MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

Brahms の弦楽五重奏曲

2009-01-17 00:02:10 | 私の室内楽仲間たち

01/17  私の音楽仲間 (11) ~ 私の室内楽仲間たち (10)



           Brahms の弦楽五重奏曲



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




                関連記事  
              Brahms の弦楽五重奏曲
                  Brahms の荒波
              音の出し入れと Ensemble
                   阿吽の呼吸
                  非現実のイ長調
                  嫌われる外骨格
                太っ腹のブラームス
                理屈っぽいのは誰?
                言うだけ言ったわよ






 年が明けてほどなく、私の室内楽が再開しました。

 この日は弦楽五重奏が二曲という編成で、前半は、
Brahms の弦楽五重奏曲第1番ヘ長調作品88です。




 メンバーは、Violin が私とSa.さん、Viola はB.さん
I.さん、チェロはSi.さんです。

 ViolaのI.さんは今回が初参加ですが、やはり室内楽
経験が豊富な方のようです。




 この曲、恥ずかしながら私はどのパートも弾いたことが
ないばかりか、曲をじっくり聴いたことすらありません。

 一応スコアを勉強しては来ましたが…。




 その点、愛好家とはいいながら、実地経験のある方々
にはかないません。 Vn.Ⅰを担当しているものの、
恐る恐る気配を窺いながら、戦々恐々です。




 「パート譜をちゃんと弾ければ問題無い」、

そのような見方も、確かにあります。




 しかし、それは建前で、楽譜とは、まことに不完全な
もの。 生の音の飛び交う現場経験の方が、はるかに
重要だ…!

 というのが、これまでの私の実感です。




 それだけに、逆もまた大事です。

 単にパート譜を見ただけで、いかに
音楽全体を予想、想像、構築、イメージ出来るか…。
演奏家としての真価を問われますが、これが難しい。

 それが、「眼光紙背に徹す」と、解答欄に前回書いた
理由です。





 まず第Ⅰ楽章。 ヘ長調、4/4拍子で、一見単純ですが、
かなり合せ辛いと感じました。




 規則的な八分音符と、不規則な十六分音符が噛み
合っています。 また、頭打ちとシンコペーションが
組み合わさり、しかもフレーズはレガートなので、
弾いていると、リズムが大変聞き取りにくいのです。

 リズムを厳格に弾かないと、ピッタリ合いません。

 前者は、十六分音符よりは八分音符の方が、しっかり
テンポをキープしなければなりません。

 また後者は、シンコペーションよりは、頭打ちが大きく
聞こえる方が安定するのですが、作曲者が指定した
人数は、逆に2:1 なので、弾いていると幻惑されて
しまいます。




 さらに展開部に入ると、もっと合いにくくなります。

 スラーのかかった四分音符と八分音符、スタカートの
八分音符、スタカートの三連符などが、同時に交錯します。

 正確に弾けばもちろん合うはずですが、なかなかそうは
行きません。 少しでも厳密さがかけると、たちまち何が
何だか分からなくなります。

 特に曲者(くせもの) なのは三連符。 スタカートなので、
一々弓を返して弾くわけですが、その分、かなり軽く
弾かなければなりません。 たとえ "f" でも!

 これがネックになり、三連符のパートがどうしても重くなり、
テンポが遅くなり、全体と合わなくなります。




 しかも、主要モチーフはレガート。 おまけに二拍目から
始まるので、各自のフレーズ感がしっかりしていないと、
たちまち合わなくなります。




 作曲者の "凝った" 作りに翻弄されっ放しの、第Ⅰ楽章
でした。





 次は、荘重な歌の第Ⅱ楽章です。
              
(音源は冒頭の2分間だけで、しかも画像は舞踊です。)



 冒頭のメロディーはチェロ。 三度下にVn.Ⅰです。

 三連符の頻出する緩徐楽章、3/4拍子、シャープ(#)
が多い…、など、どこか第一交響曲の第Ⅱ楽章を
思わせます。




 中間部は軽快なものの、楽章の終わりの部分は、
Richard Strauss の『四つの最後の歌』のような
諦観を感じてしまうのは、私だけでしょうか。





 終楽章の第Ⅲ楽章は、ヘ長調、3/2拍子。 またしても
八分音符、レガートの三連音符の噛み合わせで、気が
抜けません。




 私のパートは、高音域でのオクターブの跳躍、おまけに
臨時記号だらけの、異名同音と転調の連続。

 これにはかなり苦労しました。 調性感が、まだ頭に
入っていなかったので。





 この曲を演奏することは、昨年のうちから分かっていた
のですが、自分が本格的に取り組めたのは、かなり遅い
時点でした。

 そのために、実は充分に練習できないまま、年越しを
迎えてしまい、心理的にはかなり重圧を感じながら、
この日に至ったのです。



 他の方々も、楽な思いの出来るパートはおそらく一つも
無く、曲を二回ほど通して終わると、誰もがホッとした
表情です。




 アンサンブルの難しさは、全体的に、あの第三交響曲
Ⅰ、Ⅳ楽章に通じるものがあります。

 そう言えば、作品番号は二つ違い、作曲年代も一年しか
違わないし、主要な調性もヘ長調で同じ。

 何か似ています。 難しく、理屈っぽいところまで。

 「確かにおっしゃるとおりですが…」という感じです。




 これからお茶の休憩。

 このしんどい曲を今日の前半に置いたのは、大正解
だったようです。