MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

呼び交わすニ長調

2010-05-16 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

05/16 私の音楽仲間 (169) ~ 私の室内楽仲間たち (149)



          Mozartニ長調 五重奏曲




   この集いは、すでに何度かお読みいただいているグループです。

         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




 Mozart の弦楽五重奏曲には、偽作の疑いが無い、確実
なものとしては、以下の6曲があります。 編成はいずれも
「Violin 2、Viola 2、チェロ 1」です。



    変ロ長調 K174 (1773年)

     ハ短調  K406 (1787年)

     ハ長調  K515 (1787年)

     ト短調  K516 (1787年)

     ニ長調  K593 (1790年)

    変ホ長調 K614 (1791年)



 通常 "第2番" と呼ばれる "ハ短調" は、自身の管楽
八重奏曲 (K388) からの編曲でした。

 なおここでは、"第*番" のような番号は、敢えて記してありません。




 私、OS.さんの Violin、It.さんSa.さん の Viola、N.さん
のチェロによる、五重奏の午後。 最後は Mozart の『弦楽
五重奏曲 ニ長調 K593
』です。




 全曲は、以下の各楽章から成ります。



    ニ長調
     [序奏 3/4拍子 Larghetto] [主部 2/2拍子 Allegro]

    ト長調 3/4拍子 Adagio

    ニ長調 3/4拍子 MENUETTO Allegretto

    ニ長調 6/8拍子 FINALE Allegro




 不思議な曲です。 特に印象的な旋律があるわけではない
し、構成美が目立つ曲とも言えません。



 "ト短調" のように、悲しみは疾走しません。 また "ハ長調"
の飛翔や、いぶし銀のような中低音域の輝きもありません。
「躍動感が欲しければ、"変ホ長調" の方をどうぞ!」と、逆に
注文を付けられているような気さえします。

 そして、私たちが何分か前に演奏していた、"厳格なハ短調"
とは、まさに対極にあるような曲です。 明るく、平明で、音楽
は淡々と流れて行きます。




 しかしスコアをよく見ると、5人の演奏者が絶えずキャッチ
ボールを繰り返しているのが解ります。

 ただし、「何小節もの長いソロを受け継ぐ」といったようなもの
ではありません。 受け渡しをするフレーズは短めで、ときには
"音符数個から成るモティーフ" だけのことさえあります。



 つまり、パート譜だけを眺めていると音楽全体が掴みにくい
曲の一種と言えるでしょう。 「ボールをちゃんと受け渡すこと
が出来た!」と演奏者同士が実感して初めて、曲の美しさが
外に伝わるのかもしれません。




 ところで、私はこのニ長調を弾いたことがありません。

 「私たち五人の中で、この曲をリクエストしたのは一体誰なの
かな…?」 そう思って、私はみんなに尋ねてみました。 手を
挙げたのは、Viola の It.さんでした。

 きっとこの曲を何度か演奏した経験があるに違いありません。
しかし It.さん曰く、「これはまだやったことがないので、一体
どんな曲なのか、弾いてみたかったんです…。」



 結局、五人ともこの曲は初めてでした。




 性格が前面に出るような曲ではなく、一言で全体を表現できる
言葉を探すのも難しい曲。 だから、取り上げられる機会が少ない
のかもしれません。

 スコアの底で、各パートが短く呼び交わしている五重奏曲。
それを掘り起こし、磨き上げたときに、この曲は美しく輝くの
かもしれません。



 まるで、「みんなで呼び交わしている様子そのものが、この曲
の真の魅力なんだよ」と、言われているかのようです。

 Mozart に。




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              変ホ長調の輪




 音源です。




弦楽五重奏曲 ニ長調 K593

  バルヒェット四重奏団 (1950年代初めの録音)

  音源ぺ―ジ