報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

「冷戦」後の巨大な鉱脈=「対テロ戦争」

2005年07月18日 23時49分36秒 | ■対テロ戦争とは
<都合のよい「事件」>

 ロンドンの同時爆破事件については、早くも様々な憶測が流れ始めている。

 911事件においては、すでに万をこえる検証が行われている。かなり説得力のある良質な検証も数多くある。911事件はあまりにも、不可解な事例、現象が多い。そのような事例や現象の背景や原因を検証することは重要だ。ロンドンの爆破事件についても、同様の検証が始まっていると思う。いずれ信頼すべき情報がネット上に掲載されるに違いない。そこから、誰でも一定の結論を導き出すことができるだろう。しかし、個々の事件を解明するだけでは、あまり意味がない。単なる、謎解きごっこに終わってしまう。

 911事件後の、アメリカ政府の発言や動きからは多くのことが読み取れる。アフガニスタンでは悲願のパイプライン建設が進み、イラクでは埋蔵量世界第二位(世界最大であるとも言われる)の油田を手に入れた。そしてイラクの石油決済通貨をユーロからドルに換えた。しかし「大量破壊兵器」は永遠に見つかりそうもない。存在するかしないかもわからない「アル・カイーダ」との関係も立証されなかった。ここで一番重要なのは911事件によって、アメリカは欲しいものをすべて手に入れたということだ。
 石油や決済通貨、軍需は「目的」ではなく、単なる「結果」だという意見もある。しかし「結果」としてたまたまついてきたオマケにしては、あまりにもアメリカばかりが得をしていないか。

 では、911事件がなかったと考えたらどうなるだろうか。
 アフガニスタンにパイプラインを作ることはできない。
 したがって中央アジアの石油は手に入らない。
 イラクの石油は手に入らない。
 石油決済通貨はユーロのままであり、中東諸国はイラクに続いてユーロに乗り換えただろう(ロシアはとっくに石油決済通貨をユーロ建てにしている)。
 基軸通貨ドルの地位は揺らぎ、世界の経済圏をユーロと二分することになる。
 軍需産業は凋落する。
 つまり、エネルギー資源、軍需、基軸通貨ドルというアメリカの屋台骨がグラグラになるということだ。

 実に都合よく911事件は起こったと言える。

 冷戦終結による「共産主義の脅威」がなくなり世界は平和に向かって前進するかと思いきや、実に都合よく「ならず者フセイン」が出現した。そしてビン・ラディンが登場し、そして「アル・カイーダ」の文字がメディアの中で踊った。またもやアメリカが世界のリードをとり「対テロ戦争」を戦うことになった。

 戦争や紛争に突入するきっかけとなった事件はいくつもある。盧溝橋事件、パールハーバー、トンキン湾事件、911事件・・・。
 しかし、なぜか世界を平和にする事件は存在しない。
「和解、友愛、平和」は富と権力に繋がらないからだ。
 逆に「不和、憎悪、戦争」は富と権力を生む。
 思想や宗教や民族は利用されているに過ぎない。
 すべては、富と権力の問題なのだ。
 そして必要なときに必要な「事件」が必ず起こる。

< 幻想の産物、共産主義の脅威 >

 85年のゴルバチョフの登場から、ソビエトは崩壊に向かっていた。89年のポーランド、ハンガリーの民主化を皮切りにベルリンの壁が崩壊、そして、1991年「悪の帝国」ソビエト連邦は崩壊した。この一連の動きの中で、90年に第一次湾岸戦争が起こっている。これは決して偶然ではない。

 もともとイラクとアメリカとは友好関係にあった。イ・イ戦争時はアメリカはイラクを支援した。フセインとしては、クウェート侵攻に関して、アメリカからの承認を得たと考えていた。駐イラク米大使は、「イラクとクウェートの関係について、アメリカは介入する気はない」とフセインに口頭で伝えている。国際政治の世界では、これは「GO」サインと同じである。クウェートを好きにしなさい、ということだ。しかしこれは、罠だった。イラク軍がクウェートに侵攻すると、とたんにアメリカはイラクを非難し、クウェートを救うために、イラクを爆撃し多くのイラク市民を殺害した。このときもメディアを使ったディスインフォメーションが行われている。「原油まみれの水鳥」はサダムとは関係がなかった。イラク軍による保育器の赤ん坊殺しもまったくの作り話だった。
 世界中に「極悪フセイン」というイメージづけが行われた。
 湾岸戦争は、今日の「対テロ戦争」の布石だと言える。

 重要なのは、「冷戦」の終結の過程で、「ならず者フセイン」が突然クローズアップされたということだ。「悪の帝国」ソ連邦の崩壊は、アメリカにとっては悪夢だった。敵がいるからこそ、アメリカは黙っていても西側世界の覇者として君臨できた。はてしない軍拡競争で、放っておいても軍需産業は儲かった。「悪の帝国」と対抗できるスーパーパワーはアメリカしかいない。共産主義と核の脅威によって、世界はアメリカの傘下に入った。

 おかげでアメリカは毎年、巨額の財政赤字、国際収支赤字を出そうとも、世界が即座に穴埋めしてくれる。アメリカの弱体は、世界の安全の危機だからだ。アメリカは世界で唯一、赤字を気にすることなくはてしなく浪費を続けることの出来る国となった。他の国なら、とっくに国家破綻だ。アメリカは「冷戦」によって、尽きることのない鉱脈を手に入れた。

 つまり、アメリカとしては、共産主義と核の脅威を煽れば煽るほど世界を意のままに操れたのだ。実際、アメリカはソ連邦の脅威を過剰に宣伝した。赤い国からのスパイを描いた映画や小説が量産された。その中で赤い国は、極悪で冷酷で非情、しかも強力で優秀と描かれている。しかし、ソ連邦が崩壊したとき、そのあまりのあっけなさに、世界は驚嘆した。「悪の帝国」は内部から勝手に崩壊するほど脆弱だった。

 共産主義の脅威がなくなったということは、アメリカにとって富と覇権を生むあらゆる前提が崩れたことを意味する。核配備、軍事増強の必要性はもはやない。西側諸国にとっては、アメリカの庇護下に入る必要もない。「悪の帝国」の崩壊は、すなわちアメリカの富と覇権の終焉を意味した。
 アメリカは次の鉱脈を掘らねばならなかった。
 それは「ならず者フセイン」として試掘がはじまった。
 そして、ナイロビ米大使館爆破事件、タリバーンとオサマ・ビン・ラディン、911事件、アフガニスタン戦争、イラク戦争へと掘削が続いた。

<新たな鉱脈=「対テロ戦争」>

「対テロ戦争」という鉱脈は、まだまだ地中深く続いている。
 最終的には世界中が「テロ」の脅威を現実的なものと感じなければ意味がない。これから、世界各地で「テロ」が勃発する。あるいは、「テロ計画」が未然に阻止され、「テロリスト」が逮捕される。そしてかつて、世界中の人々が心の底から共産主義を恐れ、憎悪したように、「イスラム」を恐れ、憎悪するようになる。
 イスラム教徒というだけで、多くの人々が迫害される。特にアメリカやヨーロッパのイスラム教徒の移民は徹底的な迫害を受ける。そして、彼らは職を終われ、ビジネスを失い、教育の機会を奪われ、家を追われる。恒常的な暴力の脅威におびえ、生活を破壊される。彼らは追い詰められていく。その帰結は明らかだ。多くの若者が、極端な行動に移る。つまり、目には目をだ。こうして、「テロ」の悪循環がはじまる。
 すでに、ロンドンの爆弾事件では、英国のイスラム社会に対する暴力と迫害と脅迫がはじまっている。殺害事件も発生している。

 イスラム国家は、アメリカの政策に従わねば、存立できなくなる。中東諸国は、すでにアメリカの衛星国家となりはじめている。こうした国々は必要に応じて、「テロ志願者」「テロ容疑者」を供給しなければならない。
 今回のロンドン爆破事件の「実行犯」とされている人物はすべてパキスタン系英国人であり、パキスタンとアフガニスタンで訓練を受けたとされている。現在最もアメリカの影響下にあるイスラム国家はパキスタンとアフガニスタンだ。双方ともシナリオどおりの演出をしてくれるに違いない。

 ロンドン爆破事件の真相を究明する作業も大切ではある。
 しかし、911事件やロンドン爆破事件、アフガニスタン戦争、イラク戦争が何を意味するかを理解しなければ、ただの謎解きごっこに終わってしまう。

「対テロ戦争」とは、冷戦に換わる富と覇権の「鉱脈」だ。
 共産主義の脅威に踊らされ、資源や富を奪われ続けたように、いま、世界は「テロ」の脅威に踊らされている。イスラム教徒を憎み、恐れることは、自らの主権と富を投げ捨てる行為にほかならない。そしてその陰で、ごく一部の者だけが、途方もない利益を得ていくのだ。

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お邪魔します (ちゅうたしげる)
2005-07-21 12:43:37


わたしはロンドン爆破事件は、国家権力による謀略事件だと見ています。

 先日 国際ジャーナリストの田中宇が同様の見解をWEBサイトに発表しました。
返信する
URLまちがいました (ちゅうたしげる)
2005-07-21 12:47:59


HPのURLまちがいました。

田中宇はYAHOOで検索できます。
返信する
ちゅうたしげるさんへ (中司)
2005-07-21 14:30:34
コメントありがとうございます。

田中宇氏らしい周到な展開です。

結論部分はまさにそのとおりだと思います。

「対テロ戦争」は何十年も先を見越した政策です。

我々人類の未来に暗澹たるものを感じます。
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