MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

Brahms の荒波

2010-09-21 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

09/21 私の音楽仲間 (210) ~ 私の室内楽仲間たち (184)



              Brahms の荒波



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                  非現実のイ長調
                  嫌われる外骨格
                太っ腹のブラームス
                理屈っぽいのは誰?
                言うだけ言ったわよ





 この日 私に割り当てられた曲は、2つの弦楽五重奏曲でした。
最初は BRAHMS です。




 ドイツ圏の作曲家には、弦楽四重奏曲を数多く作りながら、
後に弦楽五重奏を目指す例がよく見られます。 Mozart
Schubert もそうでした。 それはこのコーナーでも何度か
触れています。

 Beethoven も同じ計画を抱いていましたが、残念ながら
果せませんでした。



 最後の室内楽曲としてクラリネット五重奏曲を書き上げた
Brahms は、2曲の弦楽五重奏曲を残しています。

 第1番 ヘ長調 Op.88 (1882年、49歳)
 第2番 ト長調 Op.111 (1890年、57歳) です。



 第1番は同じ年のうちに初演され、翌年に出版されています。
また四手用のピアノ編曲版も残されています。 これは第2番
や、ピアノ五重奏曲、弦楽六重奏曲なども同様で、Brahms が
頻繁に試みている作業です。




 「弦楽五重奏の "5" というのは、半端だな…。」 そうお感じ
かもしれませんね。 "Violin が2つ" は いいとして、その他は
どういう組み合わせなのでしょう?

 ほとんどの場合は「Viola が2チェロが1」です。




 ただ、これにも例外があり、その代表格は SCHUBERT です。

 "チェロが2" なので、「Viola はおいしい」と、よく言われます。
もちろん「よく目立ち、弾きがいがある」という意味です。

 二つのチェロはほとんどの場合、"高音域の歌" と "低音域の
支え" として、役割が分れています。

 "歌うチェロ" は、この曲でも本領を遺憾無く発揮しています。
極端な場合は、チェロが2台とも高音域で歌い、Viola が低い
音域で全体を支えることさえあります。

 しかし曲の恐ろしさが表現できるかどうかは、むしろチェロⅡ
次第でしょう。



 この SCHUBERT は、器楽スタイルを取りながら、ただ歌心に
満ちているだけではありません。 ときどき底無しの地獄の口
がパックリ開くのです。




 しかしこれが BRAHMS になると、Viola が2つです。 しかし
その主な役割は "歌" や "支え" ではなく、ましてや単なる和声の
"充填" ではありません。 目指す音楽も表現スタイルも、もちろん
Schubert とは異なります。



 彼が Viola を重視した目的として、"中音域の充実" がよく指摘
されます。 この音域で音が増えると、"明るく華やか" というより、
響きはやはり暗く重厚になります。

 その主な原因は、もちろんハーモニーです。 同じ和声でも、音
の数、配置、音域によって、全体の響きはガラッと変わります。



 下記の二つの参考サイトをご覧になると、「ブラームスは
ヴィオラを重複させる事によって、中声部を充実させ…」と
あります。



   [参考サイト ]  [参考サイト




 ところで BRAHMS の重厚さは、どうもハーモニーだけでは
なさそうですね…。

 そしてこれは、"Brahms ならではの難しさ" でもあります。




 メンバーは、Violin が O.さんと私、Viola が B.さんI.さん
チェロがSa.さんです。



 私は今回は "内声" の一員。 それなりの難しさはありますが、
負担は何と言っても軽いので、申しわけないほどです。

 Vn.Ⅰを担当した O.さんはいつもどおり、とても堅実に全体を
仕切ってくれました。



 でも、"内声の難しさ" って、何なのでしょうね? 特に、
"ハーモニー以外の難しさ" があるとすれば。

 …ということは、何も内声に限ったことではなくなりますね。
Vn.Ⅰ、チェロの "外声" も同じように関わってくるからです。







 第Ⅰ楽章がスタートしました。 安定した 4/4拍子。
みなさん、曲をよくご存知のようです。

 おそらく私が一番経験が浅いでしょう。 少なくともこの曲
に関しては。 前回は Vn.Ⅰを弾いた覚えがありますが、
まだこれで二回目ですから。



 それにチェロの Sa.さんは、コピーしたスコアを足元に置いて
います。 私もこの曲ばかりはスコアを欠かせません。




 音楽は自然に流れ、私たちの航海も何とか順調です。

 しかし、だんだんアンサンブルの荒波が高くなってきました。
Brahms 特有の!



 繰り返し記号を過ぎ、展開部に入ったところで、船はとうとう
難破してしまいました。 それは次のような箇所です。

 なんだか、ちょっと見ただけで複雑そうですね。 どうぞ、
眺めるだけで充分です。 じっくり検討するのが好きな方
は別として。



音源ページ



  (続く)