MARU にひかれて ~ ある Violin 弾きの雑感

“まる” は、思い出をたくさん残してくれた駄犬の名です。

理屈っぽいのは誰?

2014-01-17 00:00:00 | 私の室内楽仲間たち

01/17 私の音楽仲間 (552) ~ 私の室内楽仲間たち (525)



            理屈っぽいのは誰?



         これまでの 『私の室内楽仲間たち』




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                  嫌われる外骨格
                太っ腹のブラームス
                理屈っぽいのは誰?
                言うだけ言ったわよ





        先生はブラームス、お好きですか?

        「あんまり暑苦しい曲は駄目だよ。
       とにかく理屈っぽい音楽だからね。」

        ……。



 これ、恩師との会話で、はるか私が高校二年の夏のとき
の話。 でも、こういうことはよく覚えているものですね。

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 というわけで、今回は徹底的に理屈っぽい内容ですよ。

 きっと貴方も嫌気がさして、途中で投げ出すこと、請け合い!
なんでしたら、今のうちに…。



 それとも最後までお読みになったとしたら…。 “理屈っぽい
のがお好き” …ということになります。 貴方も。 私以上に。




 曲は、引き続きブラームスの弦楽五重奏曲第1番
から、第Ⅰ楽章、再現部の続きです。

 演奏例の音源]も、前回と同じもので、[譜例 1]の
2小節前からスタートします。







 色塗りの部分は、このテーマの中心フレーズです。




 さて、5小節が経過した後の様子です。 次の[譜例 2]
では、八分音符の続く形が出て来ます。

 これは、上のフレーズを変形したものですね。







 同じことは提示部でも起こりました。 ただし、一度だけ。

 でもここでは三回も、異なる楽器で現われます。 そうなると、
これは大事な形ですね。 何とか聞えるようにしたいのですが、
レガートだと音が出にくく、中低音は特に埋もれやすい…。



 問題は、ほかの楽器に “sf” が頻繁に現われること。
リズムを強調すべきなのは当然ですが、音量も大きく
なりやすいのです。 大事なフレーズを消してしまう。

 作曲者は、ここでどういう音楽を作りたかったのか。
もしそのとおりに聞かせるとすれば、音量バランスに
かなり注意する必要があります。




 [譜例 3]は、さらにその続き。 同じ形が、ViolaⅠにも出て
来ました。

 今度は新たに、とてもリズミカルなモティーフが現われます。



 以下は、すべてリズムが主眼です。 音程の上下などは
無視し、大まかなリズムだけご覧ください。

 同じ演奏例の音源]です。





                               

 それに続くのは、規則的な八分音符のリズム。 両者が
噛み合うと、一種のリズム的な緊張が生まれます。

 ただしそのためには、両方が対等に聞こえる必要があり
ますね。 それも音量だけではなく、リズムが目立つような
弾き方が大事です。




 次の[譜例 4]でも、新たな緊張関係が現われます。



 やはりリズムの対立ですが、今度はレガート。

 規則的な動きと、シンコペーションです。

                                   





 さて、このシンコペーションは注意が必要です。 頑張り
すぎると音が重くなり、バランスもテンポも悪くなるから。

 規則的なリズムあっての、シンコペーションです。 ここ
では、両者が対等に聞えたほうがいいでしょう。




 “規則性” と “不規則性”。 その対立が、なぜ、これ
ほど執拗に現われるのでしょうか?

 この緊張関係は、やがて弛み、Viola が歌い始めます。
第二主題です。



 それでは、第一主題はどうだったでしょうか? やはり歌
で、レガートの記号が目立ちましたね。

 ただしこの再現部では、三連符のリズムを周囲に従えて
いました。 まるで、作曲者が堂々と行進するかのように。

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 歌う主題部分が二つ。 そして、それに挟まれた、
リズムが対立して緊張を生み出す部分

 “対比” は、ここにもまた見られるようです。



 材料の配置、全体の構成。 それを支える技術。 聴き手の
心と感情を揺り動かす、計算と感受性…。 作曲家って凄い。

 「楽器の演奏が難しい」…などとは、言っていられませんね。
演奏に携わる者が。





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