01/19 私の音楽仲間 (553) ~ 私の室内楽仲間たち (526)
言うだけ言ったわよ
これまでの 『私の室内楽仲間たち』
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言うだけ言ったわよ
みんなで室内楽をやっていると、誰が主導権を取れば
いいのか、迷うことがよくありますね。
音楽で解りやすいのは、メロディーと伴奏の区別が、
はっきりしているような曲です。
主従の関係は明白。 メロディーのパートを邪魔して
はいけない。 音量的にも、またテンポの点でも。
しかし、いくら Vn.Ⅰがメロディーを担当しているから
といって、いつでも好き勝手が許されるわけではない。
主従関係にも限度があります。
また、単なる “主従関係” では割り切れないのが、
アンサンブルの面白さかもしれません。
曲は、引き続きブラームスの弦楽五重奏曲第1番の
第Ⅰ楽章。 譜例は第二主題部分の途中で、提示部です。
今回は[ ]で囲まれた4小節間だけ、ご注目ください。
ここには色々なリズムがありますね。
Vn.Ⅰは、テーマを Viola から引き継ぎ、“大きな” 三連符
で歌います。 ところがチェロ、2つの Viola は、ピツィカート
で2拍子系を刻んでいる。
結果として、“二連符”、三連符、“四連符” が混在する
音楽になっています。
これ、誰が主導権を取ればいいの?
リズム、テンポの点で。 そして、音量は?
[演奏例の音源]は、2分足らずの長さですが、編集で
継ぎはぎだらけ。 以下の3つの部分から成っています。
(1) Viola の第二主題。 [ ]の前まで、12小節。
(28秒間)
(2) Vn.Ⅰ の第二主題。 [ ]から、17小節。
(39秒間)
(3) Vn.Ⅰ の第二主題、ただし再現部より。 18小節。
(44秒間)
さて、問題の[ ]の部分。 この4小節間だけが異質です。
いきなり “大きな三連符” が出て来るからですが、テンポは
どうすればいいのでしょうか? 同じ? それとも違っていい?
私がやりたかったのは、その前後と同じテンポで
弾くこと。 ところが簡単ではありません。
陥りやすいのは、テンポが速くなってしまうこと。
レガートで音が持たずに。
「周囲の音をよく聴けばいいじゃないか。」
そのとおりです。 でもレガートで歌っていると、なかなか
聞こえにくい…。 特にピツィカートの音は。
結果的に、“手探り状態” で弾いているのが、(2) の
部分なんです。
そういうときは、チェロ、Viola がピツィカートでハジく
様子を、眼で見るようにしている。
それでも不安が一杯です。 八分音符だと、一つぐらい
見間違える危険性があるから。
「聴きながら歌うのは難しい」…と、つくづく感じました。
「えい、ズレたら、何とか合せてくださいね。
お願いだから…。」 そんな心境でした。
同じ[演奏例の音源]です。
ここで助けてくれたのが、Vn.Ⅱの San.さん。
「どう弾いたらいいのですか?」と、質問してくれたのです。
San.さんのパートは、2拍子。 そこで私は、以下の
ようにお願いすることが出来ました。
「2拍子系のみなさんで、がっちりスクラムを組んでね?
“おい、このテンポだぞ!”…と、私をリードしてください。」
仲間たちは、半分意外な表情。 私は続けます。
「特に Viola の細かい八分音符が聞きたい。 全体に
ピツィカートは、思ったより聞こえにくいんです。」
“p” と書いてありますが、相手はブラームスですよね。
そこで実践してみたときの録音が、(3) の部分です。
音源では解りにくいかもしれませんが、私には Viola の
ピツィカートがよく聞え、安心して歌うことが出来ました。
念のために一言だけ。 私は決して、【四連符の一個一個を
しっかり聴いて、そのリズムとの関連で、三連符を正確に】…
弾こうとしたわけではありません。
そんなこと、このテンポでは不可能です。 少なくとも私には。
私が感じたかったのは、あくまでも “大きな2拍子の鼓動”
です。 それが掴めさえすればいい。
でも、チェロの四分音符だけしか聞こえないと、まだ不安
なんです。 脈動が連続せず、流れには今一、乗りにくい。
つまり、【一つ一つの八分音符を聴く】…のではなく、“4つ
の八分音符から流れを感じる”…と言えばいいのでしょうか。
したがって、二連符系の皆さんが遠慮してしまうと、
アンサンブルは合いにくい。
たとえ合っても、全体の響きには安定感がありません。
しっかり主張すべきでしょう。
「でも Vn.Ⅰが、もし “いい加減に” 弾いたら、どうするの?」
そうですね。 そうなったら、最終的には “お付き合い” する
しかないでしょう、Vn.Ⅰに。 主張するだけは主張して…。
これ、往々にして起こりやすいことです。 室内楽に限らず。
“裏切る” のは、室内楽のメロディー-パートだけに限りません。
時にはオーケストラの指揮者が。 それも大威張りで。
正確に刻んでいる内声パートは、いつも犠牲者になる。
かつてオケで Viola を弾いていた私のヒガミですが。
あるいは…。 今回は私が、最初から信用されて
いなかったのかもしれませんね。
「何でもいいから、好きにやりなさいよ。 私たち、
付き合ってあげるから。」
ちなみに、この日は “黒一点” でした。
五人の中で。 私が…。
[五重奏曲 第1番 音源ページ]