小雨、11度、64%
十月に入ってから主人がどこか旅行に行くようにと度々言ってきました。神戸の友人に会いたい、松本から安曇野を訪れたいなどと思うのですが今一つ腰が上がらずにいました。大きな美術展はコロナでの閉館をおそれてかこの秋は数が少ないように思います。夏の終わりから気になっていた展示会が一つだけありました。「川瀬巴水」の版画展です。出品数が300近く、これだけを一堂に見れる機会はないと東京行きを決めました。
「川瀬巴水」は大正時代から昭和初期に活躍した版画家です。旅した景色を得意とし、それまでの「浮世絵」と呼ばれる版画とは異にして「新版画」と呼ばれています。「川瀬巴水」を知ったきっかけは福岡の「西公園」をモチーフにした版画一枚からでした。大濠公園の北、海寄りの「西公園」の大正時代の景色でした。どこで見たのかもそれ以後「川瀬巴水」のことは忘れていました。
300点近い版画、さほど大きくない会場ですが時間指定で入館することもあってか人が少なくゆっくりと見る事ができました。 東京の景色をシリーズとして評価を得たは「川瀬巴水」です。多色刷りの版画は幾枚もの版木を重ねて刷られます。下絵を描く人、版木を彫る人、刷る人と分業の上にできる版画です。絵画とも違う平面状の絵の表現、その緻密さに圧倒されます。北海道から九州まで各地の景色がありました。「西公園」にも再会しました。
大正時代の日本、都内でも高い建物はありません。版画から伝わってくるのはそうした時代の時間の流れです。景色の中の人たちは穏やかに生きていると感じます。パンフレットの表紙絵左は代表作「芝増上寺」です。雪の中を傘を差し歩く女性の姿です。右は「馬込の月」、藁葺き屋根の上に月がかかっています。馬込は40年近く前もこうした田んぼが残っていました。版画の精巧さにも見惚れますが、それ以上に景色の美しさが残ります。日本の美しさです。日本の風景には「雨」「雪」「月」がよく似合います。
写生帳です。大正の時代、写生帳を片手に日本を旅した版画家「川瀬巴水」旅の様子を思います。
日本の風景の版画の余韻は三日経った今も私の心に残っています。