MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

円やかなペア

2014-01-24 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

01/24 私の音楽仲間 (555) ~ 私の室内楽仲間たち (528)



               円やかなペア



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




 お聞きいただく演奏例の音源]は、Mozart の 弦楽五重奏曲
ハ長調 K515
の第Ⅰ楽章から。



 ト長調の第二主題が、まず Violin で出てきます。 8小節で
一区切り付くと、今度は Viola がこれを引き継ぎます。

 [譜例]はその部分で、4/4拍子、Allegro。 テーマの動きは
八分音符です。



 ペアを組むことが多いようですね。

 最初は2本の Viola。 また2本の Violin や、Viola とチェロ
の組み合わせまで出てきます。







 相変わらずの “塗り絵” は、3度音程の進行を示したもの。

 それぞれ上行下行です。



 またそれぞれのペアは、仲良く並行して動いていますね。

 それも徹頭徹尾、3度間隔です。 響きは円やかで、Viola
の中低音域になると、独特の渋い光沢が生まれます。




 “3度” への徹底した拘りを見せながら、音は自然に上下
を繰り返す。 第一主題の “一直線に上昇する動き” とは
対照的です。

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 演奏例の音源]は、提示部の “締め” に入ったところで
終わっていました。

 しかし “円い響き” は、この後も引き継がれ、大事な役割
を果たします。




 さて、この曲の四つの楽章のうち、第Ⅱ、第Ⅲ楽章の順番
については “定説” がありません。 このことは、すでに触れ
ました。

     関連記事 黒幕にも決定できない順番 の末尾



 Allegretto、ハ長調のメヌエットが先か?

 それとも、Andante、ヘ長調の、美しい歌か?



 貴方はどちらの順番がお好きですか?




            ハ長調 五重奏曲

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              押しかけビール
              羽を伸ばす Mozart
              円やかなペア
              楽章を結ぶ3度?
              対照的な “Andante”
              黒幕は作曲家?
              束になってかかって…来ないでね
              トリは任せたよ
              解放された Viola

            弦楽五重奏曲 ト短調 K516
              疾走する Mozart …
                    など

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              呼び交わすニ長調
                    など

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              最後に五重奏曲
                    など




羽を伸ばす Mozart

2014-01-22 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

01/22 私の音楽仲間 (554) ~ 私の室内楽仲間たち (527)



            羽を伸ばす Mozart



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




 ご覧いただく譜例は、Mozart の 弦楽五重奏曲 ハ長調
K515
から、第Ⅰ楽章の冒頭部分です。

 チェロがいきなりテーマを奏で、これに Violin が応える。
楽章は、この二つの楽器が軸になって進んでいきます。



 演奏例の音源]は、この様子が再現部で顔を出す直前
から始まります。

 Violin は私、San.さん、Viola S.さん、Sa.さん、チェロは Sa.さん。







 チェロのテーマは、最低音の “Do” からスタートし、上の
“Mi” まで。 音域は2オクターヴを超えています。




 Mozart には6つの弦楽五重奏曲がありますが、編成は
すべて同じです。 〔弦楽四重奏 + Viola 1本〕。

 この曲 (1787年) は、その3番目の作品に当ります。



 ハ短調の第2番も、同じ年の作品ですが、こちらは自作の
編曲もの。  原曲は管楽八重奏のためのセレナーデで、
「1782年7月に作曲」…と書かれています。

 それは、こんなふうに始まります。







 このテーマ、音域の広さという点では、先ほどのチェロに
は及ばない。 原曲ではオーボエ、クラリネット、ファゴット
の6人が、この動きに携わっています。

 各楽器の特性と、それに音色を考慮すると、音域はこれ
が限度かもしれません。



 それにしても、よく似ていますね。 そっくりと言っても
いいほど。

 まるで、このハ短調の曲がきっかけになり、ハ長調の
五重奏曲が生まれたかのようです。




 こちらは、ニ長調の五重奏曲 (1790年) です。







 音域は1オクターヴだけですが、やはりチェロの
分散和音が先行しています。




 おっと、Violin がいきなり歌い出す曲もありますね。







 これはト短調の五重奏曲 (1787年) でした。




 以上は、すべて曲の冒頭です。 “オクターヴ、あるいは
それ以上の分散和音” が、テーマの一部としていきなり
登場していました。

 Mozart に特別な意図があったのかどうかは解りません。
ただ、偶然の一致にしては出来すぎのようにも思えます。



 大きく跳躍する分散和音は、弦楽四重奏曲でも聞かれます。

 しかしそれは、メヌエット楽章のトリオなどに限られています。
ソナタ楽章などの中心的な主題ではなく、エピソード的な役割
を果たしているにすぎません。



 その典型的な例は、ニ短調四重奏曲 K421 の第Ⅲ楽章
でしょう。 ニ短調のメヌエットの間には、Violin が伸び伸び
飛び回る、ニ長調のトリオがあります。

 これ、ハイドンを強く意識したハイドン-セットにある一曲
ですね。 それを思うと、まるで厳格な作曲技法から解放
され、自由に羽を伸ばしているようにさえ感じられます。




 全曲の冒頭に置かれた上行分散和音は、四重奏でも皆無
ではありません。 ただ “Do Mi Sol” のように、音域は狭い。

 それはプロシャ王セット中の2曲、ニ長調とヘ長調です。



 また ト長調の四重奏曲 K156 には、短調の分散和音で
始まる第Ⅱ楽章があります。

      関連記事 毒には毒を  演奏例の音源]

 これは、歌の緩徐楽章です。



 分散和音でモティーフを作っても、音域が広すぎると、
構成的な音楽には不向きでしょう。 展開などの技法
が用いにくくなるからです。

 Mozart の四重奏曲では、“下がって行く分散和音”
が現われる例のほうが、むしろ多い。 音符の数は、
ほぼ3つまでです。




 「弦楽四重奏よりも、五重奏曲、六重奏曲に名曲が多い。」
これ、Mozart や Brahms について、よく言われることです。

 この二人にとっては、四重奏という枠は狭すぎたのでしょうか。




 話を最初に戻して、ハ長調五重奏曲の第Ⅰ楽章。 数えて
みると、音符は8個。 ただし Violin の “Sol Do” を入れると、
連続10個になります。

 音が空高く舞い上がりながら、楽章は始まります。







 ちなみにこのモティーフは、チェロと Vn.Ⅰ に出て来る
だけです。

 また全体の368小節のうち、展開部は54小節しか無い。
このモティーフもチェロに4回だけ、ほぼそのままの形で
現われるにすぎません。




            ハ長調 五重奏曲

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言うだけ言ったわよ

2014-01-19 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

01/19 私の音楽仲間 (553) ~ 私の室内楽仲間たち (526)



             言うだけ言ったわよ



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                   阿吽の呼吸
                  非現実のイ長調
                  嫌われる外骨格
                太っ腹のブラームス
                理屈っぽいのは誰?
                言うだけ言ったわよ





 みんなで室内楽をやっていると、誰が主導権を取れば
いいのか、迷うことがよくありますね。



 音楽で解りやすいのは、メロディーと伴奏の区別が、
はっきりしているような曲です。

 主従の関係は明白。 メロディーのパートを邪魔して
はいけない。 音量的にも、またテンポの点でも。



 しかし、いくら Vn.Ⅰがメロディーを担当しているから
といって、いつでも好き勝手が許されるわけではない。
主従関係にも限度があります。

 また、単なる “主従関係” では割り切れないのが、
アンサンブルの面白さかもしれません。




 曲は、引き続きブラームスの弦楽五重奏曲第1番
第Ⅰ楽章。 譜例は第二主題部分の途中で、提示部です。

 今回は[ ]で囲まれた4小節間だけ、ご注目ください。
ここには色々なリズムがありますね。



 Vn.Ⅰは、テーマを Viola から引き継ぎ、“大きな” 三連符
で歌います。 ところがチェロ、2つの Viola は、ピツィカート
2拍子系を刻んでいる。

 結果として、“二連符”、三連符、“四連符” が混在する
音楽になっています。







 これ、誰が主導権を取ればいいの?

 リズムテンポの点で。 そして、音量は?



 演奏例の音源]は、2分足らずの長さですが、編集で
継ぎはぎだらけ。 以下の3つの部分から成っています。



 (1) Viola の第二主題。 [ ]の前まで、12小節。
    (28秒間)

 (2) Vn.Ⅰ の第二主題。 [ ]から、17小節。
    (39秒間)

 (3) Vn.Ⅰ の第二主題、ただし再現部より。 18小節。
    (44秒間)




 さて、問題の[ ]の部分。 この4小節間だけが異質です。

 いきなり “大きな三連符” が出て来るからですが、テンポは
どうすればいいのでしょうか? 同じ? それとも違っていい?



 私がやりたかったのは、その前後と同じテンポで
弾くこと。 ところが簡単ではありません。

 陥りやすいのは、テンポが速くなってしまうこと。
レガートで音が持たずに。



 「周囲の音をよく聴けばいいじゃないか。」

 そのとおりです。 でもレガートで歌っていると、なかなか
聞こえにくい…。 特にピツィカートの音は。




 結果的に、“手探り状態” で弾いているのが、(2) の
部分なんです。

 そういうときは、チェロ、Viola がピツィカートでハジく
様子を、眼で見るようにしている。



 それでも不安が一杯です。 八分音符だと、一つぐらい
見間違える危険性があるから。

 「聴きながら歌うのは難しい」…と、つくづく感じました。



 「えい、ズレたら、何とか合せてくださいね。
お願いだから…。」 そんな心境でした。

 同じ演奏例の音源]です。







 ここで助けてくれたのが、Vn.Ⅱの San.さん。

 「どう弾いたらいいのですか?」と、質問してくれたのです。



 San.さんのパートは、2拍子。 そこで私は、以下の
ようにお願いすることが出来ました。

 「2拍子系のみなさんで、がっちりスクラムを組んでね?
“おい、このテンポだぞ!”…と、私をリードしてください。」



 仲間たちは、半分意外な表情。 私は続けます。

 「特に Viola の細かい八分音符が聞きたい。 全体に
ピツィカートは、思ったより聞こえにくいんです。」



 “p” と書いてありますが、相手はブラームスですよね。
そこで実践してみたときの録音が、(3) の部分です。

 音源では解りにくいかもしれませんが、私には Viola の
ピツィカートがよく聞え、安心して歌うことが出来ました。




 念のために一言だけ。 私は決して、【四連符の一個一個を
しっかり聴いて、そのリズムとの関連で、三連符を正確に】…
弾こうとしたわけではありません。

 そんなこと、このテンポでは不可能です。 少なくとも私には。



 私が感じたかったのは、あくまでも “大きな2拍子の鼓動”
です。 それが掴めさえすればいい。

 でも、チェロの四分音符だけしか聞こえないと、まだ不安
なんです。 脈動が連続せず、流れには今一、乗りにくい。

 つまり、【一つ一つの八分音符を聴く】…のではなく、“4つ
の八分音符から流れを感じる”…と言えばいいのでしょうか。



 したがって、二連符系の皆さんが遠慮してしまうと、
アンサンブルは合いにくい。

 たとえ合っても、全体の響きには安定感がありません。
しっかり主張すべきでしょう。




 「でも Vn.Ⅰが、もし “いい加減に” 弾いたら、どうするの?」

 そうですね。 そうなったら、最終的には “お付き合い” する
しかないでしょう、Vn.Ⅰに。 主張するだけは主張して…。



 これ、往々にして起こりやすいことです。 室内楽に限らず。

 “裏切る” のは、室内楽のメロディー-パートだけに限りません。
時にはオーケストラの指揮者が。 それも大威張りで。



 正確に刻んでいる内声パートは、いつも犠牲者になる。

 かつてオケで Viola を弾いていた私のヒガミですが。




 あるいは…。 今回は私が、最初から信用されて
いなかったのかもしれませんね。

 「何でもいいから、好きにやりなさいよ。 私たち、
付き合ってあげるから。」



 ちなみに、この日は “黒一点” でした。

 五人の中で。 私が…。





      [五重奏曲 第1番 音源ページ



理屈っぽいのは誰?

2014-01-17 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

01/17 私の音楽仲間 (552) ~ 私の室内楽仲間たち (525)



            理屈っぽいのは誰?



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                  非現実のイ長調
                  嫌われる外骨格
                太っ腹のブラームス
                理屈っぽいのは誰?
                言うだけ言ったわよ





        先生はブラームス、お好きですか?

        「あんまり暑苦しい曲は駄目だよ。
       とにかく理屈っぽい音楽だからね。」

        ……。



 これ、恩師との会話で、はるか私が高校二年の夏のとき
の話。 でも、こういうことはよく覚えているものですね。

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 というわけで、今回は徹底的に理屈っぽい内容ですよ。

 きっと貴方も嫌気がさして、途中で投げ出すこと、請け合い!
なんでしたら、今のうちに…。



 それとも最後までお読みになったとしたら…。 “理屈っぽい
のがお好き” …ということになります。 貴方も。 私以上に。




 曲は、引き続きブラームスの弦楽五重奏曲第1番
から、第Ⅰ楽章、再現部の続きです。

 演奏例の音源]も、前回と同じもので、[譜例 1]の
2小節前からスタートします。







 色塗りの部分は、このテーマの中心フレーズです。




 さて、5小節が経過した後の様子です。 次の[譜例 2]
では、八分音符の続く形が出て来ます。

 これは、上のフレーズを変形したものですね。







 同じことは提示部でも起こりました。 ただし、一度だけ。

 でもここでは三回も、異なる楽器で現われます。 そうなると、
これは大事な形ですね。 何とか聞えるようにしたいのですが、
レガートだと音が出にくく、中低音は特に埋もれやすい…。



 問題は、ほかの楽器に “sf” が頻繁に現われること。
リズムを強調すべきなのは当然ですが、音量も大きく
なりやすいのです。 大事なフレーズを消してしまう。

 作曲者は、ここでどういう音楽を作りたかったのか。
もしそのとおりに聞かせるとすれば、音量バランスに
かなり注意する必要があります。




 [譜例 3]は、さらにその続き。 同じ形が、ViolaⅠにも出て
来ました。

 今度は新たに、とてもリズミカルなモティーフが現われます。



 以下は、すべてリズムが主眼です。 音程の上下などは
無視し、大まかなリズムだけご覧ください。

 同じ演奏例の音源]です。





                               

 それに続くのは、規則的な八分音符のリズム。 両者が
噛み合うと、一種のリズム的な緊張が生まれます。

 ただしそのためには、両方が対等に聞こえる必要があり
ますね。 それも音量だけではなく、リズムが目立つような
弾き方が大事です。




 次の[譜例 4]でも、新たな緊張関係が現われます。



 やはりリズムの対立ですが、今度はレガート。

 規則的な動きと、シンコペーションです。

                                   





 さて、このシンコペーションは注意が必要です。 頑張り
すぎると音が重くなり、バランスもテンポも悪くなるから。

 規則的なリズムあっての、シンコペーションです。 ここ
では、両者が対等に聞えたほうがいいでしょう。




 “規則性” と “不規則性”。 その対立が、なぜ、これ
ほど執拗に現われるのでしょうか?

 この緊張関係は、やがて弛み、Viola が歌い始めます。
第二主題です。



 それでは、第一主題はどうだったでしょうか? やはり歌
で、レガートの記号が目立ちましたね。

 ただしこの再現部では、三連符のリズムを周囲に従えて
いました。 まるで、作曲者が堂々と行進するかのように。

        関連記事 太っ腹のブラームス




 歌う主題部分が二つ。 そして、それに挟まれた、
リズムが対立して緊張を生み出す部分

 “対比” は、ここにもまた見られるようです。



 材料の配置、全体の構成。 それを支える技術。 聴き手の
心と感情を揺り動かす、計算と感受性…。 作曲家って凄い。

 「楽器の演奏が難しい」…などとは、言っていられませんね。
演奏に携わる者が。





        [五重奏曲 第1番 音源ページ



太っ腹のブラームス

2014-01-15 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

01/15 私の音楽仲間 (551) ~ 私の室内楽仲間たち (524)



            太っ腹のブラームス



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                  嫌われる外骨格
                太っ腹のブラームス
                理屈っぽいのは誰?
                言うだけ言ったわよ





 演奏例の音源]は、引き続きブラームスの
弦楽五重奏曲第1番
から。

 今回は第Ⅰ楽章で、最初の主題が再現される
箇所です。 ヘ長調、4/4拍子。



 再現部は、[譜例 1]の2小節前から始まります。








 [譜例 2]は楽章の冒頭です。 Violin.Ⅱ のパート譜ですが、
Vn.Ⅰに続いて登場し、主題の後半を引き継いでいました。

 これに比べると、再現部は実に賑やかですね。 あちこち
から三連符のリズムが聞こえます。








 この曲が作られたのは、1882年初夏のこと。 49歳を
迎えた直後に当ります。 ヴィーンに住み着いてから、
早20年が過ぎ、すでに大家として認められていました。

 自信に溢れた確固たる歩調が、ここにも顕われている
ように思われます。 着実に歩みを続けるブラームス…。



 これ、三連符でないと駄目ですね。 二連符でも、また
四連符でも、この風格は滲み出て来ません。




 そして、テンポも重要です。

 “Allegro non troppo ma con brio” と指示されている。



 意訳すると、「ほどほどに快活に、でも活力に満ちて。」

 相変わらず注釈が多く、ブラームスらしいですね。




 また、この “con brio” は “陽気に” と訳すことも出来ます。

 …となると、大好きな散歩に出かける気分でしょうか。



 wikipediaには、「朝はプラーター公園を散歩し、昼に
は “赤いハリネズミ” というレストランに出かけるのが彼
の習慣だった」…と書かれています。




 ブラームスの肖像画や写真は、今日でも豊富に残っています。
音楽ファンの貴方なら、もう何度も目にされたことでしょう。

 ここでは、brahms in silhouetteと検索してみました。
有名なのは、“歩くブラームス” の姿ですね。



 …おや、これ変ですよ? “ZUM ROTEN IGEL” とあります!

 「“赤いハリネズミへ” (向かうブラームス)」…の意味になるから。



 どうやら、オリジナルなものではなさそう。 コマーシャルに
転用されてしまったようです。




 




 次の二つの画像は、オリジナルと判明しているものです。
共にオット―・ベーラー (1847?1913) の作品。

 もちろんハリネズミは、どこにも描かれていません。







 この二つを合成し、修正した上で、ハリネズミを描き
加えれば…。 上の宣伝画像が出来あがりますね。




 さて、検索しているうちに、次の画像に行き当りました。

 『ブラームスと物乞い』…という題名らしい。



           PhotographersDirect より

  




 先ほどのwikipediaの続きには、「ブラームスは親戚たち
へ金品を惜しみなく渡し、そのうえ匿名で多くの若い音楽家を
支援した。」…と書かれてはいます。

 でも、「物乞いに…」という記述には行き当りませんでした。



 皮肉屋、毒舌家として知られたブラームス。 しかし生い立ち
は、決して幸せとは言えなかった。




 ヴィーンの名士として名声を欲しいままにした、後半生の
ブラームス。 弱者への思い遣りを忘れなかったとすれば…。

 私にとっては新たなる発見。 この大作曲家が、いっそう
好きになりました。





        [五重奏曲 第1番 音源ページ