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小説『娘が巣立つ朝』

2024年08月18日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

タイトルから、
娘を嫁に出す両親の悲喜こもごもを描く感動作、
かと思ったら、一味違った

高梨家の一人娘・真奈が
婚約者の渡辺優吾を連れて実家に来た。
優吾は真奈の大学時代の先輩で、
快活でさわやかな好青年。

しかし、渡辺家には問題があった。
両親共にインフルエンサー
浮世離れした人たちで、
普通のサラリーマン家庭である高梨家には、
理解を越えている。
悪い人ではないが、
無邪気な無神経さで、
経済格差のある結婚は問題、
などと平気で口にする。
優吾の子育てを記録した本はベストセラーで、
智子世代のママはみんな読んでいる。
しかし、優吾はその過去に複雑な思いを抱いている。
その上、渡辺家の実家が資産家で、
二人の結婚式に色々口出しして来る。
神前結婚で、普通の式を望む二人に対して、
キリスト教式でしてほしいと言いだす。
その理由が曾孫たちにヴァージンロードに花を蒔く
フラワーガールをさせたい、
知り合いの歌手にゴスペルを歌わせたいというのだから、
結婚する本人たちを無視。
親戚が口を出すと、ロクなことにならない典型。
更に、出遅れて式場の予約が不調なことから、
伯父の口利きで、都内の超一流ホテルで、
渡辺家の縁戚者が大部分を占める、
大がかりな結婚式になりそうな気配。
ウェディングドレスについても口出ししてきて、
試着会にも乗り出して来る。

真奈は優吾の学生時代の交友関係に触れ、
モテ男だった優吾の元カノの存在など、
いろいろ複雑な思いを抱く。
また、結婚の家計についても考え方がすれ違う。
結婚の準備を進める中で、
互いの価値観の違いが次々と明らかになってくる。

一方、真奈の両親である健一と智子も問題を内包している。
健一は長年勤めた会社で役職定年が近づき、
最近会社での居心地が良くない。

思うようにならない職場の事情、
収入、老いていく身体、
健康への不安、
娘の婚礼と親の介護と己の老後の備えの工面。

週末は三島の介護施設にいる母を見舞っている。
そこで音楽家・リコと知り合い、
昔やっていたギターの夢に火が付き、
いつか心惹かれる関係になる。
智子は着付け教室の講師をして忙しくしているが、
家で不機嫌な健一に辟易している。
介護施設で撮った写真を見せられて、
夫が見たことのない笑顔で写っているのを見て、
リコとの関係を疑う・・・・

という、50代の夫婦の心のすれ違い
娘と婚約者の結婚を巡る問題を並行して、
健一、智子、真奈の3人の視点で
交互に描かれる。

智子の「慈眼施、和顔施、愛語施」(ジゲンセ、ワゲンセ、アイゴセ)についての言葉。                                        「お寺の住職さんに昔、言われたんだって。
慈しみある眼、和やかな顔、愛ある言葉。
学問や大きな収入で貢献できなくても、
ただそれだけで
人は宝に等しいものをまわりに差し上げているんだって。
お母さんは早くに会社を辞めたから、
そんなに収入を得られなかったけど、
この三つを心に留めて、
安らげる家庭を一生懸命作ってきたつもり」

娘の反応。

「『つもり』じゃなくて、
そうだよ、お母さん。
今もそう」

夫への宣言。

「あなた、わかってないようだから、
はっきり言うけど、
不機嫌は立派な暴力。
静かな暴力だから」

伊吹有喜さん初の新聞連載小説。
新潟日報など9紙に連載された。
この方の小説は、
以前、「ミッドナイト・バス」を読んだことがある。
映画化されたので、それも観た。
「ミッドナイト・バス」は山本周五郎賞と直木賞にノミネートされた。
日常の出来事を詳細に積み重ねて綴る作風。

紆余曲折あって、娘の結婚はなんとか成し遂げるが、
父母の関係は予想を越えていた。
これが現代の夫婦の姿か。
                                        映画にでもなりそうな題材。

ウチの娘は未婚だが、
こんな結婚騒動に巻き込まれなくなよかった、
という負け惜しみ的な感慨もわく。
主人公の健一は、いろいろあって、不機嫌で、
その顔色をうかがうことに智子は疲れてしまうのだが、
私はある時、自分が終始上機嫌な人間だと気づいたことがある。
朝起きた時から、夜寝る時まで機嫌がすこぶるいい。
カミさんは、そのことを喜んでいる。
人生いろいろあるが、
笑っても一日、悲しんでも一日。
それなら、笑って暮らす方がいいからね。

 



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