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特殊指定にしがみつく新聞業界

2006年05月20日 22時32分03秒 | ■メディア・リテラシー
新聞の特殊指定、存続で一致 自民独禁法調査会
2006年05月18日01時20分
 自民党の独禁法調査会(保岡興治会長)は17日、公正取引委員会が検討している新聞の特殊指定の廃止に反対することで一致、保岡会長らが特殊指定存続に向け公取委側と協議に入ることを決めた。
http://www.asahi.com/politics/update/0518/002.html

このニュースの全文を読んでも、おそらく何のことかさっぱり分らないと思う。
特殊指定?再販制度?
新聞業界というのは、この二つの法律の規定で、50年間完璧に競争から守られてきた。

新聞特殊指定 1964年(昭和三十九年公正取引委員会告示第十四号)

第1項:新聞発行本社が行う地域又は相手方により異なる定価設定や値引行為を禁止。ただし,学校教育教材用や大量一括購入者向けなどの合理的な理由がある場合は例外として許容。

第2項:販売店が行う地域又は相手方による値引行為を禁止。(第1項のような例外は存在しない。)

第3項:発行本社による販売店への押し紙行為(注文部数を超えて供給すること及び自己が指示する部数を注文させること)を禁止。
http://www.jftc.go.jp/tokusyusitei/siryou060327.pdf


再販制度(再販売価格維持制度:独占禁止法第23条 1953年)

再販制度(再販売価格維持制度)とは、いわゆる「定価販売」を義務付ける法律の事です。新聞・書籍・雑誌・音楽CD・音楽テープ・レコードの6品目の商品は、著作権保護の観点から再販価格制度に指定されており、定価販売が義務付けられています。出版社側(メーカー)がそれぞれの出版物の小売価格(定価)を指定して、書店などの販売業者が指定価格通りに販売することを義務付ける制度です。
http://homepage3.nifty.com/bom-money/houritu/index.html


この二つの法令は、同じことを別表現で述べているにすぎない。特殊指定は「値引きの禁止」、再販制度は「定価販売の義務」だ。新聞販売というのは、独占禁止法の定める二つの法律によって、全国一律の定価販売を保証された。その定価を決めるのはもちろん新聞業界だ。つまり、新聞業界というのは、この50年間「談合」が許されてきたようなものなのだ。

しかし、この二つの法律は、決して談合を許してはいない。また様々な価格設定を禁じているわけでもない。長期割引や学生割引があってもいいということなのだ。にもかかわらず、三大紙はたったひとつの価格帯しかない。しかも三大紙の価格が一桁の単位まで同じだ。新聞業界は、都合の良いように勝手に法律を拡大解釈して事実上の「談合」を行ってきた。法律はそこまで許したわけではない。

競争があっても消費者不在の業界は多い。競争のない業界はもっと堕落する。いま、公正取引委員会は、「特殊指定」を撤廃して、資本主義の基本である競争を新聞業界にも求めている。

しかし、新聞業界は猛烈に反発している。言論の自由が脅かされるとか、宅配制度が崩壊するなど。言論の自由を蹂躙しているのは新聞業界そのものだ。大本営発表しか流さないのだから。宅配制度は、とっくのむかしに制度疲労をおこしている。新聞業界は、50年も守られてきたから、いまさら一人立ちする自信がないのだろう。経営努力をする必要がないぬくぬくした制度にしがみつきたいのだ。

他業界は激しい競争に晒されているにもかかわらず、新聞業界は50年間守られてきた。結局のところ、こうした制度が新聞業界と政府の癒着につながった。新聞業界は、既得権益を維持するために、常に政府のご機嫌をうかがい、大本営発表を垂れ流してきた。現在も新聞は小泉政権の応援団でしかない。それによって国民が不利益を被ってきたことは言うまでもない。

しかし、政府に忠実なこんな新聞業界に対して、なぜ政府機関である公取委が「特殊指定」撤廃に取り組んでいるのだろうか。少し不可解である。新聞業界は、小泉政権からご褒美をもらってもいいくらいの大活躍をしてきたはずだが。

公取委は、2003年に総務省から内閣府へ移っている。これはアメリカ政府の「年次改革要望書」に記載されていた。小泉首相はそれを忠実に実行した。公取委は、防衛庁、金融庁、国家公安委員会と並ぶ最重要機関に昇格した。公取委の意向とはすなわち、内閣の意向である。

これまでのところ、新聞業界というのは、非常に政府に協力的であった。しかし、今年に入って新聞業界は小泉首相が凋落傾向と読んだのかもしれない。今年2月に朝日新聞論説主幹・若宮啓文と読売新聞主筆・渡辺恒雄による対談が行われ(『朝日・読売の論説トップが批判 小泉靖国外交の危険な中身』)、両者は小泉首相の政策を正面切って批判したようだ。

「しかし、小泉という人は、ご存知のように、自分にさからう人間は、絶対に許さないというタイプの人ですから、この対談の論調に大反発したわけです。」
http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/tachibana/media/060216_gaiko/index1.html
内閣府直属の公取委による「新聞の特殊指定撤廃案」というのは、小泉首相から新聞業界への熱いメッセージなのだろう。いま、メディアが「共謀罪」に対して腰の引けた報道しかしていないのも納得だ。結局のところ、国民不在の内閣と国民不在の新聞業界との内輪もめというところだ。政府は、公取委を使っていつでも新聞業界を揺さぶることができるということだ。

そもそもこんな腐った優遇措置にいつまでもしがみつくような新聞業界には未来はないだろう。


特殊指定の見直しについて(公取委HP)
http://www.jftc.go.jp/tokusyusitei/index.html
公取委委員長に対する新聞側のインタビュー
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/shinbun/news/20060425ddm012040140000c.html
再販制度の存続を訴える新聞労連
http://www.shinbunroren.or.jp/hanbai/hanbai.htm


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