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カンパ&シマノ、どのブレーキがベストバイ?

2012-04-02 19:15:29 | シマノ製品調査
すいません、もう少し、ブレーキの話に付き合って下さいな。

いや、余りにも入院生活が退屈で、カンパ、シマノのHPを見始めたら、面白くて。

今日は、「ブレーキの設計は分かった。じゃあ、どのモデルがいいの?」って視点で書きます。
もちろん、100%個人的な私見に基ずく見解、つまり、まぁ勝手な意見です。


長いので、結論を先に書きます。

・シマノ:デュラエース。次点でソラ。

・カンパ:アテナ


以下、詳しく解説です。本当に長いので、時間がある方だけドウゾ。



まず、簡単な方。カンパ。

各モデルの写真を見てください。

レコード、コーラス、アテナ、ケンタウル、ヴェローチェの順です。

カンパは至って簡単。ケンタウルで設計を変えていて、あの剛性コントロールアームをやめています。
その代わり、アームを太くして制動力を出すようにしてますが、特に形状的な工夫もないので、効き味はシマノっぽさが入るでしょう。

つまり、「ケンタウルより下のグレードでは、カンパっぽい(コントロール性の良い)ブレーキフィールは期待できない」でしょう。


よって、カンパのベストバイはアテナかな。(多分、性能的には、レコードと遜色ない)


まぁ、あと少しの軽量化にお金が掛けられる人は、レコードでもいいのかも。
因みに、コーラスの存在意義が分かりませんが…。(コーラス買うならアテナでイイじゃん)



次が、シマノ。こっちは、難しいゾ。(~_~;)

写真から。

デュラ、アルテグラ、105、ティアグラ、ソラの順。

くぅ~、設計思想が全部違う。

まず、材料(工法)に注目してみましょう。
「デュラ」「アルテグラ」「105」が「アルミ鍛造合金」。
「ティアグラ」「ソラ」が「アルミ合金」(ダイキャストかな?)。

ふーん、「アルミ冷間鍛造」ねぇ。ずいぶん、ザックリとした書き方してますねぇ。
形状設計、材料選定、製造工程に分けて、掘り下げて見ましょう。


まず、デュラエース。

先に書いた通り、デュラの命は高剛性です。
アルミである限り、縦弾性係数を増やす、つまり太くしないと剛性は上がりません。一方、太くすると重たくなります。
よって、アームは、許容応力ギリギリまで太らせる設計になります。
材料は、より高い許容応力が得られる7000番台のアルミが選ばれるでしょう。

しかし、高強度材である7000番のアルミなんて、冷間鍛造で苦労します。(高強度の材料を変形させる加工なので)

どうするか?

力技でしょうね。製造工程で頑張るしかないでしょう。

つまり、大型プレス機で冷間鍛造してますね。少なくとも、500トン以上でしょう。よく、東大阪にこんな大きなプレス機(億近い設備)を持ってる仕入れ先があったもんですね。(←大きなお世話?)

また、一発で絞ると割れるので、工程もかなり分割してるでしょう(少しずつ形状を整える)。ひょっとしたら、途中で応力緩和の低温熱処理をいれてるかも。

ここまで苦労しても、プレス機から出てくる部品は駄肉がまだ多いもんでしょう。
この後、機械加工、研磨、アルマイト、塗装って感じで、完成でしょう。部品が。
いや、軽く高剛性にするって大変です。

デュラエースのブレーキの価格は「31639円」と、アルテグラの約2.5倍です。
でもね、これは妥当…ってか、むしろ安い気すらしますが。


次は、アルテグラ。
材料を6000番ぐらい(多分)に落として、東大阪のトン数の小さなトランスファープレス機で、大量生産ですね。
ただ、パッドのアーム横に、複数工程を掛けている形状(空孔潰し?の凹み)があるので、一応は頑張ってますね。
しかし、材料、形状、工程数とも限定しているので、デュラとは比較出来ない程、全くの別物ですね。
大量生産できる限界設計でしょう。


次は、105。
アルテグラを作りやすくする為に、形状を諦めてますね。
材料が流れ易い形状にして、主成形のみで大量生産できる形ですね。

シマノみたく「大量生産しなくてはならない製品設計」では、仕方がないことですが、性能も無視はできず、工場からは睨まれて、設計者の方はストレス溜まりまくりでしょう。(←東大阪からの出張帰りに、ミナミの飲み屋で愚痴ってそう)

「性能よりも生産性」、ハッキリとしたコンセプトはいいのですが、巷でアップグレードとして、105を選ぶってのはナイと思いますよ。


次は、ティアグラ。これはナメてますね。
形状が、105とソックリ。工法だけ、冷間鍛造から鋳造(ダイキャストか?)に変えて、おしまいです。
これじゃ、中国のコピー商品と変わりませんゼ。まぁ、安いからいいけど、何の為に存在してるんでしょうか?


最後はソラ。これが面白い。
鋳造では、冷間鍛造と違い、形状の制約が緩くなります。(型に入れて固めるだけなので)
形状をどうするか悩んだ時、何を思ったか、ソラの設計者はデュラエース様の形状をパクったようです。形がソックリですもの。
流石にデュラ様程、高価な材料、工法ではないので、肉が増えるのと、割り切りは必要ですが、意外とバカに出来ませんよ、こりゃ。
ソラの設計者のしてやったりですね。明日のデュラエース担当に憧れる若い設計者でしょうか?


と、いうコトで、シマノのベストバイは、頑張り抜いたデュラエースでしょう。
次点で、侮れないソラでしょう。


因みに、例えば、「ソラ改」として、デュラのパッドを入れて、デュラみたいなアームの補強を入れたら…、面白いかも。


以上、100%私の勝手な妄想で、全く事実確認なんてできていませんが、日本の何処かで頑張っている見知らぬ設計者の方に思いを巡らせるのも、楽しいもんですね。


長文に付き合って頂き、ありがとうございました。


今日はここまで


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13 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (タイガー)
2012-04-03 08:39:38
おはようございます。

シマノの解説ありがとうございます。
知識のある方から見ると、そんなに違いが分かるもんなんですね~。
私のような素人からすると、グレードがある以上、高いのがいいに決まってるとしかわかりませんもんね~。

でもやっぱりデュラですか~。
命を預けるパーツだけにケチな事はしたくないですが、高いですね~(汗)
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Unknown (Mr.H)
2012-04-03 11:59:28
いやいや、完読して頂き、ありがとうございます。
デュラは確かに高価ですが、効果も大きいでしょうね。7900シリーズになって、大きな進化を遂げてます。
他の部品はいざ知らず、ブレーキだけは、(効果としてのアップグレードを果たしたいなら)デュラがいいと思いますよぉ。
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Unknown (Fit)
2012-04-03 17:27:15
ブレーキではなく変速ですが、アテナとコーラスでは大きな壁があります。

現在使用しているアテナ(2010)は調整した直後は良いのですが、少し使うと変速がキッチリ決まらなくなります。
(ヨソでも結構あるらしい)

ですが、コーラスではそう言った事例はあまり聞きません。やはり上のグレードはなにかしら、意味があるのでしょうね。
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Unknown (mitsu)
2012-04-03 18:57:52
お初にコメントさせて頂きます。
いつも大変興味深く拝見しております。
ブレーキはどこを歪ませるか、がコントローラビリティ(摩擦力の立ち上がり方)を設計する肝だと素人ながら思っています。ただ(材料のことが全くの素人なのですが)アルミは剛体設計としてブレーキシュー、ケーブルを歪ませるか、アーム全体を歪ませる(部分的な変形位置を設けない)方が材料的には良いのかなと思っているのですがどうなんでしょう。

なのでトータル(レバー、アウター、インナー、アーチ各々)での剛性バランスが効くと思うのですがどうでしょう。またそれがアッセンブルの面白さかなと思っています。

あくまで素人の思っていることなので笑い飛ばしてください。
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Unknown (Mr.H)
2012-04-03 20:19:55
FITさんへ

おっと、やはりコーラスは伊達ではなかったんですね。逆に安心しました。
しかし、ディレイラーでそんな現象を体験してるなんて、走っている自転車屋さんならではの発見ですね。
面白いので、ちょっと自由研究の題材にさせてくださいな。
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Unknown (Mr.H)
2012-04-03 21:43:23
mitsuさんへ

はじめまして。いつもブログを見て頂き、ありがとうございます!
ブログを通じてでも、沢山の方々とお話できるのは大好きなので、こんなにしっかりと書いて頂いて、もう感激です。

そう!やっぱりリニアに制動力を立ち上げずに何処かで歪ませるべきですよね。

で、材料力学的には、各部品の各部位の応力を均一にする形状(肉厚)にしておけば、駄肉もなく軽くできるし、逆に部品単位で特性を持たせた設計もできる…との思いですよね。

実は、最初は私もそう思っていたんですが、ブレーキの歴史を垣間見てみると、この思想では色々と問題がありそうなんです。

問題は、ブレーキが一個の弾性体ではなく、複数の部品より構成される機能部品であることなんです。
部品同士がスムーズに摺動できてこそ、制動力にフリクションを載せることなく、自然なブレーキフィールになるんです。

具体的には、ピボットシャフトです。
均一な応力分布はピボットシャフトにもコジリの力を与えてしまいます。
だから、昔は応力均一化を狙ったと思われるアーム形状のブレーキも多かったのですが、きっとコジルので、今は淘汰されたようですね。

因みに、シマノとカンパとボントラガーが、別のアプローチを仕掛けていますね。

まずシマノは7800デュラで、シャフトにベアリングを入れてコジリ対策しています。
7900では重たいベアリングは辞めて、ワイヤーストッパのディメンション変更(回転モーメントとなるように)での対策に変えたみたいですね。
カンパは、書いた通り、弱い所をあえて作って、他に力を逃がす方法です。
ボントラガーが面白くて、ピボットシャフトがこじらないように、両軸受けの構造に変えたゃっていますよ。ゴツイですけどね。

まぁ、とにかく、実際の製品は、いろんなノウハウを反映させた結果だから、面白いですよね。

的を射た回答が出来たか不安ですが、また、コメントをお願いしますね。


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Unknown (mitsu)
2012-04-03 23:45:33
なるほど歴史(先人)の苦労の積み重ねの結果なんですね。
ボントレガーは面白いですね。

貴blogは技術系の確かな視点を感じられて
とても面白いです。
これからも更新を楽しみにしております。

早期のご回復をお祈りしております。
でもお陰でこんな記事に出会えたのですが(笑)

p.s.
ちなみに貴blogとは
フレーム材料(FCRP)の情報を探していたときに見つけたのが始まりです。
結局、いろいろな理由で鉄フレームをオーダーして組み付け中です。
(以前お書きになっていたか)鉄のスペースフレームの可能性を見てみたい一人です。
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トライボロジーマジック (プレス技術屋)
2013-01-06 20:51:32
 島根県安来市に巨大な工場を構える日立金属が開発した新型冷間工具鋼 SLD-MAGIC(S-MAGIC)は微量な有機物の表面吸着により、金属では不可能といわれていた自己潤滑性能を実現した。この有機物の種類は広範囲で生物系から鉱物油に至る広い範囲で駆動するトライボケミカル反応を誘導する合金設計となっている。潤滑機械の設計思想を根本から変える革命的先端材料というものもある。
 このトライボケミカル反応にもノーベル物理学賞で有名になったグラフェン構造になるようになる機構らしいが応用化の速度にはインパクトがある。
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憧れと感動 (カーボンオフセット)
2013-03-11 23:07:17
 それにしても日立金属の高性能冷間工具鋼SLD-MAGICのトライボロジー特性は凄いですね。先々月の、日刊工業新聞社の「プレス技術」で読みましたが、微量の油を塗ったセミドライ状態で、摩擦させると先端技術のDLCのような自己潤滑性(摩擦係数が下がる)が出るなんて。耐摩耗性もたかいのでコーティング費用分コストパフォーマンスがよく、巨大な軸受などに対しても耐荷重能も相当応力で2500MPaと高強度でベアリング・金型などのいろんな機械の転動・摩擦・摺動部品などの機械要素に使えそうだ。まさにノーベル賞級の発明だ。
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機械革命 (ナノベアリングファン)
2015-07-26 08:53:12
 そのメカニズムはCCSCモデル(炭素結晶の競合モデル)といって、すべりの良さばかりでなく、摩擦試験データのバラツキが信頼性工学で言うバスタブ曲線になることや、極圧添加剤の挙動、ギ酸による摩擦特性の劣化挙動など色々と説明ができそうなトライボロジー理論らしいですね。トライボロジー関連の機械の損傷の防止、しゅう動面圧の向上設計を通じた摩擦損失の低減、新規潤滑油の開発など様々な技術的展開が広がっていきそうですね。
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