『光州 5・18』
原題:화려한 휴가 (華麗なる休暇)
監督:キム・ジフン
出演:キム・サンギョン、アン・ソンギ、イ・ヨウォン、イ・ジュンギ、パク・チョルミン
各所で拝読したレビューでは、感傷的という意見を見かけたので、泣かせる映画だろうとは思っていたけれど、私は見終わって、泣くというよりはまず 「怒り」 がこみあげてきた。これも一種の感傷か(笑)。
韓国だけでなく日本を含め多くの国で、かつて同じ国の人間同士が武器を手に取り殺し合う歴史を経験しており、今なお進行形の国もあると思うけれど、「権力」 や 「独裁」 に魂を奪われてしまった人間というのは、どうしようもなく愚かだということだ。
愚かであることがわかっていてもなお追随する人間の愚かさも罪深くて。
ともあれ、(自分を含む)愚かな人間に対する 「怒り」 がもし映画の狙いだとしたら、私はものの見事にツボにはまったことになる。
作品としてどうだったかというと、これがちょっと・・・
「はい、ここで泣いてください」 「はい、笑ってください」 というあざとさが見え見えで引いてしまった。
笑ってください という場面では、パク・チョルミンのお調子者キャラに、おそらく劇場内の観客のほとんどが引いていたのではないかと思う(推測)。誰一人笑うどころか、身動きひとつせず、しらーっとした空気だった。映画全体を振り返ると、重さ・暗さの中の和みを担当しているのは分かるのだけど。
泣いてください という場面は多すぎて、涙に含まれる悲哀の濃度がだんだん薄くなっていくような気がして、結局何が一番悲しかったのか、泣いたっけ?と実感がわかない。
個人的に一番良かったと思えた俳優は、主役のキム・サンギョン。できれば危ないことにまきこまれたくなくて平穏無事に暮らすことを望む一市民という役どころ。平凡で実直なキャラだし、演技も地味目。だからこそ、ごくごく普通の光州の市民像がそこに凝縮されていて、地味でも緻密な演技という感じがした 。
もっとも、助演陣が豪華で、それぞれキャラ立ちすぎてくれたのが幸いしたのかもしれない。キム・サンギョンの地味さを却って際立たせていたような・・・。アン・ソンギ先生を初めとする助演の皆さん、ステレオタイプな設定なのに強烈で・・・。これを面白いととるか、バランスが悪いととるかは、見る人によるかもしれません。
これまで正面から触れられることのなかった、誰も触れたがらなかった、国家の心の傷のようなテーマをあえて取り上げ、このテーマに関わったすべての人の想いを伝えることは到底無理だということをわかっていながら、苦心して描いたのだろうなということは、なんとなく伝わってくるのは確か。
ただ外国人の私には響いてこないものもあるに違いない 。
エンディングのシーンでは、死んでいった者はにこやかな笑顔なのに、生き残った者に笑顔はなく憂鬱な表情。この事件の傷跡を象徴しているのかしら。
音楽のクレジットに、チェコ・フィルとあったので、ふと 「プラハの春」 を連想してしまった。