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小説『出版禁止 いやしの村滞在記』

2023年12月26日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

「出版禁止」(2014)、「掲載禁止」(2015)、「放送禁止」(2016)
などの禁止シリーズの長江俊和の小説。
「出版禁止 死刑囚の歌」(2018)に続く
出版禁止ものの第3作にあたる。

本書は、10年前に自費で出版された私家版の復刻版という体裁を取っている。
もちろん創作上の体裁。

「いやしの村」という奈良県にある
共同体をルポライターが取材で訪れる。
世の中で悩み苦しみ、傷ついた人々を迎え、
心に癒しを与え、再生するのが目的だと標榜するが、
妙な噂が飛び交っている。
というのは、この村の人々は
呪いによって殺人をする集団だというのだ。

ルポライターが村人に取材すると、
会社を奪われた者、家族を奪われた人、
交際相手に心身共に狂わされた女性、
職場を追われた元商社マン、
ネットに裸の写真をさらされた元教師など、
恨みと憎しみに耐えかねて、
この村に救いを求めて来た人々で、
基本的に良い人たちの集まりだ。
主宰者のキノミヤという男がなかなかの人物で、
村人の再生に全てを懸けているように見える。

と同時にルポライターは、
近隣に存在したという、
酒内(しゅない)村についても取材の矛先を向ける。
奈良時代に存在した呪禁師(じゅごんじ)の子孫で、
百年祭という儀式では、
人身御供が殺され、
その死骸が49に分割されて、
湖の周囲にある神木に                              打ちつけられるという。
目的は呪いで人を殺すためで、
ルポライターは、
いやしの村が実は酒内村の末裔ではないかと疑う。
しかも、半年前にその百年祭が行われた痕跡が
湖の周辺に残されていた。
死体遺棄事件だ。

ルポライターの取材では、
村人は善良な人々で、
悪い噂を裏付ける様子はうかがえない。
実はルポライターは、
高校時代の友人の女性が死んだのも、
この村を訪れて、秘密を知ってしまったために
呪いで殺されたのではないかとの疑いを抱いていた。


素数蝉の理
無垢の民
まぼろしの村
まえがき

という構成で綴られるルポライターの記録。
果たして、村の実態は、噂のようなものなのか、
それとも、本当のいやしを目的とした村なのか。

長江俊和は、だましのテクニックを駆使する人で、
今回も、身構えて読んだが、
すっかり騙された。

以下、読む予定のある人は
読まないで下さい。

だましの手法は2つ。
一つは、ルポは、1人の人物によるものではなく、
男と女の2人の人物によるものであること。
一人の人物の一貫したルポという誤誘導がなされる。

もう一つは、
記述の順番が実は時系列的に逆になっていることで、
まえがき
まぼろしの村
無垢の民
素数蝉の理
あとがき
が正しい順番。
わざと逆に記述することで
読者を誤誘導しているのだ。

というわけで、
最後に至って、
前のページをめくる作業をすることになる。
そもそも、取材をする動機を与えた青木という人物が、
キノミヤと同一人物だったなど、
途中で気づかないものか。
確かめるために、
何度かページをめくったが、
面倒なので、
途中でやめた。

そういう小説。



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