MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

トリは任せたよ

2014-11-12 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

11/12 私の音楽仲間 (633) ~ 私の室内楽仲間たち (606)



              トリは任せたよ



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』



 譜例は Mozart の 弦楽五重奏曲 ハ長調 K515 から
第Ⅰ楽章の終わりの部分です。 各パートが次々にテーマ

を奏でつつ加わります。

 順番を見てみましょう。

 ViolinⅡ、ViolaⅠ、ViolaⅡ…と、音域は低いほうへ。
そして、音の高い ViolinⅠ が聞こえてきます。

                            ↓

  ↑

 トリはチェロ。 ViolaⅡを伴い、補強されていますね。

 これはコーダに当る部分です。 音楽はさらに1分ほど
続き、楽章は終ります。

 演奏例の音源]もここから始まります。


 これは、ちょうど前回の音源]の続きになります。

   関連記事 束になってかかって…来ないでね



 さて、このフーガ風の箇所ですが、チェロは最後に登場

いますね。

 四重奏曲などでは、厳格な “四声のフーガ” が聞かれる
こともあります。 しかし、そこでも事情は同じ。

 チェロや Vn.Ⅰなど、“最低音・最高音” のパートが最初
から現われることは、まずありません。

 “言いだしっぺ” は、ほとんどが “内声” です。 今回の
“五声部”の音楽でも、チェロや Vn.Ⅰは、“最後の二人”
して登場しています。


 中でもチェロを最後まで温存しておく傾向が、Mozart
の室内楽作品では強いのではないでしょうか。 これは
初期の弦楽重奏曲でも言えることなのです。 

 私がいつも思い浮かべるのは、あのニ短調の弦楽
四重奏曲…。 第Ⅰ楽章の最後の部分です。


 この楽章は、決してチェロだけが目立つわけではない。

 現に、短いモティーフの “受け渡し” が、各パートの間
で頻繁に行われます。 チェロが言いだしっぺになること
もあれば、トリになることも…


 しかし、いよいよ【残りが僅か30秒】となったところで、
チェロが朗々と歌い始めます。

 そして、最後は Vn.Ⅰに主導権を譲ったところで、
楽章は終ります。

        ニ短調 四重奏曲 音源ページ]

 


 Vn.Ⅰには細かい動きがありますね。 でも、それ以上にチェロ
消してしまいやすいのが、Vn.Ⅱや Viola のクレシェンドです。

 チェロといえども埋もれてしまう…。

 旋律自体は、さして重要なものはありません。 主要主題と
若干の関係は見られるのですが。


 しかし、「作曲者が最後までチェロをリザーヴしていた」
見ることも可能でしょう。 …もしそうなら…

 「他の3人は、チェロをよく聞えるようにしてあげてほしい。
最後の音符に至るまで、悠然と歌わせましょう。」


 これは一つの解釈にすぎません。 それに、チェロ弾き
でもない私が、なぜこの部分に愛着を覚えるのか…?

 「チェロに最後を託したい。」 そんな思いが作曲者に
あったと考えるのは、邪推にすぎないでしょうか。

 ちなみに、「Mozart がチェロを手にした」…という記述
も見たことがありません。


 何はともあれ、この五重奏曲 ハ長調。 Vn.Ⅰと対等
にチェロが張り合う箇所は、他の楽章でも枚挙に暇が
ありません。

 これについては、また回を改めて。

 




            ハ長調 五重奏曲

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