報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

コソボ紛争と石油の関係

2006年05月15日 23時00分06秒 | ■メディア・リテラシー
ミロシェビッチ元ユーゴ大統領、自然死と断定

 【ベルリン=黒沢潤】オランダの検察当局は(4月)5日、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(オランダ・ハーグ)の拘置所内で先月11日に死亡したミロシェビッチ元ユーゴ大統領の死因について、毒殺などではなく、「自然死」だったとする結論をまとめ、捜査を終了した。(04/06 08:15)
http://www.sankei.co.jp/news/060406/kok029.htm

ミロシェビッチ元ユーゴスラビア大統領は、大量虐殺や人道に対する罪で国際法廷で訴追されていた。そのミロシェビッチ元大統領が拘置所内で死亡したため多少憶測をよんでいた。しかし、彼の死因よりももっと重要な事実がある。

コソボ紛争とは何だったのか。
ユーゴ爆撃とは何だったのか。
その真相が明らかになる日はこないだろう。
しかし、ミロシェビッチが「民族浄化」の悪魔でないことだけは確かなようだ。

1999年3月24日、NATO軍は、旧ユーゴスラビアのセルビア人が、コソボのアルバニア人に対して「民族浄化」を行っているとして空爆を開始した。空爆は6月10日まで続き、民間人に大勢の犠牲者がでた。空爆は、「民族浄化」を止めるための人道的介入とされているが、はたして本当だろうか。


後年、欧州安全保障協力機構(OSCE)の国際政治専門家は、ドイツ政府の内部文書に以下のような記述を認めている。

「三月二十四日、NATOがユーゴスラヴィア空爆を開始、ベオグラードは、コソヴォのアルバニア系住民に対する暴力行為でこれに応酬する。だが、空爆が始まる以前、三月二十四日までのコソヴォでは、ユーゴスラヴィア警察によるアルバニア人への暴力行為がごく一部に見られただけであり、アルバニア人全体を対象とする『民族浄化』は存在しなかった」

p50

西側メディアは、(中略)セルビア人の脅威にさらされたアルバニア系被害者の数は何十万人にものぼると数字を挙げて解説する。戦後、コソヴォに入ったスペイン系法医学者グループが、コソヴォ紛争における死者の数は、国籍の区別なく集計して、全体で4000人程度だろうと発表している(後略)
p105
アンヌ・モレリ著『戦争プロパガンダ 10の法則』より

空爆以前に、「民族浄化」などはなかったのだ。存在しない理由でユーゴは空爆された。そう、ありもしない「大量破壊兵器」を口実にイラクが爆撃されたのとまったく同じだ。

西側メディアは、事実を曲げて、ミロシェビッチを「民族浄化」の悪魔にしたてあげた。そして、空爆への口実作りに全面協力した。おかげで、いまでもミロシェビッチは現代のヒットラーとして多くの人々の記憶に焼きついている。彼の死によって、それは正史として残るだろう。ミロシェビッチが善人だったとは言わない。しかし、それが空爆の理由にはならない。

NATO諸国はなぜ「民族浄化」をでっちあげて、ユーゴスラビアを空爆し、ミロシェビッチを失脚させたかったのか。その真相を探ることは難しそうだ。いまのところ、はっきりしたことは言えない。これからも、はっきりするかはわからない。

ただ、バルカン半島には、カスピ海の石油や天然ガスをアドリア海に運ぶパイプライン・ルートの構想がいくつもある。ちょうどコソボ上、あるいはコソボの近くを通るAMBOというパイプラインの計画もあった。AMBO計画にはエクソンモービルやシェヴロン・テキサコなどが参加していたが、後に撤退し計画は頓挫している。構想自体はいまも残っているようだ。アメリカの石油メジャーがバルカンのパイプラインルートを模索していたことは間違いない。NATO軍と言いながら、空爆の70%を米軍が担ったというのも納得できる。

石油メジャーにとっての重要課題は、カスピ海の豊富な石油をいかにして、積出港まで運ぶかだ。ひとつはアフガニスタンを経てパキスタンの積出港に至るルート。それから、トルコルート。そして、バルカンルートだ。石油メジャーはすべてのルートを手に入れたということだ。

メディアが、誰かを悪魔と呼ぶとき、たいていこういうカラクリがある。
ミロシェビッチ元大統領は、「民族浄化」の悪魔にされたまま獄中死してしまった。
そして、メディアは、これからも悪魔を生産し続けるだろう。


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2 コメント

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NATOによる空爆 (Mee)
2006-05-16 20:56:02
ベオグラードから、NATO軍による空爆の様子をインターネットで世界に向けて発信した女学生を取り上げたNHK特集を思い出しました。

http://www.nhk.or.jp/special/libraly/00/l0008/l0813s.html

世界中が「悪魔の仕業だ」と非難した虐殺。

そんな悪魔を止めるためなら、「少しの犠牲は仕方ない」という世論でした。

空爆の実態を生の声で発信した彼女のサイトには、沢山の書き込みが寄せられたそうです。



空爆の実態を知って、彼女を一生懸命励ます人々も居ましたが、非難の声もありました。



私が印象深く覚えているのは、NHKのカメラの前にジョギングをしながら現れたアメリカ人の中年の男性です。

明日の命も知れない彼女に対し、「あなたたちの民族は弱い民族を虐殺したのだから、空爆は当然の報いだ。」とのメッセージを送り続けます。

優雅にジョギングして、当たり前のようにご飯を食べ、平和な生活を享受している身分の人が、命の危険にさらされている人間に発することの出来る言葉だとは思えなかったです。



じゃぁ、アメリカ人は世界中の弱い民族を虐殺しているのだから、国中ボコボコにされても何も言えないよねぇ、とテレビを見ながら思ったのは私だけじゃ無いと思います。



戦争プロパガンダの下、何人の人が命を奪われ、何人の人が家を失ったのでしょうか。ぞっとします。
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Meeさんへ (中司)
2006-05-16 23:18:47
この番組は僕も見た記憶あります。



メディアのプロパガンダの影響力はほんとにすごいです。

爆弾がどかどか落されても、そこに人が住んでいると感じさせないのですから。

それどころか、それが正義の行いと感じるのですから。



爆弾を落したものだけでなく、積極的に捏造報道をし続けているメディアも戦争犯罪を問われなくてはならないでしょう。



メディアはいったい何人の市民の命を奪ったかわからないです。
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