01/15 私の音楽仲間 (551) ~ 私の室内楽仲間たち (524)
太っ腹のブラームス
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
関連記事
Brahms の弦楽五重奏曲
Brahms の荒波
音の出し入れと Ensemble
阿吽の呼吸
非現実のイ長調
嫌われる外骨格
太っ腹のブラームス
理屈っぽいのは誰?
言うだけ言ったわよ
[演奏例の音源]は、引き続きブラームスの
弦楽五重奏曲第1番から。
今回は第Ⅰ楽章で、最初の主題が再現される
箇所です。 ヘ長調、4/4拍子。
再現部は、[譜例 1]の2小節前から始まります。
[譜例 2]は楽章の冒頭です。 Violin.Ⅱ のパート譜ですが、
Vn.Ⅰに続いて登場し、主題の後半を引き継いでいました。
これに比べると、再現部は実に賑やかですね。 あちこち
から三連符のリズムが聞こえます。
この曲が作られたのは、1882年初夏のこと。 49歳を
迎えた直後に当ります。 ヴィーンに住み着いてから、
早20年が過ぎ、すでに大家として認められていました。
自信に溢れた確固たる歩調が、ここにも顕われている
ように思われます。 着実に歩みを続けるブラームス…。
これ、三連符でないと駄目ですね。 二連符でも、また
四連符でも、この風格は滲み出て来ません。
そして、テンポも重要です。
“Allegro non troppo ma con brio” と指示されている。
意訳すると、「ほどほどに快活に、でも活力に満ちて。」
相変わらず注釈が多く、ブラームスらしいですね。
また、この “con brio” は “陽気に” と訳すことも出来ます。
…となると、大好きな散歩に出かける気分でしょうか。
[wikipedia]には、「朝はプラーター公園を散歩し、昼に
は “赤いハリネズミ” というレストランに出かけるのが彼
の習慣だった」…と書かれています。
ブラームスの肖像画や写真は、今日でも豊富に残っています。
音楽ファンの貴方なら、もう何度も目にされたことでしょう。
ここでは、[brahms in silhouette]と検索してみました。
有名なのは、“歩くブラームス” の姿ですね。
…おや、これ変ですよ? “ZUM ROTEN IGEL” とあります!
「“赤いハリネズミへ” (向かうブラームス)」…の意味になるから。
どうやら、オリジナルなものではなさそう。 コマーシャルに
転用されてしまったようです。
次の二つの画像は、オリジナルと判明しているものです。
共にオット―・ベーラー (1847?1913) の作品。
もちろんハリネズミは、どこにも描かれていません。
この二つを合成し、修正した上で、ハリネズミを描き
加えれば…。 上の宣伝画像が出来あがりますね。
さて、検索しているうちに、次の画像に行き当りました。
『ブラームスと物乞い』…という題名らしい。
[PhotographersDirect] より
先ほどの[wikipedia]の続きには、「ブラームスは親戚たち
へ金品を惜しみなく渡し、そのうえ匿名で多くの若い音楽家を
支援した。」…と書かれてはいます。
でも、「物乞いに…」という記述には行き当りませんでした。
皮肉屋、毒舌家として知られたブラームス。 しかし生い立ち
は、決して幸せとは言えなかった。
ヴィーンの名士として名声を欲しいままにした、後半生の
ブラームス。 弱者への思い遣りを忘れなかったとすれば…。
私にとっては新たなる発見。 この大作曲家が、いっそう
好きになりました。
[五重奏曲 第1番 音源ページ]