 「誰もが素晴らしい学習体験を享受すべきであると考え、教育と学習の変革を支援するツールを開発しました。一人一人に最適化された環境を提供できるし、共同作業を通じて創造性も高められます」

 ―政府の「GIGAスクール構想」で、自治体が調達した端末の基本ソフト(OS)別のシェアは、グーグルの「クロームOS」が首位でした。

 「(教育機関は)ITの分析・表現力が高い人ばかりではありません。教員の不安に応えるため、無償研修を手厚く提供しました。海外での成功事例を伝えたことも好評でした」

 ―グーグルの収益源は広告だが、教育事業は。

 「教育向けツールでは広告を表示しません。無償版のほか、有償版があります。端末の『クロームブック』はメーカーから一定のライセンス収入を得ています」

 ―日本の課題は何でしょうか。

 「教育現場での端末普及は、日本が世界首位になったと言ってもいい。ただ、経験は浅いです。端末があるからと言って何かが変わるわけではなく、活用して初めて変化が起きます。学校の先生による端末やツールの活用アイデアを公開し、共有できるようにしました」

 ▽採点時間が5分の1に短縮

 東京都墨田区立錦糸中学校で社会科を教える古賀隆一郎教員は「端末を使う授業は生徒の意欲が高まる。自分で調べたり、他の生徒と対話したりして学びも深まる」と効果を語った。

 筆者が今年3月に見学した地理の授業では、生徒が南米の地域経済などの特色を紹介するニュース番組をアイパッドで作っていた。キャスター役の生徒は原稿を文書作成ソフトで表示しながら読み上げ、他の生徒が別の端末のカメラで録画する。教員が一方的に話をする授業ではなく、生徒が共同作業で課題に取り組んでいた。

 教員側の負担も軽くなった。千葉県の船橋市立飯山満中学校では、グーグルのアンケート作成や分析サービスを定期試験に活用。試験の採点時間が「5分の1程度に短縮し、早く帰宅できる」(理科教員)。生徒に間違えた問題だけ個別に解説などを示すことができ、試験後の授業で全問を解説しなくて済むようになった。

 グーグルの端末が配備された高知市立浦戸小学校の藤田由紀子校長は「端末を使えないと、今後は学校教育をやっていけない」と話す。20代の若手教員が講師役となって研修会を毎週開き、授業での活用方法を共有している。

 文部科学省は端末1台当たり最大4万5千円を補助。昨年7月末時点で96%の自治体で整備が完了した。端末の基本ソフト(OS)別のシェアは台数ベースでみると、グーグルが4割と最大で、マイクロソフト、アップルが各3割だった。日本を参考にしたとみられる端末の整備政策はシンガポールや韓国などにも波及している。
 ▽万能だから難しい

 グーグルは今年4月、教育関係者向けに「1人1台の環境と、これからの教育」とのテーマで、日本の専門家を招きオンラインセミナーを開いた。東京学芸大の高橋純教授(教育の情報化・情報教育)は「生徒それぞれが際立ち(授業が)楽しくなったとの(前向きな)アンケート結果が出ている」と評価した。

 東京大の越塚登教授(コンピューターサイエンス)は、端末について「新しい万能文房具だ。どんなことにも使用できるから、逆に難しい」と述べ、何をしたいかを考えることが大事だと指摘した。

 東京大の山内祐平教授(教育工学・学習環境のデザイン)は「いろいろなものをコピーして加工すれば、それなりの発表になってしまう。学習をどれだけ深められるかがポイントだ」と強調した。生徒の話し合い内容をソフトで共有し、教員が適切に介入することで議論の質が高まるとも説明した。

 ▽取材を終えて

 ファミコン世代の私にとって、小学生のころからパソコンは憧れだった。クリスマスにサンタさんに手紙を書いて頼んだが、高価すぎたのか、翌朝、届けられたプレゼントは本だった。進学した山口県の中学校のコンピューター室には、アップルコンピューター(現アップル)のデスクトップ「マッキントッシュ」があった。マウスを使って絵を描いたり、ファイルを捨てる際に「ゴミ箱」までドラッグしたりしたことを鮮明に覚えている。

 今回の取材で、生徒たちが各自に配備された端末を笑顔で使っている様子を見て、うらやましく思った。複数の学校関係者が「生徒の方が使いこなすのが早いので、分からないことは逆に聞いている」と話していた。

 今後、型通りの仕事は機械に任せる流れが加速するだろう。人間に求められるのは発想力とされる。将来を担う子どもたちの可能性を広げられるように、「万能文房具」の端末をフルに活用できる環境を整えるべきだろう。ファミコン世代の大人たちも子どもたちに負けないように学び直す必要がありそうだ。


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必修化から2年、進まぬ小学校プログラミング教育の底上げ目指す「Type_T」とは

2022-06-13 | 情報教育
東洋経済 Educatin×ICT より

 
 2020年度より、小学校でプログラミング教育が始まった。プログラミング言語そのものを学ぶわけではなく、「プログラミング的思考」を学ぶこと、身近な生活でコンピューターの仕組みが利用されているのを知ることを目的としているが、「教科とプログラミングをどう関連づけて教えればよいのか」など、いまだ手探りの状態が続いている学校が多い。そんな中、埼玉県の公立小学校教諭・鈴谷大輔氏は、プログラミング教育関係者によるコミュニティー「Type_T(タイプティー)」を発足。「子どもも先生も、ワクワクしながらプログラミング教育に取り組める国にする」をミッションに、プログラミング教育関連の研修会、子ども・親子向けのワークショップ、情報発信、交流などを行う。鈴谷氏に、小学校のプログラミング教育の現状と今後、授業事例、「Type_T」の活動などについて聞いた。

プログラミング教育は「あまり進んでいない」
――2020年度より、小学校でプログラミング教育が必修化されました。学校現場の現状についてお感じになることを教えてください。

プログラミング教育の取り組みは、残念ながら、「あまり進んでいない」状況といえると思います。

公教育のプログラミング教育を推進するNPO法人「みんなのコード」が21年、全国の小学校教員1037名に「過去1年間で『プログラミング』に関する研修をどの程度受けたか」をアンケート調査で聞いたところ、「受けていない」と答えた教員が22.2%、1時間未満が11.2%、1〜4時間未満が39.5%でした。

プログラミング教育が必修化されたにもかかわらず、「4分の3の教員が、研修を受けた回数は2回以下」ということが明らかになりました。


原因として考えられるのは、GIGAスクール構想の実現が20年度に前倒しされたことにより、「1人1台端末をどのように使うのか」「トラブルが起きたとき、どのように対応するか」など、まずは“GIGAの整備”が最優先され、プログラミング教育が後回しになってしまっていることです。

必修化から2年経ちましたが、プログラミング教育の優先順位が低いままの状態が続いており、「教科とプログラミングをどう関連づけて教えればよいのかわからない」など、いまだスタートラインに立てていない学校や先生も見受けられます。教育界全体で、プログラミング教育の底上げを図る時期に来ていると思います。

――22年4月に行われた「2022年度全国学力テスト」では、小学6年生の算数で、プログラミングを題材とした問題が初めて登場しました。

正方形を描くためのプログラムが例示され、正三角形を描くための誤ったプログラムを正しく書き直す問題が出題されました。授業でプログラミングに触れていない児童は、問題文を読んでも、何を聞かれているのかが理解しにくかったと思います。学力テストにこのような問題が出たことで、学校は、ICT機器を日常的に使い、必要に応じてプログラミングを取り入れるよう授業改善していくことが求められていると受け止めています。

プログラミング教育の教員コミュニティー「Type_T」
――鈴谷先生は、プログラミング教育の教員コミュニティー「Type_T(タイプティー)」を発足し、プログラミング教育の研修会、ワークショップ、情報発信や交流などの活動を積極的に行っています。


鈴谷先生はプログラミング教育の研修会、ワークショップ、情報発信や交流などの活動を行う「Type_T」を主催している
もともとICTが好きで、12年くらいから、クラブ活動や学級活動の時間を利用して学校のコンピューター室で、子どもたちと文部科学省のプログラミングのコンテンツである「プログラミン」で遊んだりしていました。

17年に告示された新学習指導要領において、20年度から小学校でプログラミング教育が必修化されると知り、自身のブログでプログラミング教育について発信するうちに教員や教育関係者とつながり、19年3月、IT企業サイボウズ本社を会場に、先生だけのプログラミング勉強会「WATCHA!? プログラミング」を企画しました。その会が大盛況で、「今後もプログラミング教育について考えたり、広めたりする場をつくっていこう」と。当時の有志メンバーと立ち上げたのが、「Type_T」です。

同年の12月、小学6年生理科の「電気の利用」単元に、プログラミングを取り入れた模擬授業イベントを開催しました。その後も、さまざまなプログラミング教育の実践について、主にオンラインで定期的に交流しています。21年10月に「NPO法人 タイプティー」として認証され、現在は、小学校教員を中心に全国で約100名の会員がいます。本団体の趣旨に賛同してくださる企業さんは、準会員として新しいプログラミング教材を会員に試してもらったり、意見交換などができる仕組みになっています。


「Type_T」は小学校教員を中心に全国で約100名の会員がいる
――「Type_T」の活動で大切にしていることを教えてください。


プログラミング教育の教員コミュニティー「Type_T」
「Type_T」は、「と(T)にかくや(y)ってみるプ(p)ログラミング教育(e)ティ(T)ーチャーズ」の略です。

全国各地でICT機器活用による教育改革に取り組み、小学校でのプログラミングの普及において多くの実践を重ね、本団体にも協力いただいている平井 聡一郎先生(情報通信総合研究所 特別研究員)は、日本中の学校や先生に、「(まずは)つべこべ言わずやってみろ」と呼びかけています。このメッセージをアレンジし、団体の名称に取り入れさせていただきました。

学校の先生はまじめで、「まず自分がたくさん知識を得ないと子どもたちに教えられない」と、自らハードルを高く設定してしまう傾向にあります。何のサポートもない状態で踏み出すのは勇気が要りますが、周りに仲間がいて、困ったときには質問できる状態であれば、「まずはやってみようかな」と思うものです。

校内や地域でプログラミング教育を学ぶ機会がなかなか得られないけれども、興味があったり「授業で実践してみたい」と思ったりしている先生は、このようなコミュニティーに参加して仲間をつくることで、実践を聞いたり学んだりしながら自身の知識を深め、子どもたちや周りの教員に広めることができるのではないでしょうか。

「micro:bit」を活用し、理科×プログラミングの授業を
――プログラミング教育によく使われる教材は?

自分の描いた絵と「メガネ」と呼ばれるツールで絵を動かしたり変えたりするプログラムを作る「Viscuit(ビスケット)」、画面上のブロックを組み合わせてプログラムを作る「Scratch(スクラッチ)」がよく知られています。イギリスのBBCが主体となって作成した小型のコンピューター「micro:bit(マイクロビット)」も、少しずつ使われるようになりました。

“はじめの一歩”としてお薦めの教材は、「Hour of Code(アワーオブコード)」。サイトにアクセスするだけで、ゲームや映画、アニメのキャラクターを画面の中で動かしてプログラミングに取り組むことができます。「プログラミングは苦手」という先生も、「まずは子どもたちと一緒に触ってみよう」くらいの気持ちで取り組んでみることが大切だと思います。

――勤務校では、どのような実践を行っているのですか?

昨年度は6年生の担任だったのですが、25個のLED、2個のボタンスイッチ、明るさセンサー、加速度センサー、温度センサーなどが搭載された「micro:bit」を使用した授業を行いました。「micro:bit」のプログラミングは、パソコンのブラウザー上でカラフルなブロックを組み合わせて行うもので、プログラミングが初めての児童も簡単に扱うことができます。

まずは、2学期の図工の「きらめき劇場」の単元でプログラミングを取り入れました。LEDライトにペットボトルを置いたりなど自分の好きな形のランタンを作り、「micro:bit」をつなげてLEDの色や明るさを変化させる授業を行いました。


「micro:bit」を使った授業についてのワークショップ
これを踏まえ、3学期に理科の「電気の利用」の単元で、人感センサー拡張モジュールを接続した「micro:bit」を活用しました。前回の授業で手回し発電機を使って電気をつくり、エネルギーが蓄えられることや変換されることを理解したうえで、「電気を効率よく使うための方法」について学ぶ授業です。導入で、「電気の消し忘れでおうちの人に注意されたことはありますか?」と問いかけ、節電への意識を持たせました。その後、「micro:bit」を活用したプログラミングをどのように作ったら、電気を効率的に使えるのかを考えました。

子どもたちは、人感センサーを使って「周りに人がいなくなったら電気を消す」「人を感知したら電気をつける」というプログラミングや、明るさセンサーを使って「明るくなったら電気が消える」「暗くなったら電気がつく」というプログラミングに取り組みました。また、それらを組み合わせたり、違う生活の場面に置き換えて考えたりしました。

プログラミングで電気の働きを制御すれば、電気を効率的に活用できること、身の回りの多くのものにコンピューターが内蔵され、プログラミングによって制御されていることを学ぶことができました。

やりたいことの実現、課題解決のための“手段”としてプログラミングを
――プログラミングを取り入れた授業で、子どもたちの反応は? また、ほかの教科ではどのようにプログラミングを取り入れることができるのでしょうか。


鈴谷大輔(すずや・だいすけ)
埼玉県川越市立新宿小学校教諭 生徒指導主任、学年主任
NPO法人タイプティー代表。NPO法人みんなのコード プログラミング教育 養成塾(2019夏期集中コース)修了。プログラミング教育関連のイベント運営などに多数携わる。MIEE(マイクロソフト認定教育イノベーター)。共著に『事例と動画でやさしくわかる!小学校プログラミングの授業づくり』(学陽書房)、『手づくり工作をうごかそう! micro:bitプログラミング第2版』『これならできる! 学校DXハンドブック小・中・高・特別支援学校のデジタル化を推進する「授業以外のICT活用事例」』(ともに翔泳社)がある

大多数の子どもたちは「プログラミング、楽しい!」「面白い!」という反応です。吸収力もすごいですし。とくに高学年になると、やり方を自分のパソコンで検索してどんどん進めていく子も多いですね。子どもたちは、プログラミングに取り組んでいるとき、目がキラキラ輝いてるんですよ。その様子を目にすると非常にうれしいですし、皆さんにも見てほしいと思います。

プログラミングは「多角形の作図」や「電気の利用」など、算数と理科で取り入れやすいですが、例えば国語だったら、読み取った情景を「Viscuit」を使って表したり、5年生の社会では「これからの時代の車」の学習でロボット教材を取り入れ、プログラミングで自動運転ができるよう取り組んだりできます。低学年でも、図工の授業で「Viscuit」を使って好きな模様を作り、それをプロジェクターに投影してみんなで見たりなど、各学年でさまざまな授業が可能です。

――小学校のプログラミング教育を通して、子どもたちのどんな力を育んでいきたいとお思いですか?

プログラミング教育で大切なのは、「授業でプログラミングに取り組んだ。楽しかった」だけで完結するのではなく、取り組みを通して身の回りのさまざまな場面でプログラミングが活用されていることを自覚したり、「もっとこうなったらいいのに」と改善策を考えたりなど、プログラミングを通じて社会の見方や考え方を育てていくことだと思います。

GIGAスクール構想が進み、子どもたちがICT機器に触れる機会が増えています。小学生時代からさまざまなプログラミングに慣れ親しみ、ゆくゆくは、自分のやりたいことを実現したり、課題解決のための手段としてプログラミングを使えるようになるような感性を育んでいきたいですね。


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