▼今年の桜はどのように映っていたのでしょうか。目で物を見た経験をもたない全盲の人でも「色」を認識しているといいます。日々の会話を通じながらイメージし、色彩の概念を理解していると
▼木々のざわめきや風の音、花の香りや手触り。視覚に障害があっても、聞いたり、触ったり、嗅いだり。そして想像したり。ほかの器官や感覚を働かせて。晴眼者には見えない桜が見えているのかもしれません
▼東京工業大学リベラルアーツセンターの伊藤亜紗准教授によると、視覚障害者には「世界の別の顔」が見えているそうです。視覚を使うかぎり、「視点」というものが存在する。同じ景色でも視点によって見え方は異なる。しかし視点に縛られない人たちは、自分の立っている位置を俯瞰(ふかん)できたり、情報に踊らされず物事を客観的にとらえることができると(『目の見えない人は世界をどう見ているのか』)
▼桜を眺めていても、心に映る情景はさまざま。寒さ厳しい冬から春への移ろい。別れと出会いの季節。抱く思いは一様ではないはずです
▼ひとくくりに「見えない」といっても、その内実はそれぞれ。自分とはちがうことを特別視しないで、多様さを対等な関係でみることの大切さ。今年もまた咲いたと愛(め)でる桜の木に、同じものが一本とないように。