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小説『アンリアル』

2023年12月02日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

主人公は沖野修也、19歳。
ある理由により引き籠もりだったが、
外務省に勤めていた父親と母親の交通事故死の真相を探るため、
警察官を志した。
警察学校在学中、ある能力を使って
二件の未解決事件を解決に導いたが、
推理遊び扱いされ、組織からは嫌悪の目を向けられていた。
ある日、単独行動の挙句、
公安の捜査を邪魔したことで、
副署長室に呼び出され、
聞きなれない部署への異動を命じられる。
それが、内閣府国際平和協力本部事務局分室 国際交流課二係で、
その正体は、諜報、防諜を行う、スパイ組織だった。

実質的なスカウトでその部署に配置されたのは、
沖野が持つ特殊能力、
危険が迫ると総身が泡立って知らせるのと、
敵意や悪意や殺意を持った人物の目が赤く光って見える
という「特質」だった。
破格の給料と待遇で雇われたのが何故か、
疑問に思いつつ、
課長の天城、係長の国枝、
主任の水瀬(みなせ)響子、ズテクのヒロらと
仕事に取りかかる。

物語は4つのCaceで構成される。
Cace1は、台湾の薬品メーカーの前社長で、
カナダに亡命した呉と妻の警護。
Cace2は、洗脳の技術を持ち、
誘導して殺人事件を起こさせたマックス・レイナードという男で、
その後ドイツで女性に変身したアンゲラ・マレーネ・ギーガン教授が
インターネットサービス会社の社長・津久井と
シンポジウムをするために来日した警護。
Cace3は、臓器嚢という、臓器移植のために作られた
改造人間を巡る暗躍。
これらのCaceは、別々の案件に見えながら、
実はつながっており、
Cace4で、その実相が明らかになる。
特にCace4では、
戦前の「水無月計画」という、
特殊能力を持つ者の交配実験の存在が明かされ、
沖野は、自分の持つ特殊能力が
明治時代から続く遺伝子掛け合わせの産物であることに嫌悪を抱く。
沖野の父母の事故死の真相も一部明らかにされる。
また、沖野の前任者で、
国際交流課を脱出した神津との関係が話を進める。
神津は、話している人物が真実を話しているか、嘘を言っているかを、
その声音で見抜くという特殊能力の持ち主。

基本的にスパイアクションだが、
沖野の特殊能力ゆえの苦悩や
正義とは何か、日本の安全とは、などという
高級な議論も織り込む。
スパイ組織の人間の罪悪感なども取り沙汰される。
アクションシーンはなかなかだが、
特に、最後のCace4での
神津と沖野の一緒の行動のサスペンスはページをめくる手を止めない。
小道具として最新鋭の通信機器や盗聴装置、起爆装置などの精密機器が次々と登場する。
レイナードとギーガン教授の関係の真相は、意表をついた。

沖野の書いた論文、
「天然資源が乏しい日本にとって、
国民の中に潜在的にある
勤勉さや正確さへのあくなき探求心こそが資源なのだ。
電車が一秒も遅れずにやってくる。
町工場が0.001ミリのサイズの狂いもないネジの製作にこだわる。
こうした気質は、地下に眠る天然ガスと同じくらい重要な、
日本人の中に埋蔵された資源だと思う。
これが日本人から枯渇してしまったら、
国際競争力はら本当に皆無になってしまう」
は、ほう、そういう観点もあるかと、感心した。

主人公沖野の成長譚とも読める。

終わりに向かい、残りのページが少なくなって、
これは続編があるのではないかという危惧が。
父母の死の真相も半端だし、
やはり続編がありそうだ。
長浦京、一筋縄ではいかない。

『小説現代』に連載されたものを単行本化。

アンリアルとは、
実在しない、非現実的な、空想的な
の意。



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